04971028
人間の住んでいる
しかし、その前で立ち竦んでしまった。
久しぶりにやってきたのだ。
会いたいな、元気かな?という気持ちもすごく強いのだけれど。
しかしそれでいて未だに、人間に対する恐怖は心の中で燻っている。
ただ、どうにも踏ん切りがつかないのは、その理由だけではなかった。
どうにも集落の様子が変なのだ。
……ううん。
変というよりも全く別のものに変わっていると、言ってもいいかもしれない。
集落の周辺は木々が切り倒されていて、切り株が沢山できていた。
それに、集落の周囲には全く覚えのない、レンガや石でできた壁がある。
そして壁の切れ目……出入口らしいそこには、不思議な服をまとった人間の男性が一人、手に槍を持って立っている。
あの不思議な服はなんだろう、綿布や亜麻布じゃあ、ないみたいだけれど。
うーん、と頭をひねって、
革だ。
動物の革を鞣して作った鎧。
一瞬身体が固まる。
けれど、他の動物の血肉を食べて、その身体を道具に加工するのは人間という動物には必須なのだと知識では知っていた。
それほど身構えることじゃあなかった。
でも、この変わりようはいったい何なんだろう?
流石に、これだけ樹木を伐採したり壁を作ったりは簡単にはできないだろうし。
人間がたくさんやってきて作ったのかな?
幸い、あの巨大な木だけは壁の中にあるみたいで、切り倒されていないようだから、場所を間違えているということはないと思うけれど。
ここにきて、人間に対する恐怖とは別の。
何か言いようのないもの。
きっと、正しく言うなら怯えという感覚が心の中に湧き上がっていた。
ギュッ、とあの人間の子供が好きだった
あまり強く握ると潰れちゃうから、あくまで心持ちに、だけれど。
途中で見つけたから、沢山積んでおいた。
しばらく離れていたから、きっと怒っていると思う。
これで、ご機嫌を直してくれるといいのだけれど。
「……うん、そうだった」
あの子に会いに来たのだった。
それなら、ここで尻込みしているわけにはいかない。
意を決して茂みから外に出て、槍を持った人間の男性のところへと向かっていく。
人間の男性は、驚いたような表情を浮かべる。
ぎこちないとは思うけど、笑顔を浮かべながら声をかけてみた。
「こ、こんにちは」
「……◆◆◆◆◆?」
「あ、あれ?」
「◆◆◆◆◆」
あれ?
おかしいな、確かに人間の言葉で話をしているはずだけれど……。
もしかして、忘れちゃった?
ううん、でもそれだったら、この人間の男性の言葉を聞けばある程度は思い出せる、よね……?
でも、確かに男性の言葉には何となく、引っかかるような、似通った言葉があるんだけれど。
そんなことを考えていると、人間の男性は少し待て、ということを
そして、空に浮かぶ雲がわずかに形を変えるころには、別の人間の男性を連れて帰ってきた。
白い髪と髭をふんだんに生やしている人間の男性だ。
白い髪と髭の人間は、こちらに何度か目を向け確認するように見やった後に、口を開く。
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
「……驚いた、本当に古語を話すんですね」
「……古語?」
白い髪と髭の人間とは言葉が通じた。
やっぱり間違ってなかった!よかったー、と思ったのも束の間。
古語、という表現がよくわからなかった。
「◆◆◆◆◆……」
隣に立っている槍を持った人間の男性は、あの、どことなく似ているけれど、違う言葉を今も話している。
「◆◆◆◆◆、◆◆◆◆◆。そうです。ああ、申し遅れました。儂はテオ、と言います。この都市にて学者を名乗っております」
槍を持った人間の男性にいくつか話したあと、白い髪と髭の人間がこちらへ会釈をする。
テオ?
言葉の意味が解らなくて。
しばらくボケーっと呆けてしまうけれど、あ!と思い出した。
そうだ、人間は自分たちに名前をつけるんだった。
そして名乗ったからには名乗り返すのが礼儀だった、気がする。
名前を答えようとして……。
……名前、なんだったっけ?
人間と会っていなかったし、動物たちは名乗ったりもしないから。
完全に名前を忘れてしまっていた。
自分のことをなんて呼んでいたっけ、えーと、えーと……
少し、訝しがる様子を見せるテオに向かって。
はっと思いだした名前を口に出す。
そうそう、いつも自分のことをこう呼んでいたんだった。
「オレです。
私のことは、オレと呼んでください」
なんだかちょっと違和感があるけれど。
でも間違ってないと思う。
私は自分のことをオレって呼んでいたはず。
テオは「そうですか」と頷いて、私のほうを見やる。
「それでは、オレさんは何をしにこの都市へ?」
「はい、実は」
私は、ここにきてようやく自然な笑顔を浮かべることができた。
手にしていた
「子供に会いに来たんです。杖を持って、冠を被った男性の人間の、子供の男性です。あ、きっと、もう大きくなってるとは思うんですけれど」
「杖……?冠……?いや……」
私の言葉に、テオは何か、不思議なものを見るような目を向けた。
そして彼は指をまげて顎に当てて、何事か考える。
雲が再び形を歪めるころには、テオは私のほうを再度見る。
まるで、信じられないという表情で。
何か
「まさか……それは……建国王である、ヴァルフレード1世のことですかな?」
「う?」
今度は私が、変な顔をする番だった。
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