第20話 カモノハシに会えなかったので

 半分くらいの人達が食事を終えて席を立ち始めたタイミングで、レストランのスタッフさんが、空いた皿を片付けだす。

オカンの皿もスタッフさんが下げても良いか?

と聞いてくれる。

サラダの葉っぱが少し残っていたが、それほど食べたいと思っていなかったので

OKサインをだした。

すると斜め向かいの優しいアンソニーが、まだ食べ終わってないんだからOKしなくてもいいんだよ。と真剣な表情で言ってくれる。

良い人だなぁ。

と思いながら笑ってごまかしてしまった。

相手の優しさにきちんと答えられない英語力のなさに情けなさを感じるが、きっと日本に帰っちゃえば忘れて勉強しないんだろうな。

ちょっとだけ自己嫌悪に陥る。


 そんなアンソニーもどうやら奥様とカモノハシの池を見に行ったらしく、気付くとテーブルには、コドオと二人になってしまっていた。

 小さな建物のところにほんの少しの土産物があり、そこの売り物を手に取り はしゃいでいるマダム方を見て私達もつられて行くことにした。

なかなか可愛いカモノハシのぬいぐるみで、どこかで見たことあるな。

と思っていたら、映画の『ファンタスティックビースト』のやたら光物ひかりものを好む魔法動物に似ていた。


「これ、むーちゃんのお嬢さんにどうかな?」

「ええんちゃう」

むーちゃんとは、オカンの20歳年下の親友で、そろそろ昼飲みしようと数年ぶりに約束した日がこの旅行の日と被ってしまい、お詫びのしるしになんとしてもお土産を買わねばならなかった。

 むーちゃんは、もう20年くらい友達でいてくれるだけ、とっても優しいから全然怒らなくて、お土産も辞退してくれていたが、どうしてもというオカンに

『それなら、娘にアレルギーがあるのでお菓子ではなく、もちろん小さくて構わないのでなにかオーストラリアらしいものを頂けたら嬉しいです』

と云ってくれていた。

義理果たせたな。

とひとりごちているオカンに

「さっきな、ベイリーズの話ししてるとき、オカンウィスキーグラスに氷をいっぱいに入れてベイリーズをたっぷりかけて飲もうって思ってたやろ」

「うん。そやで。

皆さんそう教えてくれてはったやろ」

「あのアイスって云わはったん、アイスクリームやからな。

あれ、アイスクリームにかけたら美味しいねん」

「ああ、だからすごく美味しいデザートになる。

って云ってはったんか。

デザートワインみたいに飲むんかと思ったわ」

コドオなりに気を遣って会話中ではなく、後で教えてあげようと思ってくれたようだ。

 が、しかし、同じ気を遣うなら、ライクの使い方を間違えた時フォローして欲しかった。

と訴えたいオカンであった。

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