第35話

「それじゃあソフィアちゃんからやろうか。そこに訓練用の武器が揃っているから槍を取ってね。」


「はい。」


「二人はこっちで私と見学だよ。」


 ソフィアが訓練用の武器が大量に並べられている場所から自分に合う槍を取る。

これから戦うソフィアの邪魔にならない様に観戦する者達は観戦席に移動する。


「準備はいいか?」


「はい、いつでもいけます。」


 野々原先輩の声にソフィアが頷く。

相手はスライムだと分かっているが油断無く槍を構えている。


「そんじゃあスライムの召喚頼むぜ?」


「分かりました。」


 野々原先輩の声に頷き、短杖を持った先輩が杖の先端を地面に向ける。


「我が呼び掛けに応え姿を表せ、召喚!」


 そう呟くと地面に魔法陣が現れて、地面から競り上がる様にスライムが現れる。

全身を現したスライムがプルプルと揺れている。


「本物の魔物!」


「そっか凛ちゃんは実際に見るのは初めてだったね。」


 興奮した様に隣りで呟く凛を見て南川先輩が笑っている。


「実際に戦うのは初めてだろうからスライムに殺傷能力のある攻撃はさせるな。」


「分かっています。スラりん、いけ!」


「いきます!」


 野々原先輩の声に頷いてスラりんと言う名前のスライムに攻撃指示を出すテイマー。

するとスライムがソフィア目指して飛び出す。

スライムにしては中々の速度である。

それを迎え撃とうとソフィアも前に出る。


「はっ!」


 真っ直ぐに突っ込んでくるスライムに向けて槍を突き出す。

ソフィアの突き出した槍がスライムの身体に埋まる。


「届かない!?」


 槍が狙った場所まで届かず、ソフィアが驚いている。

スライムの体内で止まった槍の先端から少し前方に小さな石の様な物がある。

ソフィアの狙いはそれを槍で破壊する事だった。

しかしその直前でスライムの身体から槍が弾かれてしまう。


「スライムは核を壊すのが定石。それはソフィアちゃんも分かっているね。でもそんな事はテイマーが一番よく分かっているんだよね。」


 その石の様な物はスライムの核である。

スライムの核は弱点とも言える場所なので、破壊すれば即座に倒す事が出来る。

それをソフィアも分かっているからこそ核を狙って攻撃したのだ。


「何かしらのスキルで対策していると言う事ですか。」


「さすがは皇真君、その通りだよ。」


 皇真の呟きを聞いて南川先輩が拍手してくれる。


「あのスライムは弾力と言うスキルを持っている。核まで武器が届かなかったのはそれだな。」


 弾力と言うスキルは自身の身体の弾力性能を上げて、外的要因による物理攻撃を受けた際に元に戻ろうとする力を高める効果がある。

これによりスライムの身体くらい簡単に貫きそうな槍による突きを途中で止めて核まで届かせなかったのだ。


「単純な突きでは倒せませんか。ならばこれで勝負です。」


 ソフィアの手から槍に魔力が流れる。

そして槍全体を覆う様に魔力を纏わせる。


「お、魔装を使ったね。」


「悪くない魔力制御だ。」


 ソフィアの魔装を見て南川先輩と野々原先輩が褒めている。

まだダンジョンに潜っていない者の魔装にしては、スムーズに行えていて良いと判断された。


「魔力が使えないと見えないのかー。」


 皆と違って凛が残念そうに呟く。

一人だけソフィアが何をしたのか分かっていないのだ。


「見えると言うよりは感じるに近いかもな。パッと見はそんなに変わっていない。」


「ほう、そんなにと言うと見えているのか。お前も中々期待出来るな。」


 皇真の呟きを聞いて野々原先輩が期待する様な視線を向けてくる。

魔力を扱える者なら魔装を感じ取る事は容易だ。

そして魔力や魔装に慣れてくると纏っている魔力まで見える様になってくる。


「実力なら後でお見せしますよ。俺も野々原先輩のクエストを受けてますから。」


「楽しみにしておくぜ。」


 野々原先輩がニヤリと獰猛な笑みを浮かべて言う。


「お、そろそろ決着が付きそうだよ。」


 南川先輩の声に視線を戻すとソフィアの突き出す槍をテイマーの指示に従って避け続けていたスライムがついに攻撃を受けてしまったところだった。


「核に触れた!」


 ソフィアの槍がスライムの体内に深々と突き刺さり核に触れている。

遠目では見えにくいが、至近距離にいるソフィアには核に入るヒビが見えている。


「でも少し浅いかな?破壊まではいってない。」


 核を破壊されたスライムは直ぐに身体を維持出来無くなって溶ける様にその場に崩れて従魔の心をドロップする。

そうなっていないと言う事はまだ倒せていない。


「テイムされた魔物と言うのは厄介ですね。ですがこれで終わりです。」


 ソフィアが槍を素早く引き戻して再び突きの姿勢で構える。

そして槍全体を覆っていた魔力がソフィアの腕も含めて纏めて覆う。

武器だけで無く自身にも魔装を施したのだ。


「槍だけで無く腕の魔装も!?」


「貫槍!」


 魔装を終えたソフィアが目の前のスライム目掛けて必殺の突きを放つ。

腕の魔装によって攻撃力と速度が更に強化された一撃がスライムに迫る。


「スラりん防御だ!」


 テイマーの指示に従ってスライムの身体が核を守ろうと向かってくる槍の方に集まるが、それを全て貫いて槍はスライムの核を破壊した。

一瞬スライムがブルリと震えて、身体が煙に変わっていく。

そして地面にはドロップアイテムの従魔の心が落ちる。


「ふぅ。」


 魔物との戦闘を終えたソフィアが小さく息を吐く。

槍が扱えたり魔装を習得していても魔物との戦闘と言うのは緊張するものだ。


「すごいよソフィアっち!」


 駆け寄った凛がソフィアに抱き付いて喜んでいる。

間近で戦闘を見ていた凛は大興奮である。


「お疲れ様、初戦闘にしては上出来だったと思うよ。」


「ああ、将来有望だな。」


「皆さん、ありがとうございます。」


 南川先輩や野々原先輩にも褒められてソフィアは嬉しそうに微笑んでいる。

魔物の中でも最弱の部類のスライムとの戦闘ではあるが、戦い方がしっかりと考えられていて実力もあり先輩達からは高評価であった。


「まさかアーツまで完成させているとはな。」


「アーツ?」


 ソフィアを見ながら野々原先輩が感心していると凛が首を傾げる。


「スキルとまではいかないけど、補助系のスキルや魔装を使って作られたオリジナルの技、必殺技みたいなものかな。」


 スキルと一言に言っても様々な物がある。

それ自体が攻撃力を持つスキル、使用者にバフを掛けるスキル、自分以外を対象に発動するスキルと様々だ。

そんな中で攻撃系のスキルを持たない者が戦う手段として習得するのがアーツだ。


 誰しもが様々なスキルを持っており、それに加えて魔装を習得すれば、組み合わせや魔装だけでアーツを生み出す事が可能となる。

皇真がダンジョンで使ったピアスショットやラピッドショットもアーツである。


「ソフィアっち、そんなものまで作ってるんだね!」


「まだ攻撃スキルが無いので。と言っても魔装した全力の突きなんですけど。」


 凛の尊敬する様な視線を受けてソフィアが恥ずかしそうに呟く。


「アーツってのは大体そんなものだ。磨けばスキルにも劣らない力となる。」


「アーツとして完成すれば多少補正が加わって強くなったりもするんだよ。ソフィアちゃんが魔装した全力の突きって言ったけど、アーツとして放つかどうかで威力が変わったりとかね。」


 アーツとしての練度を高めていけば劣化スキルの様な強さを獲得出来るのだ。

思い通りのスキルを手に入れる事は難しいので、アーツはとても重宝される技術なのである。


「それって作り得じゃないですか!?」


 劣化スキルと言っても沢山あれば戦闘の幅が大きく広がる。

滅多に得られないスキルよりも身近なアーツの方が便利に感じられる。


「まあ、そう考える人も多いね。でもアーツってのはスキルと違って最初から完成された技じゃないから、何度も何度も使い続けて昇華させる必要があるんだ。」


「何個も持ってる奴程未熟なアーツが多いって事だな。」


「成る程、勉強になります!」


 複数のアーツを使うと言う事はそれだけ一つ一つの練度を高めるのが遅くなると言う事になる。

なので基本的にはアーツは一つずつ完成を目指して使い続けるのが良い。


「ちなみにスキルとアーツの違いってどう分かるんですか?」


「凛ちゃんはまだ見えていないよね。スキルって使用すると若干キラキラとしたエフェクトが見えるんだ。それが判断基準かな。逆にアーツの方は補助スキルを使ってるとエフェクトがあるから少し分かりにくいんだけど、魔装にはエフェクトが無いから魔装単体のアーツとかだと分かりやすいよ。」


「ソフィアのも魔装だけのアーツだったから直ぐに分かったって訳だな。」


 ソフィアのアーツは魔力は感じられたがエフェクトは無かったのでアーツで確定だ。

ここに身体強化等の補助スキルが加わるとエフェクトがあるのでスキルかアーツか悩ませたりする事も出来る。


「さて、報酬は後で纏めて払うとして次は皇真の番だな。スライムの復活が終わったら始めるぞ。」


「分かりました。」


 後ろでは真っ白な衣に身を包んだ男性がテイマーから従魔の心を受け取っている。

それを地面に描いた魔法陣の中央に置いて、周りに必要な素材も置いていく。


「リザレクション!」


 手をかざしてスキルを発動すると凛以外には先程説明されたエフェクトが見えている。

神聖な光りが魔法陣へと降り注ぎ、そこには先程倒されたスライムが元の姿を取り戻した。


「おおお、スライムが復活しました!」


「それじゃあ早速次を始めるか。」


「了解です。」


ソフィアと変わる形で皇真とテイマーが向かい合った。

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