第二頁
私の名前はカンナ。ノートのはじめのページには、そう書いてありました。
数日、その部屋で過ごして。お医者様の話を聞いたり、ノートを読み進めていく中で、私はいくつかのことを知りました。
ひとつは、病気のこと。
過去の私がかかっていたのは、簡単に言えば、人生を失ってしまう病気だったようです。
ある日を境に、自我に関する記憶が少しずつ失われていき、それと同時に段々と、眠っている時間が延びていく。
そして次に目が覚めたとき、その病気と一緒に、過去の自分、というものが全て失われてしまうのだ、と。
原因は不明、治療法はなく、今までに完治した例もなし。お医者様は静かな声でそう言いました。そしてその例にもれず、私もこの病院で、最期は眠りながら自己を失っていったのだ、と。
ただ幸い、と言っていいのでしょうか。過去が失われる以外に体に影響が出ることはなく、ほとんどの場合、目覚めた患者はほどなく退院することができるそうです。
私の場合も、何度かリハビリをしましたが、特に体に不都合はなく、臓器等も正常に動いているようで、少なくとも身体だけで言えば健康そのものだそうです。
とはいえ、いくつか検査はしなくてはいけないようで、またその他にも色々としなければいけないことがあるようで、しばらくは病院で過ごすことになるようでした。
夜、一人になった部屋で、読書灯の灯りの下で、私は開いたノートの一ページ目を、そこに書かれている文字列をじっと眺めます。そこにはとても重要なことが一杯に書かれているようなのですが、今の私ではどうにも目が滑ってしまいます。
そのうちに諦めて目を閉じて、頭の中で、カンナ、と、まだ馴染みのない名前をずっと繰り返します。
いつかきっと、私の名前になる言葉。
けれど今は、あまり焦らなくてもいいよ、と。
先ほどお医者様に言われた言葉を、私はふと思い返すのでした。
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