古びた二人はさよならの方角へ

すずちよまる

古びた青春

目覚まし時計が鳴った。

時計の針は7時30分を指していた。

「しまった、遅刻するぞ!」

飛び起きた俺は、全力疾走で洗面所に向かう。

水道から水が滝のように流れ出した。手のひらに溜まっていく水に顔をつけて擦った。


鏡に映る俺の顔は、窓から差し込む朝日が頬を流れる水に反射し、きらきらと輝いていた。

――――気持ちの良い朝だ。

俺は、食パンを袋から一枚取り出し、咥えたままリュックを背負ってバタバタと家を出た。


太陽の光は、ゆったりとランニングをするように走る俺を強く照らした。

広い青空は、雲一つ浮かべずに澄んでいる。

――――俺の青春は、始まったばかりだ。

桜の花びらが優しい春風に乗ってクルクルと俺の隣を走っていた。

学校はもうすぐだ。

桜高校の象徴である大樹の横を通り、安心して走る速度を落とした。

門を抜けていく沢山の高校生が見えたのだ。まだ間に合う。

門の側で、俺は辺りを見回した。

「ヒロシはまだか」

いつもならここで彼と会う。

あいつ、今日は遅刻だな。

俺は、門を通ろうと、歩き出した。

知らない女子高生と目が合い、足を止めた。

女子高生は、隣を歩いていた友達に、

「誰?」

と、呟き、笑いながら校舎に入っていった。

朝の鐘が、心臓にまで鳴り響いた。


俺は、ゆったりと家に向かう。

登校する高校生、そして黄色い帽子を被った小学生たちとすれ違い、ひょろひょろと歩く。だんだん遅くなる。

走るのはやはりまずかった。

「痛ててて……」

気づいたときには、家の玄関の前に立っていた。

そこには、艶やかな黒髪を持ち、宝石のように美しい瞳と雪のように白い肌の美少女…………だったという過去を持つ、銀色に光る白い髪を持ち、しわだらけの肌の女房が待ち構えていた。美しい瞳と、白い肌は昔のままだ。

「ちょっと、あなた。また学校の前まで行っていたの?」

「すまん、平日の朝になるとつい、な」

「朝バタバタ音がしたと思ったらまた走ったりしちゃって。あなた、腰悪いんだから大人しくしていないとダメですよ」

「サトシが高校に入ってからどうも学生時代を思い出してな。我に返ったらいつも学校の中に入ろうとしているんだ」

「私たちの青春はとっくに終わってますよ」

「はは、そうだな。今日はヒロシと待ち合わせしとったよ」

「ヒロシさんは去年亡くなったでしょう」

「そうだったな…………ヒロシとは、天国で待ち合わせせんとな」

「…………ほら、早く家に入りなさい。朝のお薬は飲んだの?」

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古びた二人はさよならの方角へ すずちよまる @suzuchiyomaru

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