第九片 私達も星座のように

 「それでね、歌奏蕾かから!」

 思い出したように話を切り変える花宝かほ

 「あ、そうだった。何かあった?」

 ホームルームが終わるのを待っていたのだから、きっと何か大事な用があるのだろうと信じて問い出す。


 「えっと……その、」


 両手の人差し指同士を突かせながら口籠っている。更には頬を赤らめながら目を逸らすといった、愛の告白でもするのかってくらいの雰囲気。

 (え、??もじもじする程の内容なの…?!どんなこと言おうとしてるの…?!)

 しかも、こちらの様子を伺うように上目遣いで覗いてくる。

 そんな花宝の口から放たれる言葉は……


 「一緒に……帰りません、か?」


 なんだそんなことかと思いつつ、それを言う為だけに苦戦しているのが可愛いなとも思う。

 陽キャだからとかそういうのではなく、初っ端からグイグイ来ていたものだからこれくらいは余裕だろうという考え。これがギャップなのだ!

 歌奏蕾の返事は当然…YESだ。

 「え、いいよ?寧ろいいの?(寧ろ美味しい)他に一緒に帰りたい人いないの??(私のことそんなに好きなの??)」


 「だめなの…歌奏蕾じゃないと…(照)」


 歌奏蕾の言葉の意味を深く知らない様子の花宝はそれはもう超絶可愛いお返事で、歌奏蕾へと無意識に愛のダブルパンチを喰らわす。

 そして歌奏蕾は、脳内で鼻血を見事に噴水の如く排出する。


 (ぐふっ……え?今絶対ラノベだったら「照」って付いてるやつじゃん…!)


 正解である。


 そして無意識に歌奏蕾自身も花宝ちゃんLOVE民になっていた。

 そんな歌奏蕾のことを察したのか、天野さんの嫉妬深い視線を感じる…。


 「じー………」


 「えっと……天野さん…?私、花宝と帰るけど…」

 いつの間に花宝への呼び捨てが馴染んでいる歌奏蕾。尚、本人は気づいていない模様。

 「天野さんは誰かと帰るの…?」


 「当然、貴方様だが!!」


 「お、おぅ…?」

 勢いよく断言するものだから、たじろいでしまったではないか。

 その勢いは、まるで漫画によくあるオノマトペが容易く想像できてしまう程。

 これには当然、花宝ちゃんの許可が必要になるので許可を取ろうと振り返る。

 「あ〜言ってるけど……?」


 「あっ、うん…いいよ。歌奏蕾がそれでいいって言うなら…。」


 もじもじと短めの艶々髪を弄びながら少し目を逸らしている。

 これは……嫉妬とかそういうあれだろうか?


 (もしかしなくてもモテ期ですか…?!ありがとうございますだけど本音を言うと最近イケメンに囲まれる、いわゆる逆ハーレムのアニメ見てるのでどうせなら男にモテたかっタッッッッ!)


 早口で言葉が詰まり、読者側が読みにくくなってしまう歌奏蕾のオタク口調。


 実はスマホアプリの乙女ゲームを多少なりとも嗜んでいたりする。

 最近丁度そのゲームが配信されて1周年になるので、ログインボーナスにガチャチケットというものが配布される。

 そのチケットは無料で10連回せるものである。

 非常にボーナスである。


 今日まだログインしてないからログインしないといけないなどと考えていたら脳内で連想状態になり、プラネタリウムのチケット…それを二枚所持していることを思い出した。

 丁度ここにいる人数マイナス1。

 まぁ自分の分はその場で購入すれば問題ない。


 このチケットは親戚の叔父さんから貰ったものだ。

 プラネタリウムを見に、恋人同士仲良くデートしている姿を想像して興奮したらしく、その妄想を押し付けてきたのだ。


 つまり私にそれをやれと…?!


 実現させほしい余り、「学校のお友達と行きなさい」だとか、あわよくば「恋人と行ってもいいからね」とか言われた…!!どっちもいないから!!

 けれど幸い、一緒に行けそうな仲の人が二人もできた。


 恋人ではないけど。

 恋人になるつもりもないけど。


 一生恋人にならない友人2人に、親睦を深めるべく誘おうと声を掛ける。


 親睦…というのは半分嘘で、この二人が仲良くなって歌奏蕾よりもお互いのことを好きになって自身から剥がれてくれないかなという思考からである。


 好かれること自体は嫌ではなし、寧ろ嬉しい。

 じゃあ何が嫌でそうするのかというと、歌奏蕾は単純にしつこいのが苦手なのである。


 「あの…折角だし寄り道しない?」

 「私はいいけど、何処に…?」

 「天野氏もいいよ!」

 ※天野さんの一時的な謎一人称についてはツッコまないことにした。(ツッコミ疲れた)


 「それはね…」


 ポッケからチケットを取り出す間を作り、その後ひらっと靡かせるように見せる。


 「…プラネタリウム」


 何がかは知らんが、キマった。


 ✿

 プラネタリウムのある科学館へ到着後、上映開始時間まで10分はあるので少しだけお土産を見るように示唆した。

 その間、歌奏蕾はというと…自身のチケットをこっそり購入していた。

 二人は和気藹々わきあいあいと仲良く話していたようで、私がこっそり買っているのには気づかなかった模様。


 「ねぇ、知ってる?プラネタリウムってね、1923年に開発されたものなんだよ?

 なんだか感慨深くならない?」


 歌奏蕾が戻って来ると、花宝が豆知識を披露している最中だった。


 「へぇ〜、それくらいかなって予測はしてたけど、よく知ってるネッ!」


 (天野さん、相変わらず癖の強い喋り方…元気で良いけど。)

 「相変わらず癖の強い喋り方!」


 「「えっ…、?」」


 その発言に驚いたのは、天野さんと花宝……ではなく天野さんと歌奏蕾である。

 花宝からそんな発言が出てくるとは、誰も予想できなかった模様。


 「ふふっ…貴方の思っていることはお見通し♡」


 花宝が作ったような笑顔で擦り寄ってくる。

 まさか私の心中を読めるとでも言うのか…!

 「え、私…?!花宝ってまさかエスp…」


 「エスパーじゃない。ただの推測。」


 「えっ…?」

 先程までの笑顔は何処へやら、急に真顔になり真面目な空気感へと変わってしまった。

 花宝は、やはり何か隠しているのだろうか。

 そんな推測がもう何度目になるのやら、頭を過った。


 「ふふっ、やはり人間は面白い。」


 「何故に急な悪役気取り?!」

 「いやこれは…悪役以前に人外気取りじゃない?!」

 「確かに…!!!」

 歌奏蕾のツッコミに天野さんがツッコミを入れるという、ツッコミの連鎖が発生した。


 「ふふっ…2人は面白いね。いいなぁ…私も面白くなりたい。」

 (はっ…!もしかしてさっきの人外悪役気取りって面白いこと言おうとしたら不器用さが…!!)


 「大丈夫大丈夫!あ〜しらがおもろいからすぐおもろさが繁殖するでぇ!!」

 「天野さんが急にギャルい…。」

 もうツッコミに収集がつかなくなっている。ここまで来ると面白さが抜けてしまうのではないだろうか。

 あれ…?私ってお笑い芸人目指してたっけ…??


 「あっ、プラネタリウム上映の10分前だし、もう行く?」

 「そうだね。お土産は……後で見ればいっか。」

 花宝は、腕時計を着けているだけあって時間管理がしっかりしている。

 私はというと、スマホがあるので殆どそれで時間管理している。腕時計を身に着けるのは試験とか大事なときくらいだ。


 プラネタリウム上映10分前の会場へと、歩みを進める。

 進めた…。

 ………?

 背丈の低い人影が2つ。その双方、見覚えがあった。

 流石に人影の地点では勘違いの可能性が高いのでその場をよく見ながら入場する。


 歩き、近づくに連れその人影は明確になっていき……見えたのは……

 !?!?

 「今朝の少年…と、雪姫ゆき!?!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

樹の下に桜の足跡 心愛 編弥花/kokoa ayaka @kokoaayaka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画