00041019
空が、明るくなって、暗くなって。
何度かそれを繰り返していた。
毎日欠かさずに苗を植え続けたおかげだろう。
土地も随分と広くなった。
俺はもう、この土地の全容はもう把握できていない。
もう1日、2日では土地の端まで回り切れないくらいに広い。
色々と試していた結果、土地の拡大は苗を土地に植えさえすればいい、ということがわかった。
つまり土地のど真ん中で苗を植えても土地は拡大するってこと。
今までは土地の端に、わざわざ向かって植えていたが、単に土地を広げたいだけならそうしなくていい、ってことだ。
ピンポイントで大きくしたい時は端で行う必要があるんだが。
そうしない場合は全体が膨らむようにして、土地が拡大するみたいだ。
移動しなくてよくなったのは助かったけれど……。
この方法だと近場に苗を植え続けることになってしまい、密集してしまってよくない。
実際、土地の一部に木が集中して、あとは草も生えていない土がずっと広がっている場所が出来てしまっている。
そのうちに、木から落ちた種が勝手に広がっていくんだろうけれどね。
最初のうちは手助けしてやる必要があるだろう。
よって、しばらくは土地の拡大よりも現状の環境の向上を目的にしていくことにした。
こうして、家から遠出して、数日かけて、指定した苗を植えに行くのもその一環だ。
……例え木や草が生えていなくても、土地の拡大を急いだほうがいい、最初はそう、思ったのだが……。
「……あ」
俺が空に向かって手を振ると、空を旋回していた小鳥がパタパタと羽ばたき、俺の肩へと止まる。
嘴の下あたりを撫でてやると、気持ちが良さそうに目を細め小さく鳴き声を上げた。
この土地にやってきた生き物たちも、それなりの数になっていた。
今俺の肩で寛いでいる
彼以外にも、
フラフラと、まるで風に揺蕩う木の葉のように飛んできた彼らは、最初こそボロボロで、瀕死の重傷ではあったが。
今は元気になり、森からは鳥の鳴き声が聞こえてくるようになった。
そして彼らが食べるような、小さな昆虫たちは、いつの間にか上陸していたようだ。
畑の作物の葉にはりついた、名前も知らない小さな虫を見たときのことは忘れない。
まだ、アブラムシやイナゴのような農業害虫には会っていないけれど。
良いことか悪いことか、といえば……残念なことなんだろう。
作物を食い荒らされるのは、確かにやめて欲しいけど。
しかしアブラムシを食べる虫や鳥が上陸した時に、飢えて死んでしまいかねない。
それじゃあ意味がない。
それなら、アブラムシに食害されたとしても、間接的にそういった生物たちに作物を食べさせていると考えれば、まあ納得もできるしな。
また最初にやってきた鹿の親子たち。
今では2匹とも元気だ。
子鹿はすくすくと育っている。
もう俺よりも背丈は大きいかもしれない。
それに、後を追うようにして雄の鹿もやってきた。
鹿だけではない。
猪や、山羊といった生物たちも迎え入れていた。
みんな、とてもよく食べる。
本当によく食べる。
マジで本当によく食べる。
食欲旺盛。食欲旺盛。
いやー、動物が来たときに草がないと飢えてしまうと思って、色々と植えておいてよかった。
ちょっと、やりすぎたかな、と思ったけどそんなことはない。
食糧生産は今後とも継続して、抜かりなく行う必要がありそうだ。
さらに生物たちは増えるだろうし。
なんなら、さらに畑を拡大しないといけないかもしれないな……。
……用水路、作っておいてよかった。
畑と水辺の往復だけで、もう日が暮れちまうよ。
そういう理由で、今は土地の拡大よりも環境整備を優先せざるを得ないのだ。
この土地に住むようになった生物たちが、飢えたり、住む場所に困るようになることも、避けたい。
「今日は……うん、元気そうだね」
俺は草が茂り、若木が目立つ木々の合間を歩きながら、雲雀に話しかける。
動物との意思疎通は……何となく、できていると思う。
やはりエルフの種族特性なんだろうか?
それとも、動物たちと接する時間が、長いからだろうか?
何せ上陸して当初はどの動物たちも弱り切っていた。
食事に、治療に、俺は手を尽くした。
そのうち何匹かは助けられず。
今は桜の木の下で眠っている。
それでも何匹かは助けることが出来て。
元気になって森に入っていった今も時折、様子を見に行っている。
あの雄の鹿と雌の鹿は番になって、新しい子鹿が産まれていた。
山羊や猪たちの子供と一緒に、山の中を駆け回っている。
そういう様子を、親鹿たちと一緒に眺める。
その時間が、俺はとても好きだ。
動物たちだって何も考えていない訳じゃない。
鳴き声一つ、動きの一つ一つに意味がある。
感情だってあるし、伝えたいことだってある。
だから、こうやって普段から一緒に過ごしていれば、それとなく理解することもできた。
「新しい子は来ているかな?」
今のところはまだ経験していないけれど。
これだけ土地が広くなると、俺が知らない間に、土地に上陸した動物らもいるだろう。
既に、知らない間に上陸していた、虫といった前例もあることだし。
この土地も、前述のとおりそれなりの広さがある。
知らない間に、ひっそりと隅っこで生活しているかもしれない。
いや、生活しているならまだいい。
瀕死で倒れていたりしたら、余りに可哀想だ。
折角、この場所にたどり着けたのに。
水の一口も飲めずに息絶えるのは、余りにも可哀想だ。
だから、遠出するのは、それの見回りも兼ねている。
今日は、まだ行っていない場所に辺りをつけて進んでいく。
雲雀もついてきてくれるのか、肩に乗ったままだ。
毛繕いしながら俺の耳元で鳴き声を上げる。
「うん、そうだね。見つかると良いね」
最初に来た時より随分と羽の毛並みが良くなった雲雀を撫でながら。
俺は今日も、ゆっくりと歩いていた。
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