　そろそろ本題（ほんだい）に戻（もど）ろうか。茨城の、首切場（くびきりば）エリアでファミレスが潰（つぶ）れたって話だったよね。建物（たてもの）は取（と）り壊（こわ）されて、しばらくして同じ場所に、また別（べつ）のファミレスが開店（かいてん）してさ。最初から言ってるけど、立地（りっち）条件（じょうけん）はいいんだ。普通に考（かんが）えれば繁盛（はんじょう）して、上手（うま）くいくはずなんだよ。

　前回（ぜんかい）の全国的に有名なファミレスと違（ちが）って、ちょっとマイナー寄（よ）りの店だったけどさ。安（やす）くて美味（おい）しかったよ。ああ、ここは潰（つぶ）れないといいなぁって俺は思ってた。というか願（ねが）ってたね。

　でもね、今度（こんど）も前と同じ。明（あき）らかに店員の様子（ようす）が、おかしくなってくるの。後（あと）でネットを見たら、その店で『幽霊（ゆうれい）を見（み）た』っていう、オカルト掲示板（けいじばん）の書（か）き込（こ）みがあったよ。夜中になると、顔が青白（あおじろ）い客が店内（てんない）に居（い）て、いつの間（ま）にか消（き）えるんだって。俺は見たことないけどねぇ、夜に何回も店は利用（りよう）してたし。

　とは言え霊感（れいかん）が無（な）いからね、俺。見える奴（やつ）には見えてたのかも知れない。ファミレスで働いてる人は長期間（ちょうきかん）、いわくつきの首切場エリアに留（とど）まってるんだから、霊（れい）を見る機会（きかい）も多かったんじゃないかね。そうとしか思えないくらい、店員はストレスでや（・）ら（・）れ（・）て（・）る（・）様子（ようす）だったなぁ。

　さっき、脱線話（だっせんばなし）で言ったよね。祟（たた）りは人間の悪意（あくい）だって。でも俺、ファミレスの件（けん）は、祟（たた）りとは違（ちが）うと思うんだ。少なくとも霊（れい）の方（ほう）は、悪意（あくい）を持（も）って飲食店にち（・）ょ（・）っ（・）か（・）い（・）を出（だ）してる訳（わけ）じゃない。たぶんね、霊（れい）は寂（さび）しがってるんだよ。地縛（じばく）霊（れい）っていうのかな、それこそ江戸時代から居着（いつ）いてる霊（れい）が、首切場エリアには多（おお）いと思ってるんだけど。

　何（なん）で首切場エリアの飲食店が上手（うま）くいかないかって言えば、霊（れい）が寄（よ）ってくるからだよ。で、何で寄（よ）ってくるかって言ったら、そこが賑（にぎ）やかだからなんだ。家族（かぞく）連（づ）れの客（きゃく）が多（おお）く居（い）てさ。そういう温（あたた）かい光景（こうけい）に、あのエリアの霊（れい）は惹（ひ）かれるんだよ。もう百年（ひゃくねん）以上（いじょう）前（まえ）の、生前（せいぜん）にあった幸（しあわ）せな光景（こうけい）に霊（れい）は戻（もど）りたがってる、というのが俺の考（かんが）え。

　別（べつ）におかしくないだろ？　お盆（ぼん）の時期（じき）には霊（れい）が帰（かえ）ってくるんだし。成仏（じょうぶつ）できない魂（たましい）が多くあるエリアに、賑（にぎ）やかな飲食店が建（た）ったらさ。そりゃあ寄（よ）り付（つ）きたくもなるよ。行（い）き場（ば）のない人間だって、そうだろ。不良（ふりょう）少年（しょうねん）や少女（しょうじょ）が、深夜（しんや）のファミレスでダ（・）ベ（・）っ（・）て（・）る（・）のと同（おな）じだよ、同（おな）じ。

　そうは言っても、普通の人間は霊（れい）と仲良（なかよ）くできないよな。結局（けっきょく）、そのファミレスも閉店（へいてん）。建物（たてもの）も取（と）り壊（こわ）されちゃったよ。以来（いらい）、その跡地（あとち）に飲食店（いんしょくてん）が建（た）つことはなかったね。でね、まだ話は終（お）わってないんだ。