世界にすべてたりるまで
三二一色
20230821
気が付いた時には、俺は真っ白な空間にいた。
部屋じゃあなく空間と表現したのは、窓は勿論、ドアすらも見つけることができなかったから……とか、そんな話じゃあない。
うまく表現ができないが、どこが上でどこか下かというのすら、分からないのだ。
足があるほうが下、の筈なんだが、重力を感じられないというか。
例えばその場で跳躍すると、その分が上に上がってしまったというか。
とにかく異常事態だった。
じゃあなんで俺はこんなところにいるのか、と考えて、しかしすぐに、何となく思い至った。
なるほど、ここは死後の世界なんだ。
俺は現代日本で生まれ育った男だ。名前は
女みたいな名前だと揶揄われ、よくケンカしたものだ。
普通の家庭で育って大学を出て就職した。
その後、死んだはずだ。
はず、というのは、俺がどういう理由で死んだのか全く覚えていないためだ。
寿命ではなかったと思う。
病気は……記憶の限りでは大病にかかったような覚えはない。
事故だろうか?車に跳ねられたとか?
通り魔に巻き込まれたとか?
まあ兎に角、俺は死んでしまった、という確信だけは何故かあった。
いやだなあ、という思いが俺の中で燻る。
新作のゲームはまだ遊びきれていないし、友人と遊ぶ約束もしていた。
彼女が欲しくて合コンにも行くつもりだったし、未練は色々とある。
ああ、両親にも申し訳ない。
できるなら会って詫びに行きたいが、無理だよなあ。化けて出たり出来るのかな?
俺は、そんなことを取り留めなく考えていた。
『聞け』
唐突に。
俺は男性とも女性とも取れない、かといって機械音声とも思えない、そんな奇妙な声を聴いたと思った瞬間。
俺はその場でひれ伏していた。
今の一言で理解してしまった。
いや、思い出したというべきか?
いやまあ、なんでもいい。
俺はこの声の主を知っている。
そう、『神様』だ。
『お前を、これより別の世界へと転生させる』
俺は平伏してその言葉を受領する。
異世界転生モノってあるじゃん?
あれで良く主人公が神様にいろいろと話したりするじゃん?
ため口?拒否?質問?ありえねえよ、そんな思い考える前から消えていく。
なぜなら相手が神様だからだよ。
こう、言うなれば尊敬とか恐怖とか、プラスとマイナスの感情が頭を支配していてそれどころじゃあない。
畏敬っていうのかな?きっとそういう感情だ。
神様の名前をみだりに口にしたり、偶像を作って崇拝したりしてはいけない、っていう戒律の宗教があるけれど納得だ。
実際にこうやって会えばわかる。
神様というのは、そんなお手軽で気軽な存在ではありえない。
『それに伴い、お前には【病毒完全耐性】と【1日に1つ苗を生み出す】
俺は神様の言葉を受領する。
神様の言葉っていうのは聴くのではなく授かるのだ。
神様は実際に空気を振動させて言葉を発しているんじゃあないんだ。
端的に言えば、直接脳内に語り掛けてくる……魂へ語り掛けてくるような感じだろう。
だから神様が実際に【びょうどくかんぜんたいせい】と言っているわけじゃあない。
これは神様より与えられた言葉が、間違いなく俺に伝わるように、俺が脳内で勝手に俺の言語として翻訳しているんだろう。
俺は現代日本人のゲーム好きだから、ゲームっぽい感じに翻訳されているだけだ。
きっとゲームを知らない人とかだったら【病も毒も知らぬ身体】だとか、そんな感じで受け取るんだろう。
『お前は
そうして唐突に視界が真っ暗になって。
気が付けば俺は、大地に寝転がっていた。
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