切り札
──ビッグカメラ
時計の針が真夜中を指し示す。その合図と共に、レンジとミライはスキャンデバイスにカードをかざす。
ミライは2週間前の作戦会議を思い出した。
──2週間前
「アンドロイドはセキュリティを強化しており、強力なロックをかけている。だが奴らの弱点はそのセキュリティをあまりに盲信していることだ」
「でも、どうやってセキュリティを突破するの?」
「イアンがIDカードを作れる。それを使えば開けることができ、隙を突けるだろう」
「ね? 僕のテクニックが光るでしょ?」
アンナはそう自慢げに笑うも、カイは皮肉げに答える。
「確かにその方法ならなんとかなるかも知れないな。そう、本当にロックを解除さえ出来ればだが」
「むぅ、失礼だなぁ。7重構造の多元ロックまでなら解除出来る自信あるんだから」
「その多元ロックとやらは窃盗を行う店にはどのくらいかかってるんだ?」
「5か6ほどだと思う、だから行ける自信あるよ」
──
そしてアンナのIDカードにより、ロックは解除された。
「こんなあっさりロックが解除されるなんて……」
「だが中に潜んでる警備ロボは厄介な奴らだ。油断するなよ」
天井に2つ付いているレーザー砲らしきものも反応しなかった。
静寂な空気の中で、二人は建物内に足を踏み入れる。
1Fの光景が広がる。しかし、思っていたほどのパーツは見当たらなかった。
「1Fは後回しにして2Fから見よう。警備ロボは出入り口にあたる1Fにいる可能性が高いと思う」
「分かったわ」
そして階段を極力音を殺し、上る。
「ねぇ、監視カメラとかないの?」
「監視カメラ? 見張る人員が足りないし、入る人間も皆無なので労力に見合わないのだろう、無い。それにアンドロイドは入口の多重構造のロックに全幅の信頼を寄せている」
そしてたどり着いた2F。そこにはマザーボードやCPU等のパーツが山積みされていた。もしかしたら2Fだけで物資の調達は済むかも知れない。
「手分けしてやりたいところだが、二人固まっていた方がいざという時に対処できる確率は上がるだろう。俺が必要なパーツを漁っている間、ミライは周辺を見ていてくれないか」
「分かったわ」
──ヨドミバシ
静寂に包まれた建物に入るなり、アンナはある提案をした。
「手分けしてやろうか。僕は2F見てるから君は3F見てくれないかな」
しかし俺は反対だった。潜入などしたこともないし、1人だと心細い。
「そんな! 二人で固まって行動した方が──」
「そう言って僕に守って貰おうと思ってるでしょ」
アンナの言葉は、俺の心情を巧みに突くものだった。
「あぁ、警備ロボは1体だけだ。だから二人で行動して確実性を……」
「僕たちは戦闘力が低いしとろい。それに恐らく四つ足の警備ロボは1Fにいる。だから見つからない前提で二人でささっと行動した方が成功率高いと思うよ」
アンナは幼げな見た目に反して強気だった。こうも言われると俺も特に反論が浮かばなかった。それにこうして話してる時間も勿体ない。俺は渋々頷き、3Fへ向かった。
そして俺は慎重に3Fに向かった。
3Fの出入口には人型の警備ロボがいたが、やはりスリープしているらしく、反応はなかった。
(CPU、メモリ、マザーボードは必須としてファンもあった方がいいか……)
パーツには値段も載っており、とりあえず高価な物を優先してカバンに詰め込む。
しばらく集めていると、電話のバイブレーションが鳴る。アンナからだ。
「四つ脚の警備ロボは2Fにいたよ! 慎重に1Fに来て!」
「2Fに? 分かった」
俺も3Fのパーツはある程度集めていた。慎重に1Fに向かう。
そのときだった。あまりにも間が悪かったのか、あるいはもう一体いたのか。
「……」
赤い光を二つの目から放つ四つ足のロボットと鉢合わせになり、目が合った。ロボットはたちまち駆動音を鳴らし、背中から銃器を露出させる。
「うわぁあああああ!!」
俺はすかさず銃を何発も撃ち、なんとか1発命中させた。
そして警備ロボが怯んでいる隙に、慌てて隠れる。
しかしアラートは鳴り響き、暗かった室内は赤い光に包まれる。
アンナからの通信がモバイルを通じて鳴り響く。
「カイくん!? 僕は1F出入り口だけど、どこにいるの!?」
「3Fだ! 見つかってしまった! 早く来てくれ!」
「努力する!」
くそっ、なんで俺がこんな目に遭うんだ……! 俺には元の世界でやらなきゃいけないことが、その輝かしい才能があるというのに……!
こんなことはその辺の凡人を巻き込むべきだ。
そんな呪詛を振り撒きながら、俺は途方に暮れるような時間を苛立ちと恐怖と共に過ごした。
1秒がまるで倍の長さのように感じられる。
少ししてサプレッサー付きの銃声が静寂を切り裂き、そして何か大きな物が倒れたような音が響く。
「アンナ! 本当に助けに来て──」
「カイくん! 後ろ!」
その時、音もなく迫っていた四つ足の暗殺者の存在に気付いた。
「迎え撃って! 君の銃弾にも切り札のスタン・ガンが使われてる!」
四つ足の警備ロボはたちまち背中から機関銃を露出すると同時に、手足が折りたたみから開くように展開され、新たな形態に変わろうとする。やるなら今だ──!
俺は四つ足の警備ロボの頭にスタン・ガンとやらを放つために引き金を引いた。スタン・ガンが光りながら警備ロボに直撃する。
警備ロボはキャイン、と甲高い犬のような悲鳴を上げる。
しかし四つ足の警備ロボは俺にのしかかり、マウントポジションになる。
更に頭までパカッと2つに割れ、銃口が顕わになる。
犬の見た目から著しく離れたそれは兵器でしかなかった。
まるで人を殺すために設計されたかのような、狂気的なデザイン。
──そして銃口から銃弾が放たれる。
ただし、アンナの銃口からだ。
それは四つ足のロボットの露出した頭が弱点だったのか、上手くそこに命中し警備ロボは露骨にダメージを受ける。
アンナは弾切れまで撃ちきった。四つ足のロボットは悲鳴のような声を上げ、痙攣しながらもその場に倒れ込む。そして四つ足の警備ロボは機能停止した。
──ビッグカメラ
警報が鳴り響き、緊迫感が空気を支配する。
「警備ロボが一斉に目を覚ましたか……向こうがしくじったらしい」
「そんなまさか、カイ……!」
「向こうの心配をしてる場合ではない! 我々も直ちに逃げるぞ!」
建物内には二足歩行のロボットが出入り口を固めている。そのロボットは白い外装で覆われ、アサルトライフルを手にしていた。
「警備ロボの弱点も人間と変わらない、頭だ。だが頭は補強されている可能性が高い。まず俺とミライで手を狙ってアサルトライフルを手放せさせよう」
「分かったわ!」
そして二人で壁に張り付き、角から顔を覗かせて警備ロボの様子を伺う。
レンジはマグナムであるデザートイーグルを握る。
「……」
警備ロボはまだ気付いていないらしい。
「よし、3、2、1で飛び出すぞ」
「了解……!」
祈るように銃を握りしめるミライ。静寂の中、決死の覚悟を胸に抱いて、ミライとレンジは行動を開始する。
「3……」
「2……」
「1!」
勢いよく二人が飛び出し、警備ロボに向かって銃撃を加えた。レンジが2発、ミライが3発、5発の弾丸が放たれ、その内3発は手の甲に、1発は人差し指に命中した。
しかし、警備ロボは痛みを感じることなく、アサルトライフルを構えたままこちらに向けてくる。
「!」
警備ロボがアサルトライフルの銃口をミライに定めた。
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