第10話「思わぬサプライズ」

「――誠司、ご飯食べに行こ?」


 お昼休み、いつものように笑顔で風見さんが誘いに来た。

 おかげで、教室の温度が数度上がる。


 周りの男子たちが、嫉妬の炎を燃やしているからだろう。


「俺、今日弁当だし、教室で食べようと思っていたんだけど……」


 普段はご飯がないため、食堂まで行っていた。

 しかし弁当がある今、わざわざ食堂まで足を運ぶ必要はない。

 夏ということで外は暑いのだし、できるだけ教室を出たくなかった。


「う~ん……それはまずいというか、かなりまずいんだけど……」


 何やら、風見さんが難しい表情で考え始める。

 俺が教室で食べることを嫌がっているようだ。


 一緒に食べたい――というのが理由ではない気がする。


「まさか、やっぱり変なものを入れていたの……!?」

「ち、違うよ……! 変なものは入れてないから……!」

「変なものは!? 何か入っているって言っているようなものじゃないか……!」

「そりゃあ、入ってるよね……? おかずが……」


 そうわざとらしく首を傾げる風見さん。

 少し汗をかいており、あからさまに俺から目を逸らしている。


 うん、絶対何かあるな。


「――ねぇ、あのやりとり……」

「うん、絶対そうだよ……!」

「だよね!? やっぱり、愛妻あいさい弁当じゃ……!」


 風見さんの様子を怪しんでいると、何やら女子たちがざわつき始めた。

 なんだろう、やけにみんながこちらを注目しているな……?

 まさか、クラスぐるみの罠が……!?


「えっと……とりあえずね、ここで開けるのはやめたほうがいいと思う……」


 バツが悪そうにしながら、風見さんは止めてくる。

 確かに、クラスの連中まで絡んでいるなら、ここで開けるのは良くない。

 だけど、グルならどうして風見さんは止めようとしてくるんだ?


 もしかしてこれは演技で、こうすればひねくれ者の俺がここで開けると思っているのかな?


「…………」

「あぁ、誠司の悪い癖が出てる……。考えすぎて、ドツボにハマってるよ……?」

「君が元凶な気がするんだけど……?」


 開けると何かやばそうなものがあるから、こうして俺は考えているわけだし。


「うっ、それはそうかもしれないけど……。ほんと、悪意がないってことだけは言っておく……! あと、ここで開けると絶対私が怒られるから、開けないでくれると嬉しい……!」


 うん、今の発言で確信した。

 絶対に俺に恥をかかせるものがこれには入っている。


 となれば、わざわざみんなの前で開けて、恥をかく必要はないだろう。

 しかし、当然みんなの前で弁当箱を突き返すわけにもいかない。


「場所、移そうか……」

「うんうん! それがいいよ……!」

「言っておくけど、中身に入っているもの次第では、みんなの前関係なく怒るからね……?」


 さすがに危害を加えるものではないと思うし、お礼という以上は食べられるものが入っているはずだ。

 ただそれでも、疑わずにはいられない。

 覚悟だけは決めておいたほうがいいだろう。


「とは言っても、どうするかな……? これ、食堂に行ったらさらに悲惨な目に遭うでしょ……?」


 昼食を食堂で取る生徒は多く、いつも長蛇の列に並んで食事をしている。

 それはつまり、この教室にいる生徒たちよりも圧倒的に多い生徒が食堂にいるというわけだ。

 そんな中、恥をかかされるようなものが出た場合――うん、想像しただけで絶望しかない。


「私としては、屋上がいいかなって……?」

「こんな暑いのに……?」

「ほら、日陰になってるところはあるし、みんな暑くてこないから、ちょうどいいと思うの……!」


 誰にも見られない、という点ではちょうどいいだろう。

 それと引き換えに、汗をかきながら食べることになるわけだけど……。


「わかった、屋上で食べよう」

「ほんと!?」

「みんなに見られないことを優先したいし、一応、弁当を作ってくれた風見さんの要望は聞いておきたいからね」

「ふふ、ありがと……!」


 風見さんはとても嬉しそうに笑う。

 よほど屋上がよかったのだろう。

 しかし――。


「だけど、その分この中身によっては、容赦なく怒るからね……?」


 そのための、気遣いだ。


「う、うん、だいじょうぶ……」

「声震えているし、目をあからさまに逸らしているんだけど、本当に大丈夫なの……?」

「うん、悪意はないから……。そう、調子に乗っただけで……」


 なぜだろう?

 聞けば聞くほど、不安になってくるんだけど……?


 その後俺たちは屋上に上り、日陰のいい位置に座った。

 そして、意を決して弁当箱を開けると――。


「ハ、ハート型……!?」


 白ご飯の上に、ピンクのふりかけらしきものがかけられて、大きなハートを作っているのだった。

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