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それからしばらく過ぎた。

ふいごを作った炉は完成して、大きめの壷とかも焼き上げることに成功した。


だが、このとき、俺はこの異世界に来て数回目となる危機に遭遇していた。

それも、これは俺が今いる土地をともすれば滅ぼしかねないほどの事態だった。


「あかん」


似非関西語が口から飛び出すくらいには俺は追い詰められていた。


俺の目の前に広がるのは、緑。

見渡す限りの緑の植物の群れ。


葉を巡らせるそれは、背が高く、先に植えた樹木ほどではないが悠々と生い茂っている。


それらに対峙している間にも、ボコッと土から何かが突きだす。


突き出たそれは、俺が見ている間にもぐんぐんと成長していき、緑の領域をどんどんと拡大していっていた。


「あかん……」


二度目を呟き、俺は頭を抱えた。

俺が今回植えた苗。



竹。



それが物凄い勢いで繁茂し、他の木々の植わっているスペースを侵略する勢いなのである。


何か深い考えがあったわけじゃあない。

ただ、竹材ってそういえばあると便利だよな、と思ったのだ。


色々道具を作り始めたので、材料として良さそうだな、とか、それくらいのつもりだった。


竹ひごとか、竹で編んだ籠とか笊とかもそうだし、そのまま食器にもできる。

家を作るにも竹があると便利なのだ。


なにせ竹は真っすぐ育つので、柱とかにするのに非常に適している。

落ちてきた枝とかもそれなりにあるが、柱にできそうなものは選別しないといけないし。


炉とかの燃料に使うことも考えれば、今後は枝を、あまり当てにすることはできない。

だが竹は炭にすることもできる。


さらにはタケノコを食糧にすることもできる。


とにかく便利なのだ。

いや、なんだこのチート植物?って思っちゃうほどには。


それでいて成長速度は速いと聞いていたので、物は試しと植えてみたのだが……。


しかしいざ植えてみたら、見る見る間に育っていくばかりか……。

ボコボコと土からタケノコが生えてきて、あっという間に一辺を竹まみれにしてしまったのだ。


竹は地下茎でつながっていて……。

大きな竹林と思っていても、実はあれ全体で一つの竹だっていう話を聞いたことがある。



……あれ?ひょっとして、俺の苗をつくる能力のチート成長速度が影響している……?



それに気が付いた俺の顔は真っ青になった。

今この土地の上に拡がる蒼穹よりも青かっただろう。


すぐ、必死になってタケノコを取った。

余裕があれば石斧で力のあらんかぎり、竹を伐採していった。



だが、焼け石に水だった。



元々竹は成長速度が速いことで有名なのだ。

俺のチート成長速度と合わさって、もはや手が付けられない状況に陥っていた。


「どうしよう……どうしよう……」


俺はとにかく、少しでも浸食を防ぐため、必死こいてタケノコを採取し、竹を伐採するしかなかった。

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