第九頁

 目を覚ました私は、喉の渇きを覚えます。

 昨日買った紅茶がまだ残っていたので、少し温いそれを飲み干して、それから着替えを始めます。

 ほどなく、部屋の外から声がしました。


「カンナさーん、検査の時間ですよ」

 その言葉に、私は返事をして、今日の日課へと向かうのでした。




 あれから。

「苦手」、その言葉を皮切りに、少しずつ、私にとって大事な言葉が、物が、日常に増えていきました。

 あの時、看護師さんに教えてもらった紅茶飲料が気に入って、検査の協力金をお医者様に前借りしては、検査終わりに買って帰るようになりました。

 中庭の花は、季節柄、一日一日ごとにその様相を変えていくようで、度々足を運んでは、その風景に一喜一憂するようになりました。

 あの看護士さんとも、以前は部屋でばかり出会っていたのが、最近は中庭やそこへ向かう道中で会うようになったりして。そんなちょっとした驚きも大事なのだと、最近の私はそう思っています。




 そういえば、この前、ふらっと立ち寄った売店で、一冊の詩集を買いました。

 表紙が可愛いと思って手に取ったのですが、いざ開いてみると、ことばの一つ一つを慈しむような、とても繊細な文章が並んでいて、ページをめくるたび、私の中でまた大事なことばが増えていくのを感じるのでした。




 そうしているうち、私はふと思いつきます。

 今ならまた、あのノートを読み進めることができるかもしれません。

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