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翌日、俺は水辺で生える樹木を意識して苗を作った。
それを植えてみようとしたが……ここでもう1つ気になることがあった。
粘土の時は、土の部分で植えたから土の面積が広がらず、その場の土が粘土に変換するような形になった。
では、この苗を、土と汚泥の境目のあたりで植えた場合はどうなるのだろうか?
そう思い早速実験してみたのだが……
「うーん、これは……いや喜ぶべきだろうけど、ええ?」
結果は半分は予想通り、といったところだ。
土地と汚泥の境目ギリギリの場所で苗を植えてみたところ、土地が広がるようにして水辺が広がった。
真っ黒で腐臭を放っていた汚泥が、澄んだ湖に変化したのだ。
水は非常に澄んでいる。
それは旅番組で紹介される水がきれいな観光地と同等か、それ以上。
ミネラルウォーターの産地としても十二分に通用するだろう透明度だ。
深いらしく、水の底は確認できないが、この分なら下に汚泥が広がっている、ということはないだろう。
では、何が半分は予想通りでなかった、のかというと……
「あれ、どうなってるんだ……」
澄んだ水と、真っ黒で腐臭を放つ汚泥の境目がきっぱりとわかれていた。
水の間に透明な壁があるように、混じることなく、目に見える形で境界ができている。
試しに手近な小石を投げてみたが……石は問題なくその境界を通っていくし、石が飛び込むことで水や汚泥の上で跳ねて掻き回し、波紋を広げているにも拘らず、しかし水と汚泥は混ざらない。
エントロピーとかを真っ向から否定している。
物理学者も真っ青だろう。
……まあ、それはさておき。
多分だが、
今まで臭いだとかを遮断していたわけだし、土地が広がっている場所だけ分厚い雲が無くなって空が見えることから、まあ間違いなく結界みたいなものはあるんだろう、と思っていたが。
それは確信になった。
土とか水とか日光とか空気とか苗の成長に必要なもの……それらを汚泥とか雲から守るために、それらに対してのみ効果を発揮するのではないか。
先のとおり、この土地の中にいる間、汚泥の臭いすら感じないのも、それなら説明がつく。
マクスウェルの悪魔もびっくりだ。
いや、綺麗な物だけ通すなら天使か?
とにかく既存の物理法則とはここだけ違う、魔法的な何かとしか思えない。
これを使えば何かうまいことできるんじゃあないか……と思ったが、俺の頭じゃあ、この結界を土地を守る以上の何かに利用する方法は思いつかないんだが。
いや、それよりも。
水だ。
俺は手を恐る恐る伸ばして水の中に入れる。
澄んだ水の中なら、俺の手の指の形も、手のしわもしっかりと見える。
手で掬って、臭いを嗅ぐ。
臭くない、汚泥の臭いなんてしない。
そして、ほんの少しだけ口に入れた。
水だ。
俺は水を何度も手で掬っては口に含んだ。
そのうちに頭を水辺に突っ込んで口いっぱいに水を入れた。
ごくごくと喉を鳴らして何度も飲んだ。
そんなに喉が渇いていたわけじゃあない。
それでも喉を液体が通過する感覚が心地よく。
俺はボロボロと泣きながら水を飲んだ。
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