第9話「女子の手料理は男子の憧れ」

「弁当……!? まさか、毒入り……!?」

「なわけないでしょ! 私をなんだと思ってるのよ……!」


 心外とでも言わんばかりに、風見さんが顔を近付けてくる。

 まじで近い。


「いや、さすがに毒は言いすぎたけど……変なものでも入っているんじゃ……?」

「私に対する信用がなさすぎでしょ!?」


 むしろ、信用があると思っていたのだろうか?


「やめてって言ってもやめてくれないし、突然抱き着いてくるし」

「うぐっ……!」


「俺をからかって楽しんでいるし」

「それは誤解! からかってないし、楽しんでもない!」


 本当だろうか?

 いつも楽しそうに笑みを浮かべながら、抱き着いてくるのに。


「と、とりあえず、本当にこのお弁当は大丈夫だから……! その、昨日のお礼だし……!」


 ジィッと見つめると、慌てたように風見さんが弁当箱を渡してきた。

 慌てているから、後ろめたいことがあるんじゃ?

 と思うが、お礼と言われたら受け取らないのは失礼だ。


「それじゃあ、有難く受け取るんだけど……どうして、ここで? 昼休みの時でもよかったんじゃ?」

「そんなことしたら、注目の的になるっていうか、冷やかされるし……!」


 うん、周りから冷やかされることをいつもやっている子が、今更何を言っているのだろう?

 おかげで俺は女子からはからかわれ、男子からは凄く嫉妬されているんだけど?


「…………」

「い、言いたいことはわからなくもないけど、そんな目を向けてこなくてもいいじゃん!?」


 いったい彼女の目には、今の俺がどう映っているのだろうか?

 とりあえず、言いたいことはいろいろとあるよ?


「まぁ、でも……うん、正直素直に嬉しいよ」


 だって、女子の手料理って初めてだし。

 俺だって男なのだから、女子の手料理に一定の憧れはあるのだ。

 ましてや、彼女が料理上手っていうのは、調理実習や女子の噂で知っているし。


 ……本当に、変なもの入ってないよね……?


「あの誠司が素直に喜ぶなんて……! 私の風邪が移って熱があるんじゃ……!?」


 ……うん。


「君ってさ、やっぱり俺のことを馬鹿にしてるよね?」


 大袈裟に驚いている風見さんを、俺は再度見つめる。


「い、いや~、誠司の反応が意外だったもので……」


 風見さんは人差し指を合わせながら、気まずそうに目を逸らした。


「これ、返すよ」

「ごめんってば……! ほんと、意外だっただけで、悪気とかはないんだって……!」


 弁当箱を返そうとすると、風見さんは一生懸命押し付けてきた。

 この場合、悪気があるのとないの、どちらが悪いのだろうか?


「素直に喜べなくなった……」

「ごめんごめん。おいしく作ってるから、許してください」


 まぁお礼だというなら、おいしく作られているとは思うけど……。


「うん、まぁあまり引っ張ってもよくないね。ありがとう、頂くよ」


 結局俺は、有難く受け取ることにした。

 さすがに作ってくれたものを、食べずに返すわけにはいかないと思ったからだ。


 ……本当に、大丈夫だよね……?

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