第8話 等身大のマッスルシール!?

「分かったざますね、クバリ! 明日を楽しみにしているざますよ!」


「はいはい、分かりましたよ……」


「よろしいざます! では、私ちゃんは帰るざます! サラダをビュッフェスタイルで提供する方式ざます!!」


「はぁっ!? 何を言っているんですか、神様!?」


「クバリのアニキ、それはサラダバーのことなのではでごわす」


「ハイテー、大正解ざます!!」


「ええっ!? サラダバー!? それを言うなら、さらばだでしょ!?」


「いまのツッコミは、まあまあ良かったざますよ!」


「それはどうも!」


「では、また会おうざます!!」


「えっ!? さらばだとは言わないんですか!?」


 神様の声は聞こえなくなった。


 結局、言わないのかよ!?


 まあ、そんなのどうでもいいか!!



「くっ、明日やるしかないのかよ!?」


「大人しくアレ味の聖水を飲むという手もあるでごわすよ」


「それは遠慮したいなぁ……」


「なら、やるしかないでごわすね」


「そうだな」


「クバリのアニキ、もう二三時でごわすよ。明日に備えて、寝た方が良いでごわす」


「だが、準備ができてないだろ」


「そこは自分さんがやっておくでごわす」


「そうか。すまないな、ハイテー。それじゃあ、お言葉に甘えて寝させてもらうよ。おやすみ」


「おやすみなさいでごわす」



 次の日。


 目を開けると、天井にファイティングポーズを取っているハイテーがいた!?


 いや、あれは等身大のシールか!?


 なんであんなところに貼ってあるんだ!?


 ええっ!?

 四方の壁と床にも、同じものが貼ってあるぞ!?


 あれはいったいなんなんだ!?



「クバリのアニキ、おはようでごわす」


「ああ、おはよう、ハイテー。あのシールは、なんなんだ?」


「あれは『マッスル防音シール』でごわす」


「なんだそれは!?」


「天井、壁、床に貼ると、その部屋が防音室になるシールでごわす」


 ええっ!?


「これで大声を出しても、近所迷惑にはならないでごわす」


「そうなのか…… ありがとう、ハイテー」


「どういたしましてでごわす」


 ハイテーはこんなこともできるのか。


 さすがは魔法だな。



「さあ、クバリのアニキ、朝食を取って、発声練習をした方が良いでごわすよ」


「そうだな」


 朝食を作って、ハイテーとともに食べた。



 よし、発声練習をしよう。


 ええと、発声練習って、何をすればいいんだ?


 ちょっと調べてみるか。



「ほう、発声練習の方法を探しているのざますか」


 どこからともなく神様の声が聞こえてきた。


「その通りですけど、それが何か?」


「仕方ないざますね。私ちゃんが発声練習の方法を教えてあげるざます!」


 神は生物たちに手を貸してはいけないとか言ってなかったっけ?


 まあ、いいか。


「ありがとうございます。では、お言葉に甘えさせていただきます。何をすれば良いのですか?」


「最初にストレッチをするざます。これは声を出やすくする効果があるざます」


「そうなんですか。それで、具体的には何をするのですか?」


「まずは自分の体をきりもみ回転させて、地面に突き刺さるざます」


「はぁっ!? 何を言っているんですか!? それ、神のストレッチなんじゃないですか!? 人間用を教えてくださいよ!?」


「いまのは、実に良いツッコミだったざますよ!」


「ああ、いつものボケでしたか」



「それで、ストレッチは何をするんですか?」


「まずは舌を思いっ切り出すざます」


 俺は言われた通りにした。


「次は鼻の両穴に、人差し指を入れるざます」


「なんでそんなことを!?」


「いいからやるざます!」


「分かりましたよ……」


 言われた通りにした。


「最後に目だけで上を見るざます」


 言われた通りにした。


「これで変な顔の完成ざます!!」


「ええっ!? ストレッチじゃなかったんですか!?」


「ストレッチでもあるような気がしないでもないような気がするようでしないざます!!」


「意味が分かりませんよ!?」


 結局、ストレッチではないんじゃないか!?



「神様、真剣にやってくださいよ!」


「失礼ざますね! やってるざますよ!!」


「ええっ!? あれでですか!?」


「私ちゃんは、いつも真剣にボケているざます!!」


「そっちじゃなくて、発声練習ですよ!?」


「仕方ないざますね。じゃあ、姿勢を正すざます」


「はい」


「次は両手を上げるざます」


「はい」


「思いっ切り息を吸うざます!」


 言われた通りにした。


「そして、人体の出口から全力で放出して、宇宙まで飛ぶざます!!」


「何言ってんですか!? そんなので飛べるわけないでしょ!? そんなのできるのは神だけでしょ!?」


「失礼ざますね! 神はそんなことしなくても宇宙くらい行けるざますよ!!」


「そういう話じゃないですよ!?」



「やる気がないなら、帰ってくださいよ! こっちは忙しいんですよ!」


「失礼ざますね! 私ちゃんはやる気がありすぎて、さっき全部捨てたくらいざますよ!!」


「それ、いまはやる気がないってことじゃないですか!?」


「そんなことはないざます! さあ、次の練習をするざますよ!!」


「はいはい、分かりましたよ」



「クバリは腹式呼吸というのを知っているざますか?」


「聞いたことはありますね」


「いまからそれをやるざます」


「どうやるのですか?」


「まずはペンを用意するざます」


「えっ!?」


「次に腹に口の絵を描くざます」


「はぁっ!?」


「そして、そこから呼吸をするざます!!!」


「それ絶対、腹式呼吸ではないでしょ!?」


「腹で呼吸しているのだから、腹式呼吸と言い張ることはできるざます! あとは、勢いで押し切るざます!!」


「なんですか、それは!? 屁理屈の言い争いですか!? そんなことをしている場合じゃないでしょ!?」



「つ、疲れた…… もう帰ってくださいよ……」


「どうやら声が出るようになったようざますね」


「えっ? どういうことですか?」


「これがツッコミ発声練習法ざます! エンターテイナーとしての修行もできる最高の発声練習法ざます!!」


「ええええええええええええええええええええええええっ!?」


 そんなことをさせていたのかよっ!?

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