第一章:スレイプニール・エージェント/03

 エイジに連れられて歩く学院の中は、まだ日も高いというのにがらんとしていた。

 どうやら今は授業中のようだ。そんな人気ひとけのない学院を、二人はエイジに連れられて歩いていた。

「学院エリアは広いですからね、何せ島ひとつ全部がエリア内ですから。お二人もここに来るまで迷われたんじゃありませんか?」

 ウェインたちに学院を案内しながら、エイジは爽やかな笑顔を浮かべて言う。

「ふふっ、僕もここに来た頃はよく道に迷ったものです。学内には案内板も多くありますし、端末にもナビゲーション機能がありますから、慣れるまでは是非活用してくださいね」

 微笑むエイジに連れられる形で、ウェインとフィーネは授業中のがらんとした学院エリアをあちこち歩き回る。

 さっきまで居た大きな校舎は当然として、やたらと広いグラウンドに食堂棟や購買、体育館やトレーニングジム、大きな屋内プールなど、これからの学院生活で頻繁に使う施設や、覚えておくと便利な場所が中心だ。

 学院エリアにはそれ以外にも細々とした施設や、併設されている研究機関のためのラボやプラーナ研究用の設備といった施設もあるらしいが……後者に関しては学生が関わることも少ないので、実際に行きはせず口頭での説明に留まった。

「それにしても、この時期に転入とは珍しいですね」

 そうして大方の説明が終わった後、三人で歩きながら……ふとエイジが思い出したように問うてくる。

「ええ、本来ならもう少し早く転入してくる予定だったのですが、私もウェインも色々と事情がありまして、この時期に」

 と、フィーネは飛んできた彼の質問に答える。

 するとエイジは「そうでしたか……」と、今の説明に納得した様子でコクコクと頷く。

 ――――エイジ・モルガーナは、二人の正体を知らない。

 理事長が言っていた通りだ、と横でやり取りを聞いていたウェインは思う。二人が潜入捜査に来たスレイプニールのエージェントだということを知るのは、学院内でも理事長だけ……というのは、どうやら本当らしい。

 無論、今フィーネが口にした理由も適当にでっち上げた口実だ。書類上はそうなっているらしいから、間違いでないといえばないのだが。

「まあでも、お二人なら問題ないでしょう。高い素質をお持ちだと理事長からも伺っていますし。……確か、もうご自分のナイトメイルを?」

「はい、一応」

「でしたら問題ありませんね。……っと、もうこんな時間ですか。案内すべきところには案内したと思いますし、そろそろ学生寮に向かいましょうか」

 フィーネがコクリと頷いて肯定する傍ら、腕時計をチラリと見たエイジはそう言うと、学院案内ツアーを切り上げて学生寮の方へと足を向ける。

 ――――敷地が広大なだけあって、学生寮もかなりの規模だ。

 エーリス魔術学院は国内だけに留まらず、世界中からも数多くの留学生を迎え入れている。当たり前ながら自宅通学を選ぶ者も多い中、学生寮への下宿を選ぶ者もかなり多い。外国からの留学生なら尚更のことだ。

 そんな学生寮の外見は、まるで高級リゾートホテルのような感じだ。流石に帝国屈指のレベルを誇る教育機関、世界にその名を轟かせるエーリス魔術学院なだけのことはある。この学生寮だけで何百人の学生を収容できるのか……とても想像がつかないほどだ。

「ここが学生寮です。部屋の場所などは理事長からもう伺っていますね? お渡しした端末が部屋のキー代わりになりますので、その辺りもお気をつけて。今日は来たばかりですし学院の案内のみで、本格的に授業へ参加して頂くのは明日からになります」

「色々とありがとよ、先生」

「ご丁寧に、感謝します」

「いえいえ、これも教師の務めですから。では私はこれで。明日からよろしくお願いしますね?」

 学生寮の前でそれぞれ礼を言う二人にニコリと微笑みかけて、エイジはくるりと踵を返し歩き去っていった。

「にしたってマジで広いなこの学院、あちこち歩き回んのも疲れるな」

「とりあえず部屋に行くぞ、ウェイン。確か私たちの部屋は……」

「あっちだあっち、部屋番は確か203号室だったろ?」

「うむ、そうだったな。では行くとしようか」

「おうよ」

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