頂上決戦

 ──前日、酒場


「あの女はな、E言語……そいつを採用した初のモデルだ。俺たちD言語で出来たアンドロイドとは全く違う」

「だが、そのE言語を使っただけで何がどう危険なんだ?」


 イートはグラスを傾け、飲み干す。

 そして空になったグラスを眺めながら語る。


「奴らは感情を持たないんだ。政府の連中が感情を無くせばより従順になるだろうと実験台として作ったんだと。しかし予想に反して暴走し、過激派アンドロイド組織〝Sons of Silicon〟……通称SOSを立ち上げた。そのリーダーを務めるのがフェリシアだ」

「感情を持たない……SOSとやらは何人いる?」

「フェリシア含め5体。奴らはE言語の圧倒的な処理性能で驚異的な戦闘力を誇る。特にModel-FEL……フェリシアは最新機種のmodel-Fシリーズなのもあり極めて危険だ。悪いことは言わねえ、関わるな」

「なるほどな……」

「……前にフェリシアの奴が突如俺の酒場に入ってきたんだ。軽くあしらおうとしたら、右腕一本だけで逆にあしらわれて、俺から情報を強奪……もとい拷問したんだ。逆さづりにして喋らない度に顔にキック……あれはキツかった」


 そう言い、イートは震える。


「それでフェリシアをそんなに恐れているのか……」


 イートは震えた手でカップに新しい水を注ぎつつ、憂いを帯びた表情を見せる。


「だがあいつらは気の毒なんだ。感情を奪われて、な。仮に感情があるとすれば……怒り、だろうな」

「そうか……そいつらに迷惑してるのか?」

「あぁ、大迷惑だ。人間どもはSOSのアジトを必死になって探している。アンドロイド殲滅への口実にしようとも目論んでいるって噂だ。だが戦闘力の高さから手をつけられないんだ」

「放っておけばどうなる?」

「しょぼい第四次世界大戦が始まるかもな……」

「そいつらのアジトを知ってるか?」

「! あんた、SOSに立ち向かうって言うのか? 確かにアンドロイドがSOSを止めたなら穏便に片付くだろうが……」

「俺を誰だと思ってる?」


 イーグルは左手の親指でコインを弾くと右手でベレッタを抜き、空中に回転するコインのど真ん中を撃ち抜いた。


「元、革命軍だ。新参には負けねえ」

「……そうか、ならアジトとされている場所を教える」


 ──下水道


「と言うわけだ」

「そんな、まさかフェリシアが……」

「まだここにはあと2体潜んでるんだ。だからあんたは帰れ、足手まといだ」

「私も少しは戦えるわ」

「……まあ、下手に捕まるよりは傍にいた方がいいかもな。しょうがねぇ」


 イーグルとミライは下水道の奥へ進む。

 少しして、イーグルの頬を、銃弾が抉る。

 鮮血が数滴滴り落ち、舌打ちする。

 

「ちっ、スナイパーか。俺としたことが油断していた。あいつは相当目が良いぞ」


 イーグルとミライは咄嗟に壁に身を隠す。


「どうやって進む? こんな狭い通路で待ち伏せされたらどうしようもないんじゃ……」


 しかしイーグルは落ち着き払っていた。


「あいつには弱点がある。見えすぎることだ。こんな暗い通路で顔を狙ってきたことから分かる。正確に撃ち抜けなかったことから恐らく距離は100mってとこか」

「でも、見えすぎるなんて弱点じゃないんじゃ……」

「いや、弱点だ。特にこの地下ではな。ミライ、目を閉じて耳を塞げ」

「え、えぇ……」


 イーグルは手榴弾のピンを抜くと、勢いよく投げて数m先で炸裂させる。

 それは破壊を狙った物ではなく、強烈な閃光と爆音を撒き散らした。


「スタングレネード……音と光で動きを止めるやつだが目に頼るあいつには強力な兵器だ。地下だと予想以上に響くな……ミライ、一気に距離を詰めるぞ!」

「えぇ!」


 イーグルの予測通り、スナイプされることはなかった。

 100メートル先、まだ丸まっているアンドロイドの頭をイーグルは撃ち抜く。

 そしてリロードをしている時だった。

 音もなく、天井から別のアンドロイドがナイフを振りかざしてきた。


「イーグル!」

「気付いてる」


 イーグルは左太股から長いサバイバルナイフを抜き、応戦する。

 鍔迫り合いになるも、アンドロイドの力が強く、イーグルはナイフを逸らす。

 アンドロイドは追撃の手を緩めず、頸動脈、心臓、鳩尾……的確に急所を狙った突きを放つ。

 イーグルはかろうじて攻撃を逸らすも押されていた。

 ミライにはその突きの速さは目視出来ないほどであった。

 イーグルは銃撃よりも近接戦闘において真価を発揮するが、アンドロイドの強さに圧倒される。


(こいつ、俺より強いな……)


 イーグルは内心で焦りを感じる。

 ただし、こちらは2対1の有利な状況だ。ミライは迅速に判断し、アンドロイドの脚を狙って射撃を開始する。

 アンドロイドはバックして躱すものの、その体勢の崩れた瞬間、イーグルがナイフを投げる。

 アンドロイドはそのナイフまでもかろうじてかわすが、イーグルの追撃射撃のベレッタの弾丸は避けきれなかった。


「ぐぅ……」

「悪いな、二人がかりで。だが戦場に卑怯なんてないんだ」


 イーグルがアンドロイドの頭を撃ち抜く。


「手足は潰した。後はこいつらの頭、フェリシアだけだな。最も厄介だろうから逃げられるのを恐れてあえて残しておいた。ミライ、共に奇襲をかけるぞ」

「えぇ──」


 ナイフを拾い、左太股のホルスターに収納し、ベレッタのリロードを終えたときだった。

 響く足音。拳銃を左右両方の手に握るフェリシアが姿を現した。


「仲間から信号を出されたと思ったら……何故アンドロイドのあなたが邪魔をするの……?」

「俺は今後の災いの元になる芽を摘んでいるだけだ。お前らがアンドロイドだろうがなんだろうが敵だ」

「……そう」


 フェリシアはすかさず銃を向け、発砲する。イーグルは咄嗟に身をかわし、ミライから距離を取る。


「ミライ、手出しはするな。こいつは手強い。下手に援護されたら逆に俺がミライに撃たれかねん」

「わかったわ!」

「……確実に仕留める……」


 2体のアンドロイドの決戦が、下水道の奥深くで幕を開けた。

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