第9話 いざ出発もすんなりといかず

ケアンズ行きヴァージンオーストラリア航空は、羽田出発なので伊丹空港からのANAで向かうつもりだった。

中身はほとんど入ってないとはいえ、大きなスーツケースを真夏の炎天下の中引っ張って歩くのは辛いだろうから、家から駅まではタクシーに乗ろうと思い、出発3日前に予約しようとした。

が、私達が駅に着きたい15時前後は、ちょうど午前中と夜間のタクシーの運転手さんの切り替え時で人手不足の時間帯らしく3つの会社に断られた。

そもそもコロナ禍以降慢性的に運転手さん不足らしい。


私たちは本当は、ANAの飛行機が取れるのと同時にタクシーを予約しなければならなかったのだ。

コドオにそのことを伝え二人でいろんな方法を探ったが良い案はなく、結局駅まで普通なら徒歩20分のところを早めに出てのんびり歩こうということになっていた。


家を出て住宅地を1分も歩かないうちにコドオが

「あ、サングラス忘れた」

という。

「時間まだまだ余裕やから、取りに帰ったら?

どうせ母の方が歩くの遅いからぼちぼち行っとくわ」

「ごめん。そうして」

「あ、スーツケース」

「いいの?」

といってスーツケースを私に渡すとコドオは、家の方へ走って行く。

「暑いから走らんで良いよ」

 踵をかえし、二つのスーツケースをゴロゴロと引っ張って2.3分歩いていると、すうっと私の横を、お客さんを乗せた黒いタクシーが通り過ぎていき、10メートルほど先の家の前で止まった。

あっ。あのタクシーから人が降りたらもしかして?

思った通り清算を終えたらしき男性客が降りた。タクシーを捕まえたい。けど、我が家の方向を見るがコドオの影も形もない。

いやいや。サングラス1個に何分かかるコドオ。絶対家帰ったついでにお手洗いもう一遍いっとことか思ってるよね。

オカンの切実な思いも知らずタクシーは、まるでそもそも存在しなかったかのように音もたてずに去っていく。いや。ドアを閉める音は、聞こえたか。

ため息を一つついて歩きだすと、心なしかさっきよりアスファルトからの熱が上がった気がする。

そこへコドオ

「オカンありがとうスーツケース持つわ」

「ありがとうやないわ。

今、タクシーがここでお客さん降ろしてってんで」

オカン切れる。

「えっ?ほんま?捕まえといてくれたらよかったやん」

「うーん。いつ来るかわからないコドオのために運転手さんに謝りながら待ってもらうのと、暑い駅までの道をてこてこ歩くのとどちらが良かったんだろう?」

「そんなん捕まえて、メーター倒してもうといたらええやん」

ああ、その手があったかと思う反面おまいう。と思ったオカンであった。



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