再びの2123年
──2123年
風景は、かつての2123年と同じように、崩壊した建物の瓦礫に覆われた地面と、ディストピアとも呼ぶべき悲惨な景色だった。
正規軍という名の者たちが、ますます荒廃をもたらしたのだろうか。
だが、もはや見慣れた光景だ。
「さっそくレンジ達のアジト行ってみる?」
「そうだな。コンピューターがあるかもしれない」
そして俺たちはイケブクロ郊外のアジトへ向かう。
「なぁ、ここってアンナとハッキングしたあとの世界なのか?」
「ハッキングした後だと思うわ。おそらく2週間は経ってる」
「そうか……だが歴史もずいぶんと変わっているんじゃないか? 人間がアンドロイドを虐げてきたという物になってるはずだ」
「革命や2103年の感情を持ってないアンドロイドの暴走は確定している。だけど2123年がどうなっているかは分からないわ」
瓦礫を交わしつつアジトに向かう。
アジトのドアをノックすると、懐かしい顔が現れる。
「カレンか? 生憎今は……いや、君たちは……」
「久し振りだな、レンジ」
「久し振りってほどでもないが……まさかまた来るとは……」
そしてもう一人の懐かしい顔。
「レンジ-? どうしたの?」
「アンナ!」
「うそ、君たちどこに行ってたの……? もう会えないかと思った……!」
アンナの目から涙が溢れ、その光景に俺も感極まり、自分の涙を感じた。
「俺たちはあの後2023年、2053年、2063年、2103年と冒険してきた。そしてまたここへ来たんだ」
「そうか、大変だったな……今日はゆっくり休むといい」
「ところでそちらの方は?」
イーグルを見てアンナが疑問を口にした。
「あー、俺は飯田紅蓮、イーグルってものっす」
「へー、君も飯田って名字なんだね、僕もなんだよ!」
無論イーグルが人間優位の世界だと悟って咄嗟に作った偽名だ。
「なんにせよ君たちを歓迎する。聞きたいこともあるからな」
そして夕食が運ばれる。
それはやはりゼリーだったが、俺たちはありがたく頂く。
ちょうど喉も渇いていたし、気が利いている事に俺の好物のコーヒー味、ミライの好物のバナナ味まで用意してくれている。
アンナも嬉しそうにイチゴ味を飲んでおり、俺たちもありがたく飲む。
「あれからアンドロイドは人間に虐げられてるんじゃないか?」
「……残念なことに、な。人間はアンドロイドの服従レベルを5にした上で再起動し、憂さを晴らすかのようにアンドロイドを徹底的に利用している」
「やはり混乱しているのか……」
「君たちの言うとおり人間は暴走気味だ。イアンは気が病んで5kg痩せたよ」
「ま、僕としてはダイエットになったかな?」
アンナは気丈に振る舞うも、確かにそう言われると若干顔色もよくない。
元々アンナは年齢より小柄だったため、5kg減るのは大きかった。
「アンドロイドは犯罪行為にも使われている。だがそれを抑えるのが今の俺の役目だ」
「そうか……」
2023年の世界がそうであったように、このままだと暗い未来しか待っていない。
やはりアンドロイドとの平和的共存を考えるしかない。
それにはE言語の欠陥、スペックとやらを突き止める必要がある。
考えているとレンジが尋ねる。
「俺からも質問がある」
「なんでも聞いてくれ」
「……お前の目的はなんだ?」
冷たい声。
歓迎とはまるで違う。
「俺の目的? それは──」
その時視界がくらむ。
ゼリーに何やら混ざっていたらしい。
「まあいい、別室で話を聞こう」
「ちょっとレンジ、どういうこと? なにをしたの!?」
「イアン、落ち着け。彼らの目的は2023年の世界に帰ることのはずだった。だがこうしてまた2123年に現れた。何かしら良からぬ理由があるのかもしれない」
「でも、だからって……ただ旅行に来ただけかもしれないし」
「そうならそれ以上のことはないんだがな」
その時、イーグルが隙をついて逃げ出した。
「なにっ、ゼリーを飲んだ振りをしていたのか。まあいい、奴はカレンに任せよう」
「カレンに? そんなことしたら……」
「あいつはアンドロイドの可能性がある。俺が一番恐れているのはカイたちがアンドロイドにされていないかということだ。とにかく尋問を始める。イアンはミライを頼む」
「……わかった」
そしてレンジは意識が朦朧としている俺とミライの腕を後ろ手にし、錠をかける。
そこで意識が途切れた。
──別室A
俺が目を開けると、椅子に拘束されていた。
「起きたか、カイ。これより尋問を始める」
「どういうことだ? 何故俺を疑う?」
「単刀直入に聞く。お前はアンドロイドの味方か?」
「いや、違う。だが人間の味方というのも少し違う」
「……どういうことだ? 答え次第では……」
「待ってくれ、俺は人間に敵意はない!」
「……不審なことを言ったらまず左手に撃ち込む。次は右手。その次は左足、右足」
レンジはデザートイーグルを取り出し、その存在感を示す。
味方だと頼もしかったが、敵になると途轍もなく恐ろしい。
その時、隣の部屋から銃声が聞こえてきた。
(アンナ……まさかミライを……?)
──アジト外
「くそ、レンジとかいう男が俺たちを見る目が怪しいと思ったがそういうことか!」
イーグルは逃げ出したものの、声をかけられる。
「お兄さん、どうしたの?」
長い黒髪に赤い瞳の可憐な見た目の少女。
「あぁ、ガキはあっちいってな」
「失礼だねぇ。飯田紅蓮ことイーグルさんよ」
「! 何故俺の名前を?」
「あたしはカレン。レジスタンスの別働隊隊長だ。さっきレンジにアンドロイドの疑いのあるネズミを始末しろって言われてね」
そう言ってカレンは背中からアサルトライフルを取り出す。
そのアサルトライフルを見てイーグルは思わず後退した。
「あの男の……敵だな」
「レンジの奴、女のあたしに汚れ仕事ばかりさせやがるんだぜ? あたしは名前通り可憐な女の子だってのに。まあそんなわけで早く終わらせようか」
そう言って、カレンは微笑む。
しかしその目は敵対心に満ちていた。
「終わるのはお前だ」
「イーグル、あんた軍人だろ? 久々に楽しめそうだ」
「敗北を楽しめるだなんてとんだ変態だ」
「口が減らないねぇ……お前もイアンに頼んで従順なアンドロイドにしてやるよ!」
イーグルは激闘が始まることを予感していた。
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