第5話「かまってほしたがりな姉妹」
「せいちゃん、おままごとしよ?」
風見さんの部屋に入れてもらうと、美海ちゃんが笑顔でおままごとセットを持ってきた。
やはりこの年頃の女の子だと、おままごとが好きなようだ。
「もちろん、いいよ」
素直でかわいい幼女が相手なので、俺は笑顔で対応する。
弟や妹がいない俺には、甘えたがりの美海ちゃんがとてもかわいく見えていた。
ニコニコの笑顔なんて、本当に見ていて癒される。
「ごめんね、誠司……」
逆に風見さんは、申し訳なさそうにしていた。
普段自由人かのように俺をからかってくるのに、この家で見る彼女は別人のようだ。
妹がいるから、お姉さんになっているのかもしれない。
「いいよ、俺が部屋にあげてもらったわけだし。風見さんはベッドに寝て休んでて」
俺は買い物袋からスポーツドリンクを取り出し、風見さんのベッドの上に置く。
他にも冷却シートを取り出して、風見さんに渡した。
「…………」
「ん? どうかした?」
冷却シートを見ながら、チラチラと風見さんが俺の顔を見上げてくる。
いったい何を考えているのだろうか?
「あ、あ~、これ、私が自分で貼ろうとすると、難しいな~?」
そして、何やら棒読みで下手な演技を始めた。
うん、何を言っているんだ、この子?
「鏡を見てやればいいんじゃないかな?」
彼女の部屋には大きな鏡があったので、俺はそれを指さす。
しかし、何が
「美海と私に対しての態度が、違いすぎる……」
なるほど、対応の仕方に不満を持ったというわけか。
「そりゃあ、幼い子には優しくするもんだから」
「ロリコン」
「――っ!?」
ボソッと不満げに言われた一言。
さすがにこれは聞き捨てならなかった。
「いやいや、全然ロリコンじゃないから! 幼い子に優しいからって、そうやってすぐロリコン扱いするのはどうかと思うよ!?」
「ふ~んだ」
「くっ、聞き耳を持ってないな……!」
あからさまにプイッと顔を背けられ、俺は納得いかない気持ちになる。
しかし――相手は病人だ。
今日くらいは、優しくしよう。
「わかったよ、冷却シート貸して」
「――っ!?」
手を差し出すと、風見さんはとても意外そうに俺のほうを振り向いた。
そんなにおかしいかな、俺が貼るって言うのが?
「嫌ならやめるよ?」
「う、うぅん……! お願いします……!」
風見さんは必死な様子で、俺に冷却シートを渡してきた。
顔が真っ赤になっているのだけど、よほど熱が上がっているようだ。
「前髪あげて」
「はい……」
彼女は意外と素直に従ってくれる。
だから俺は、彼女のおでこに貼ろうと近づくが――。
「「…………」」
顔が近い距離にきてしまい、なんだかとても気まずくなった。
こうしてみると、風見さんってやっぱりまつげが長いんだな。
瞳は熱によって潤っており、正直凄く色っぽい。
現在彼女はマスクをしているので、勢いに任せた間違いは起きないけれど、思わず勘違いしそうなくらいに魅力的だ。
「あ、あの……?」
「あぁ、ごめん」
風見さんに声をかけられたことで我に返り、俺は焦りを見せないようにしながら、彼女の額に冷却シートを貼る。
それによって、彼女は――。
「えへへ……」
何やら、嬉しそうに額を手で押さえていた。
そんな彼女を見ていると、やっぱり勘違いしそうになる。
「――せいちゃん、みうも……!」
風見さんを見ていると、何やら美海ちゃんが一生懸命俺の服を引っ張ってきた。
「えっ、もしかして、冷却シート?」
「んっ……!」
どうやら、美海ちゃんも冷却シートを貼ってほしいようだ。
しかし、この子は熱を出してないわけで……。
「これは、熱を出した時にするものだから……」
「…………」
「うっ……」
断わろうとすると、無言で悲しそうな目を向けられてしまった。
正直、この目はずるいと思う。
こんなの、言うことを聞いてあげたくなるじゃないか。
「それじゃあ、辛くなったら剥がすんだよ?」
俺はもう一つ冷却シートを取り出してはさみを借り、美海ちゃんのおでこのサイズに合わせて冷却シートを切った。
「美海ちゃん、自分で貼る?」
「はって……!」
うん、美海ちゃんも俺に貼ってほしいようだ。
多分姉が貼ってもらう姿を見て、羨ましくなったのだろう。
「それじゃあ、おでこを出して」
「んっ……!」
美海ちゃんは元気よく前髪をあげる。
そして、丁寧に貼ってあげると――。
「ひやってする……!」
冷却シートを貼ったことがないのか、驚いていた。
なんだろう、一々かわいいな、この子。
「……やっぱり、ロリコンじゃ……?」
「そこ、変な誤解をしないで」
美海ちゃんとのやりとりを見ていた風見さんがジト目を向けてきたので、俺はすぐに訂正をしておく。
少なくとも、この子を恋愛対象と見ることはないので、俺はロリコンではないのだ。
「それよりも、早くベッドに寝なよ。体調が悪いんでしょ?」
「私には塩対応なのに……」
「そんな不満そうな目を向けられたって、どうしようもないよ」
変なことを言ってきた、風見さんが悪いのだ。
それからの俺は、ベッドに入ったままジト目を向けてくる風見さんの視線に困りながら、美海ちゃんとおままごとをするのだった。
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