僕の妻と子ども
「ユヅくん、おかえりなさい。なんか大変そうね」
「ああ、イタチザメが出産してさ……急いで子どもを網で掬ってて……」
出迎えてくれたのは、僕の妻、
「悪いね……
「いいのよいいのよ。水族館、今大事なときなんでしょ」
美聡はそう言って、僕に軽くキスをした。なんというか、ちょっとこそばゆい気もするけど、美聡のそういうところが僕は好きだ。疲れきった僕の体が、心の根からぽかぽか温められていく気分だ。
「ぱぱ、おかえりー」
その声とともに、小さな足音がリビングから聞こえてきた。僕の息子の海斗だ。かわいくて愛おしい、僕たちの息子。美聡に似て、ぱっちりお目目のかわいい顔をしている。それを言うと、「えー、ユヅくんの方に似てない?」なんて言う。いやまぁ、僕も大概、かわいい男の子扱いされて育ったけどさ……
そういえば僕も小さい頃は、「お父さんにそっくり」ってよく言われたもんだ。僕の父、畠山
「おー、ただいま。保育園どうだった?」
「あのね、こんな
そう言って一旦リビングに駆けていった海斗は、一枚の画用紙を持ってきた。そこには恐らく僕だと思われる人間が、海の中で魚に餌をあげている様子がクレヨンで描かれていた。前に美聡が海斗をシャークワールド河東水族園に連れてきていて、そのときちょうど僕が大水槽に潜って餌やりをしていたもんだから、海斗にとってお父さんは「魚たちに餌をあげてる人」なんだろう。
さすがにこの年のちびっ子が描く絵だから、ほとんど殴り描きなんだけど、それでも人間や魚の特徴はちゃんと捉えられているから大したもんだ。
「上手だねぇ海斗、これパパ?」
「そうだよ。おさかなさんにえさあげてるの」
「そっかー、パパのお仕事だもんね」
「うん、ぱぱおしごとしてる」
僕はしゃがんで海斗に視線を合わせて、その頭を撫でてやった。
僕と美聡が出会ったのは、僕が専門学校に進学して、一人暮らしを始めたばかりの頃だった。僕の隣の部屋に住んでいたOLが、畠山美聡になる前の
やがて僕たちは恋仲になり、子どもを授かって、在学中に夫婦となった。シャークワールド河東水族園への就職が決まったとき、僕はすでに既婚で子どももいる男だった。
学生結婚かつデキ婚だったけど、僕の両親は祝福こそすれ、小言を言ったりはしなかった。僕の両親も、似たようなものだったからかもしれない。僕の両親が結婚したとき、父の畠山響輝はまだ学生で、母の畠山……旧姓
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