強敵
──シンジュク
俺はE言語を習熟し、ハッキングの手法を学び尽くしたことでC言語でのハッキングのプログラムを作っていた。
「カイ、順調?」
「あぁ、C言語は母語みたいなもんだ。時間はかかるが着実に出来ている」
「それは良かったわ」
「まあ元の世界に帰る方法は分からないままだけどな」
「そうね……記憶もまだ全然戻らないのよ……」
「だが、ミライは2063年から来た、そこは確かだろうな」
「そうね。……ねぇカイ、あの時は2023年の世界で暮らすこと考えとく、って言ったけどありかもね」
「ほんとか? 俺は一人暮らしだしミライがいいなら受け入れるぞ」
「うん、そのために私も何か思い出してみせるわ」
そろそろ何かしら手応えが欲しいところだが、思い出せないことを責める訳にもいかない。
1番苦しんでいるのはミライだからだ。
「はい、ゼリー。そろそろ休むべきよ」
「ありがとう。そうだな、ちょっと休むか……」
そして床に横たわる。
「だらしないわね、ベッドまで行きましょうよ」
「大丈夫だ、10分ほど休むだけ……」
しかし俺はその10分目を閉じている間に眠ってしまった。
目が覚めると、ミライが逆さまから顔を覗き込んでいた。
「おはよう」
「え? もしかして膝枕してくれてたのか?」
「枕も無しに固い床に寝るのがかわいそうだったからね。勘違いしないでね」
「そうか、悪いな。膝枕なんて初めてされたがミライの膝は俺が使ってる枕より柔らかいし、何より温かい」
「そ、そこまで具体的にレビューされると余計恥ずかしいわよ!」
「でもなんか、幸せな気分になれた気がする」
「そう、それはよかったわ。ところでもう30分はこのままなんだけど」
「あれ、30分も寝てたのか。でもまだ眠い……」
「なに甘えてるのよ、こっちとしては足の痺れと同時に恥ずかしさが強まるばかりなんだけど」
「いや、久々に温もりを味わった気がするんだ、もう少し……」
「……3分だけよ」
ミライは頬を赤く染めて視線を逸らし言う。
ミライは色白だからか、頬に反応が表れやすいようであった。
改めて見るとミライは容姿が整っている。
「なにじろじろ見てるのよ、3分経ったわよ」
「え? まだ1分じゃないのか?」
「数えてたからわかるのよ」
ハッキングのプログラムを書いている間は時間が長く感じたが、膝枕はやたら短く感じられた。
「e=mc2ってやつか」
「相対性理論? つらいことは長く感じて幸せなことは短く感じるっていう」
「あれ、ミライも知ってるのか……」
聞かれたくない独り言を聞かれ、俺まで羞恥心に苛まれる。
「なんだか、残酷よね。人生を端的に表してるみたいで」
「確かにこの世界はつらいことばかりだが、残酷なだけじゃない。こうして僅かでも温もりがあるから人は生きていけるんだ」
「温もりは具体的には36℃くらいでしょうね」
「い、いや、そうじゃなくてだな……でも幸せの温度は案外体温と同じなのかもな。熱くなく冷たくもない、温かいんだ。神様は触れ合う事が幸せだと思ったんだろうな」
「さらっと恥ずかしいこと言ってない?」
「いや、スキンシップによってセロトニンが分泌されるメカニズムを分析しただけだ」
「まあカイの分析が正しいかは分からないけどそろそろどいてもらおうかしら、足が痺れてしょうがないわ」
「あぁ、すまない」
「レンジ達も今頃頑張ってるしね」
「そうだな。現実世界のセキュリティは結局壊すことが最善手なのかもな」
俺はゆっくりと起き上がる、ハッキングプログラムを作る作業に精を出す。
──ウエノ
広い建物の内部には二本足、四つ足の警備ロボが案外少なく、地下へ向かう改段にも1体倒れているのがいるのみだった。
「1Fは見張りが少ないらしい。地下に破壊すべきスーパーコンピュータがあるが、同時に警備も強いかも分からない」
「警備ロボのほかにアンドロイドもいるっていうのか?」
「なんとも言えないが。デザートイーグルにはスタン・ガンを装填しておいた」
「あたしもさっきのアンドロイドからAK-47奪っておいたし多少はなんとかなるだろ」
そして地下へ進む。
地下で警備ロボを復旧しようとしているアンドロイドが目に入る。
こちらにはまだ気付いていないが、このままでは警備ロボに一網打尽にされる。
「まずいな、レミントンで仕留めるか」
「だがあのアンドロイド、丸腰に見える」
「近接戦闘に自信があるのか……なんにせよ仕留める」
レンジはレミントンによる狙撃を行う。
銃弾はアンドロイドの頭部に迫る。
しかしアンドロイドは振り返り、頭をずらし回避する。
「貴様がこの一連のテロの犯人か!」
さらにアンドロイドはナイフを投げて反撃する。
距離が離れていたこともあり、かろうじてレンジはワルサーを楯に攻撃を防ぐ。
(ワルサーはもう使えないな……)
レンジはすかさずワルサーを捨て、デザートイーグルを取り出すも、アンドロイドは驚異的な速度で距離を詰め、レンジに蹴りを放とうとする。
しかし、カレンが間に割って入り、構えを取る。
その瞬間アンドロイドはスピードを全力で殺し、カレンの掌底を回避する。
「どうした? こんな可憐な少女にビビってんのか?」
その間にレンジはデザートイーグルをアンドロイドの足を狙い撃つ。
しかしそれは跳躍して回避された。
アンドロイドはそのまま距離を取る。
(一瞬尋常じゃない殺気のような物を感じたい。だが、相手はメスだ。瞬殺する)
そしてアンドロイドはデザートイーグルの追撃を躱しつつ、カレンに猛然と迫る。
AK-47で撃とうにも、稲妻を描くような不規則な動きで接近し、照準が定まらない。
アンドロイドはカレンの頭部にハイキックを放つ。
しかしカレンは後方に倒れるように手を地につけ、カウンターの蹴りをアンドロイドの腹部に食い込ませる。
「ぐぼっ……」
(なんだ、この威力……? ただの蹴りじゃない……)
血を吐き、うずくまるアンドロイドにカレンは迫る。
「生きたまま頭を解剖されるのとここで情報を吐いて見逃されるの、どっちがいい?」
「ごほっごほっ!!」
「早く答えろ、内部にアンドロイドは何体いる?」
「……わかった、お前達を目当ての場所へ連れて行ってやる」
そしてアンドロイドが懐から取り出したのは……手榴弾。
アンドロイドはたちまちピンを抜く。
「地獄へとなぁ!」
「!」
「カレン!」
レンジが声を張り上げるも、カレンは冷静に手榴弾を遠くへ蹴り飛ばす。
そしてカレンはアンドロイドのを楯に爆撃を回避。
「この程度で動じるなんてレンジ、あんたらしくねえな」
「今回のアンドロイドはなかなかに手強かった。恐らく俺一人では負けていただろう」
「あんたが負けるところなんてあたしには想像つかないがね」
二人は奥へ進むも、特にアンドロイドの気配もない。
そしてある程度探し回っていると、巨大なスーパーコンピュータが見つかった。
だがそこにはもう一体、アンドロイドが待ち構えていた。
「俺はModel-FOX。よくここまで来たな」
「話すことはない」
そしてレンジはデザートイーグルを向けるも、アンドロイドはまるで倍速で動いているかのような速度でレンジに接近し、レンジの腕を掴む。
そのまま折ろうとするも、飛ぶことで回避。
アンドロイドにローキックを放ち、距離を取りサブマシンガンを手にし、発射。
しかしアンドロイドは縦横無尽に行き交い、まるで捉えられない。
壁を走り、そのままレンジに蹴りを放つ。
レンジが吹き飛ばされる間にカレンもAK-47を撃つも、高速で駆け抜けることで回避され、弾切れに見舞われる。
(まずい、レンジもあの様子じゃ骨がイかれてるかもしれない、だが距離が──)
アンドロイドはレンジに迫り、とどめのかかと落としを繰り出した。
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