第33話

 ソフィアの目に留まった槍を購入する為には資金が圧倒的に不足している。

それを手に入れる為には仮購入のシステムを使うしかない。


 既に入学する事が決まっている皇真達も仮購入をする事自体は問題無いらしいので、後はその分の資金を集めるだけだ。

と言う事で資金を集める為の場所に南川先輩が案内してくれるらしく、六人は装備屋を後にして移動する。


「南川先輩、どこに向かっているんですか?そもそも350万円なんて大金を簡単に手に入れられるんですか?」


 凛が疑問に思っていた事を尋ねる。

本来の槍の値段の一割なのでかなり安くはなったが、それでも350万円は大金だ。

普通に働いて稼ごうと思ったら一年近く掛かっても不思議は無い。


「そんな簡単に大金が手に入る訳は無いよ。まあ、君達の頑張り次第さ。」


「怪しい場所とかじゃないですよね?」


「たははは、大丈夫大丈夫、想像している様な事にはならないよ。」


 南川先輩が凛の表情を見て笑いながら否定する。

何かいかがわしい事でもされると思ったのかもしれない。


「それでどこに向かっているかだったね。もう見えてきているんだけど、あの建物だよ。」


 南川先輩が前方の遠くを指差す様に腕を伸ばす。

どうやら向かっているのは、あの巨大なドーム状の建物らしい。


 学校もかなりの広さだと思ったが、この建物も相当な大きさである。

思わず栄華の敷地はどれくらいあるのかと言いたくなる様な規模感だ。


「あれは栄華クエスト受付施設、通称スタジアムと呼ばれている建物ですね。」


「スタジアムは栄華の内外問わず、様々な目的のクエストを発注したり受注したり出来るの。」


「探索者ギルドで言うところの依頼の様なものだね。当然クエストを達成すると依頼みたいに報酬が出るよ。」


 三人の先輩達が順番にスタジアムに付いて教えてくれる。

探索者ギルドにある依頼はダンジョン関連の物ばかりだが、スタジアムのクエストはダンジョンに関連するものもあれば、全く関係無いものまで幅広くあるらしい。


 そう言ったクエストを学生達が受ける為の施設であり、達成すれば提示されていた報酬を受け取る事が出来る。

そしてクエストは学校側からの評価にも影響するらしく、姉達の様に優遇措置を勝ち取る為に積極的に受ける学生が多いらしい。


「さて、説明している間に到着したね。」


「大きいな。」


「凄い人数ですね。」


 スタジアムの入り口までくると、その大きさに真上を向いて見上げる事になる。

そして入り口に出入りする学生や大人の数が多い。

今日は休みの筈なのだがスタジアムに通っている学生が多く、それだけ学生達にとって重要な施設と言うのが分かる。


「早速入ってみようか。」


 南川先輩に先導されて皇真達は中に入る。

入り口を抜けると広いホールに出る。

そこには各場所にディスプレイやタブレットが大量に設置されており、皆がそれを見ながら何か操作している。


「南川先輩、あっちが空いているみたいだわ。」


「ナイスだよ姐月ちゃん、それじゃあ行こうか。」


 空いている場所を見つけた姐月姉さんに案内されて向かうと、誰も使っていないディスプレイを発見する。

そこに近付いて南川先輩がカタカタと接続されているキーボードを叩いていく。


「三人共見えるかい?」


「「「はい。」」」


「スタジアムは入学してからも使う機会があると思うから覚えておくといいよ。」


 そう言って南川先輩がディスプレイを見せながら操作して説明していく。

このディスプレイやタブレットを使って学生証の自分のIDを登録すれば、クエストの発注や受注を行えるらしい。


 受注する場合は検索欄にキーワードを打ち込むと、候補となるクエストの一覧が表示されて選ぶ形式だ。

クエストの数が膨大なので何かしらは関連するクエストがヒットするらしい。


 発注する場合はクエストの目的、詳細内容、報酬を記入して発注が可能となる。

しかし登録したIDにつき三つまでしかクエストは出せないので、一人で大量のクエストを発注するのは無理らしい。


「飼い猫の捜索、料理指導、勉強相手募集、レンタル彼女希望、本当に色々あるんですね。」


 南川先輩がクエストを色々と見せてくれる。

確かに探索者ギルドに出される依頼とは違ってダンジョンに関係の無いものも沢山だ。

正に千差万別でありクエストの数には困らない。


 そして最後のレンタル彼女希望と言うクエストだが、詳細内容を見ると朝から夜までのガチガチのデートプランが組まれており、衣装指定や年上のお姉さん希望と注文が多くて、ずっと誰も受けないまま残っているらしい。

注文が多いと面倒で誰も受けないので注意がいると言う。


「こう言ったクエストを受けてお金を稼ぐ訳ですか。しかし報酬が。」


「350万円を稼ぐには全く足りてないよね。」


 クエストの報酬を見てソフィアと凛が難しそうな表情をしている。

確かに報酬は数千円から数万円が基本的で、中には次回のデート券なんて言うお金が発生しない報酬まであった。

最後の報酬がどのクエストかはお察しだ。


「そこで高い報酬が貰えるクエストを選べばいいと言う事だね。」


「でもそれってダンジョン関連ですよね?俺達はまだ入れないですよ?」


 高い報酬となればダンジョン関連となるだろう。

しかし栄華に通う事は決まっていてもダンジョンに入れるのは高校生になってからだ。

それではダンジョン関連のクエストは受けられない。


「そこは心配いらないさ。ダンジョンに関係していなくもないけど、君達でも受けられるクエストってのは存在する。君達新入生が入ってくるまで後少しだからね。既に新入生向けのクエストを出している人も多いんだ。」


 そう言って南川先輩が新入生と言う単語で検索すると多くのクエストが表示される。


「えーっと、ダンジョンから持ち帰ったお宝の買い取り、探索者ギルドが公開していないスキルの情報求む。そっか、サバイバーなら既に受けられるクエストもあるんだ。」


「凛ちゃん、大正解。」


 新入生向けのクエストの多くは実際にダンジョンに入ってから受けられる様になる事が想定されているものだ。

しかしサバイバーであれば、先行してその条件に当て嵌まるものもある。


 この場には皇真とソフィアの二人がいる。

既にダンジョンに入って生還した二人なら当て嵌まるクエストがあるかもしれない。


「手っ取り早いのは珍しいスキルを獲得している事だね。その情報開示だけでもかなりの報酬が貰えるよ。」


「スキルの情報は知りたい人が多いですからね。貴重なスキルであれば秘匿して自分の優位性を保つ人も多いので、開示されていないスキルの情報は高額なんです。」


「残念ですがスキルはまだ獲得していないですね。」


 ソフィアが残念そうに首を左右に振る。

ダンジョンに入ったからと言って誰もがスキルを直ぐに獲得出来るとは限らない。


 それでも暫くダンジョン内に滞在しているだけで何かしらのスキルが発現する事が研究結果として出ているので、ソフィアが滞在した時間は短かったのだろう。


「それなら魔力はどうかな?感じ取る事は出来たかい?」


「はい、魔力の使い方は把握していますし魔装も習得済みです。ネットには魔力を身体や武器に纏わせる魔装の解説動画なども多かったので。」


「もう魔装を使えるのね。ソフィアちゃん優秀じゃない。」


 ソフィアの言葉を聞いて姐月姉さんが驚いている。

同じく皇真も少し驚いた。

魔装と言う技術はまだまだこの世界では広まったばかりだ。

纏わせられるだけでも凄い事である。


「ソフィアちゃんは武器を扱った経験はあるのでしょうか?」


「槍の扱いを習った経験がありますので槍であれば振るえます。」


「それで槍を購入したいと考えたのですね。」


 姫月姉さんが納得した様に頷く。

さすがに実戦では無いだろうが、それでも扱い方を知っているのと知らないのとでは大きく違う。

魔装も扱えるソフィアは初心者向けのダンジョンならば即戦力になりそうだ。


「戦えるなら話しは早いね。私のお勧めのクエストはこれだよ。」


「強い一年生を求めて、詳細内容が人材発掘?」


 クエストのタイトルを読んだソフィアが可愛く首を傾げていた。

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