第05話 ダウナーJK爆誕


「はい、完成――――どお? めっちゃ可愛いでしょ」


 洗面所の大きな化粧鏡。その前に、俺とねーちゃんは立っている。


「これが……俺!?」


 某国の整形番組のようなテンションになってしまったが、驚いているのは事実だ。俺は今、俗に言う「ダウナー系」JKになっている……。


 少し外ハネを加えたウルフに、長めの前髪。そこから覗くのは、端整な顔立ちの美少女――もとい、女体化した俺の顔である。その様はまさしくダウナー系と呼ぶにふさわしい。ジト目、という言い方をするのが的を得ているだろうか。

 まつ毛は長く、鼻筋はしゅっと通っていて、色素も厚さも薄い唇がその下に。


 耳にフープピアスとか付けたら、それはもうまさしく……。


「あんた、髪質は昔から良かったからさ~。ブローだけでめちゃくちゃ映えるじゃん。さすがに、外ハネはコテ使ったけど。……はぁあ~、可愛いなぁ、うちの妹」

「弟だよ」

「いいの。あんたは今日からあたしの妹。なぎちゃんね」


「はぁ……もうツッコむのもめんどくせーや……。って、何してんの」


 プシュプシュと頭の後ろで音がする。


「んえ? ヘアミストだけど」

「――んっ!? なんだこれ、ヘンな匂いっ!」

「はぁー……。あんたねぇー、これくらいフツーだよ? しかもあたしと同じ匂いだし。いーでしょ、姉妹きょうだいでおそろ!」


「だから! 俺は男だっつの! ……はぁ」


 この会話だけで、さっき食べた朝食分のカロリーを全部消費しそうだ。


「ってか、なんかこの服ブカブカだな……胸元はパツパツなのに」

「仕方ないよ。男ものだもん。しかも、あんたおっぱいおっきいし。羨ましいぞ~、この。うりうり~」

「ちょっ。やめろよっ。ツンツンすんな」


 俺が思うに、姉のものもそれなりにあるはずだが……。鏡越しに見比べると、やはり俺の方が大きい……。いや、待て待て。こういうのは良くないな、うん。


 そんなことを思っていると、不意に姉がしゃがみ込んだかと思えば、ある紙袋を俺に手渡す。中を覗くと、姉のお古と思しき制服と下着が丁寧に畳まれて入っていた。


「はい、これ。とりあえず、今日はこれ着て行って。体型はあたしと変わんないと思うから、多分着られると思うよ。胸はちょっときついかもだけど」

「あ、ありがとう……でも、良いのかよ? 俺が着て」


 男だった時の俺は、姉の私物に触れようものなら問答無用で姉に締め上げられていた。まあ、気持ち悪がられていたというやつだ。

 その時はねーちゃんも思春期ってヤツだったし、別に気にしてはいないが。


 俺の発言に、姉はきょとんとした顔になる。


「んえ? いーよ、全然。こんな可愛い女の子に着てもらえるんだもん。この制服も幸せだよ~」

「調子のいいやつだな、まったく」


 頬をポリポリと掻く――。


「あー! 待って、その顔! めっちゃいい! 待って待って待って!」

「ちょっと、ねーちゃん。……はぁ」


 俺の姉は、可愛いものを見るとシャッターを押さずにはいられないのだ。外出時も、小さな鳥、野良猫、街中のアパレルショップ。誰かと話していても、それらが目に入ると途中下車し、五分ほどそれに付き合わされる。なかなか悪癖だと思う。


 ちらりと鏡を一瞥し――思わず見入ってしまう。


「……っ」

「なぁに、なぎ。自分の顔が可愛くて、見惚れちゃってんの?」

「……べ、別に」


 俺、可愛いのか……いや、確かに俺も、このレベルの女の子が街中を歩いてたらチラ見、いや……ガン見してしまうかもしれない。

 ……ああ、うん。これは、間違いなく可愛い部類に入る。見惚れてた。認めよう。


 姉はしばらく俺の方にスマホを向けていたが、やがてそれを降ろす。


「ふぅ。全部保存してっと」

「気は済んだか?」

「おうよっ! あ、そだ。あんた、ブラとかスカートの履き方……分かる?」

「……分かるよ」


 流石に侮り過ぎだ。


 ◆


「おーっ! 様になってんじゃん!」

「ねーちゃん……当たり前のようにスマホ向けるのやめろよな」


 脱衣所を出た俺は、リビングで母と姉に遭遇。


「てか。やっぱり合わなかったかー……」

「ねーちゃんのブラ、サイズ全然合わなくて。今胸がめっちゃ窮屈なんだよ」


 俺の胸元はかなりキツめの状態である。無理やり押し込んだせいで、めちゃくちゃ苦しい。何とかスクールシャツでカバー出来てはいるが。


「病院の帰りに、買いに行かなきゃね。下着」

「はぁ……」


 泣きそうだ。


「良いじゃない。高校に入学した時のしほを思い出すわね。あ、もうちょっとスカート折ってみても良いと思うわよ~」


「母さんまで……。なんかこれ、スースーして変な感じなんだよな。ちょっと捲ったらパンツ見えちゃうし。女子ってこんなの履いて学校行くのかよ」

「はいはい、ちょっとこっち向いて。よいしょっと……うん、良い感じじゃん」

「おいっ、どさくさに紛れてスカート折るなっ」


 流れるように姉が俺のスカートを折り、裾が膝上まで上がる。


「えへへぇ、今日からなぎちゃんがうちの子かぁ。捗るなぁ」

「捗るって何がだよ」

「捗るは捗るだよっ。今度のお休みは一緒にコスメ買いに行こうねっ!」

「やなこった。一人で行ってろよ」


「もー! そういうこと言わない。姉に逆らう気かね」

「俺はあんたの着せ替え人形じゃないからな。病院に行って、治す方法探してやる」

「あんた、病院に行ったら治ると思ってるのね……」

「びょ、病院が無理でもっ。是が非でも男に戻ってやるぞ、俺は」


 直後。姉と母の声が重なる。


「「それはダメ」」

「はっ?」

「女のコになったらこんなに天使なのに、今更男に戻すわけないでしょ?」

「激しく同意するわ。あんたは女の子でいいの。そんなの、絶対に阻止するわ」


 あ、これ。マジの顔だ。

 母親、それに姉は、冗談でも何でもなく、俺を女のままにしようとしている。


「ちょっ……どうしたんだよ。二人とも」

「あんたが男に戻ったら、あたし絶縁する」

「なぎさが男に戻ったら、きっと悲しみで寿命が縮むわ。ご飯も作ってあげられそうにないし、お風呂も……うっ」


「そっ、それは困る」

「じゃあ、あんたは女の子のままで居ること。よろしくね、なぎちゃん」

「ひっ」


 ニコッと微笑んだ姉の顔に、俺は言い知れぬ恐怖を感じた。


 ◇ ◇ ◇


(めちゃくちゃ★が欲しいです。皆さん、もし、もし面白いと思ってくださればで構わないのです。何卒、何卒「高百合」を上位に押し上げてください……!) 

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