パスコード
──ビッグカメラ
警備ロボがミライに銃を向けた瞬間、レンジの冷静な判断が光を放った。レンジの速やかで正確な射撃が、警備ロボの指に致命的な一撃を与えた。
人差し指を狙ったことで損傷したのか、引き金を引けない様子で、そのチャンスを見逃さず、ミライは接近し、アサルトライフルを奪おうとするも警備ロボの力はとてつもなく強く、離れようともしない。
しかし即座にデザートイーグルのリロードを終えたレンジが至近距離で頭に弾丸を撃ち込む。
すると警備ロボの力も緩み、アサルトライフルを強奪できた。
レンジはもう一度頭を撃ち警備ロボを破壊した。
「AK-47か……警備ロボは上質な装備を身に付けている。これは思わぬ戦利品かも分からない」
「確かにアサルトライフルなら四つ脚のロボットにも立ち向かえるかも……」
「いや、奴らの射撃精度は遥か上だ。それにあの二人に持たせた回路にダメージを与えるスタン・ガンならともかくただの弾丸じゃ破壊することはできないだろう」
「そう……」
2人は1Fへ降りる。
出入り口には再び立ちはだかる二本足の警備ロボ。その姿勢は堅固で、まるで不動の岩のよう。しかし倒さなければならない。
「前と同じで腕を狙うぞ。アサルトライフルはミライが使ってくれ」
「使い慣れた人が使った方がいいんじゃないのかしら?」
「俺はハンドガンで急所を狙える自信がある。ミライが持つべきだ」
「分かったわ」
しかし、2人は新たな脅威が接近していることに気づかずにいた。
──ヨドミバシ
「はぁ、なんとか四つ脚のは迎え撃てたか。しかし二本足の警備ロボに立ち塞がれ、アンナは弾切れ。状況が絶望的なのは変わらない」
「あのねぇカイくん、僕を舐めて貰っちゃ困るよ。この警備ロボはコンピューターで出来ていて、ネットワークで連携している。つまり……」
「なるほど、こちらからアクセスして一斉に操作できるわけか」
「その通り! じゃあハックするよ」
アンナは鞄からキーボードとモバイルモニターを取り出し、倒した四つ脚の警備ロボと接続すると、高速なタイピングを始める。
「えぇっと、パスコードを入力してください……?」
パスコード、それはハッカーにとっては乗り越えるべき障壁だった。
「参ったね、4桁のパスコードを入力してくださいとなってる」
「4桁? それなら心当たりがある、試しに入れてみてくれ」
「心当たり? まあそれに賭けるしかないか……」
──ビッグカメラ
物音がし、ミライとレンジは振り返ると、四つ足の警備ロボが機能停止し、その姿勢が崩れていた。
「これは……こんな至近距離まで音を立てず近寄っていたというの?」
「おそらく向こうが上手くやってくれたんだな。この警備ロボも物資としてありがたく頂こう」
そして、ビッグカメラの出入り口に立ちはだかっていたもう一体の二本足の警備ロボも、同じように機能停止していた。
──ヨドミバシ
「ところで、なんでパスコードが1960だとわかったの?」
「ヨドミバシの創業の年だ。4桁と聞いてこれしかないと思った」
「160年以上も昔なのに……って君たちは100年前から来たんだっけ」
「まあ俺は数字には強いからな」
「もっと褒めたいところだけど、いつ復旧するか分からないから早めに脱出しようか」
「あぁ!」
そして俺たちは1Fへ降り、出入り口へ向かう。
アジトへ戻るまで何度も警備ロボやアンドロイドが追ってないか不安で振り返ったが、不気味なほどに静まりかえっており、追手の気配など無かった。
そしてアジトへ辿り着く。
「なあアンナ。ミライ達は大丈夫かな……? 俺達も行った方がいいんじゃないか?」
「レンジがいれば大丈夫だよ。というかレンジは本当は1人で入りたかっただろうね」
「どういう意味だ?」
「おそらく、レンジは君達が信用に値するか見たかったんだと思うよ」
「レンジは信用してくれてないのか?」
「多分ね。スタン・ガンがあるとはいえ射撃のセンスの欠けた人間を2人で組ませるのは若干無謀だからね。カイくんとミライちゃんを組ませたくなかったんじゃないかな」
「つまりレンジとアンナは見張りでもあったのか……」
「あ、でも僕はカイくんたちのこと信じてるよ! 特にカイくんのプログラミングの知識は興味深いからね」
「そうか……そう言ってくれると嬉しい。俺は謂わばアンナの弟子みたいなもんだからな」
「まあ僕を超えられたらいい子いい子してあげるよ」
「もっとまともな特典はないのか……」
「……でも、最初は頼りないなって思ったけど見直したよ。やるじゃん」
笑みを浮かべるアンナを見て、俺たちは良好な関係になれたのだと実感が湧いた。
少し遅れて四つ足のロボットを背中に抱えたレンジと鞄を2つ背負ったミライが歩いてきた。
「ミライ、無事だったか!」
「カイも無事だったのね!」
「四つ脚の警備ロボと目が合った時はどうなるかと思った……」
「……やっぱりカイがしくじったのね」
「な、なんだよ……でも、みんな無事でよかった」
俺は一気に安心し、気付くと涙が出ていた。
慌てて拭うも、止まらない。
「あ、あれ……?」
「カイ?」
「はは、いや、ほんと死ぬかもしれないと思ったからさ……悪い、格好悪くて」
「いや、カイくんはよく頑張ったよ。四つ脚の警備ロボに見つかったとはいえ、なんとか撃退したし」
「いや、俺さえ見つからなければ皆を危険に晒さなかった。ごめん」
「……確かに、カイは反省するべきだ」
レンジはそう言うも、その声はやや温かみがあるように思えた。
「そんなこと言わないであげてよ。パスコードを解除して警備ロボの機能停止をさせたのもカイくんなんだからさ」
アンナはぽんぽんと俺の背中を叩く。
「あら、そうだったの? それでこっちにいた警備ロボも機能停止したのね」
「そうだよ! 何気に今回の作戦一番の功労者かもね」
「……ありがとう。でも俺とアンナのタッグでよかった」
「言ったでしょ? プログラマー同士頭脳で切り抜けようって」
「それにしてもカイとアンナってばいつの間にか随分仲良くなったのね?」
「お? ジェラシー?」
「そんなんじゃないわよ!」
レンジはそんなやり取りを見つつ、ため息を吐くと、静かに告げる。
「作成、成功だな」
「……ああ!」
こうして俺達の一世一代の窃盗は幕を下ろした。俺たちは成し遂げた。
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