第32話
ステータスカードを使った後はダンジョンの必須アイテムとも言えるポーション類やダンジョンの宝箱から出る魔法道具等を見せてもらった。
ポーションと一言で言っても様々な物がある。
定番のHPやMPを回復するポーションも、回復量の違う初級、中級、上級とあって値段も違う。
他にも状態異常を回復するポーションや自身のステータスを一時的に強化するポーション等もあった。
そして魔法道具の種類も凄まじいの一言だ。
全て説明してもらったらどのくらい時間が掛かるか分からない。
戦闘の補助、日々の日常生活に役立つ物、豪華な装飾品と様々な魔法道具があった。
「さてさて、次はお待ちかねの武器や防具でも見に行こっか。」
「武器と防具!」
凛の表情が更に明るくなる。
ダンジョンに挑むなら確実に必要となる物だ。
皇真達がダンジョンに潜れる様になり、魔物を倒し自分が生き残る為には装備屋で買い揃える必要がある。
「じゃじゃーん、私達の店の自慢の武器防具達だよ。」
南川先輩が自慢気に商品棚を紹介する。
そこにはダンジョンから産出された様々な武器や防具が並べられていた。
「すごーい!」
凛はキラキラとした目でそれらを眺めており、ソフィアも興味津々と言った様子だ。
ここは特に量や種類が多いので暫く自由に見学と言う事になり、凛とソフィアは南川先輩に詳しく説明してもらっている。
「皇ちゃんは何か気になる物はありましたか?」
「ダンジョンに潜るならある程度今の内に決めておいた方がいいわよ。」
両サイドにいる姉達は皇真が何を選ぶのか気になっている様子だ。
ダンジョンに潜るとは明言していないが、栄華に通うと言う事はそう見られるのだ。
ここは日本国内で数少ない学校敷地内にダンジョンを保有している学校であり、ダンジョンに関する施設や授業が国によって揃えられている珍しい学校だ。
なので入学を希望する者の大半はダンジョン目当てとなる。
「ダンジョンに積極的に潜るかは分からないけど、安全に小遣い稼ぎくらいはしたいと思ってるよ。それで防具はまだ決めかねているけど、武器はこれかな。」
一通り商品棚を見て回った後、そう答えて手近にあった簡素な武器を一つ手に取る。
「弓?珍しいわね。」
「皇ちゃんなら身体能力を活かして近接戦闘を選ぶと思っていました。」
皇真が手に取った武器は弓である。
この世界で最初に使った武器だ。
ゴブリンからドロップした物をそのまま篠妹を助ける為に使ったが、ミノタウロスまで倒せたので使用感は悪くなかった。
魔王時代も様々な武器を扱っていて不得意な武器と言うのはあまりなかった。
その経験が転生した今にも活きている様だった。
「弓も位置取りでそれなりに動くとは思うよ?まあ、魔物と至近距離で戦う人の方が運動量は多いと思うけど。」
遠くから永遠と矢を放っているイメージなのかもしれないが、棒立ちでずっとそんな事をしていれば敵に狙われる格好の的になってしまう。
定期的に動いて攻撃をしやすい様に敵との距離を保ったり攻撃を受け難い場所を選んだりとポジション取りが重要となってくる。
「なんで弓を選んだのよ?」
「…まだ魔物の事を詳しく知らないし、最初は遠距離から攻撃して色々と勉強していこうかなって。」
この世界で一番魔物に付いて詳しい皇真だが、前世の事を話す訳にはいかない。
適当な理由を付けて誤魔化しておく。
「ふーん。」
「うふふ。」
「な、何?」
そう答えると姐月姉さんが少し不機嫌そうにしてジト目を向けてきている。
逆に姫月姉さんはそれを見て微笑んでいた。
「べっつにー。」
「姐月ちゃんは拗ねているんですよ。皇ちゃんが自分と同じ近距離戦闘を選ばなかった事に。」
「ちょ、ちょっと姫月!何を適当な事言ってるのよ!」
姫月姉さんが原因を教えてくれて姐月姉さんが顔を赤くしながら否定している。
どうやら姐月姉さんはダンジョンでは近距離戦闘を得意としており、皇真が同じポジションを選ばなかったのが不満だったらしい。
「違いましたか?私は皇ちゃんと同じ遠距離戦闘になって嬉しいですよ?」
「くっ!皇真!最初は遠距離でもいいけど、あんたは近距離でも輝く筈よ!だからその内どっちも出来る様になりなさい!」
「わ、分かったよ。」
姐月姉さんが顔を赤くしながら詰めてきたので首を立てに振っておく。
魔王時代は近接戦闘も大得意だったので特に断る理由も無い。
それと姫月姉さんはダンジョンで遠距離戦闘のポジションらしい。
だから姐月姉さんがこんな反応をしていたのだろう。
「ならよし。この話しは終わりよ。」
これ以上話して姫月姉さんに揶揄われるのは面倒だと話しを締める。
今は店の中なのでこれ以上騒ぐのは迷惑になる。
「ん?三人共何かあった?」
丁度話しが終わったタイミングで南川先輩達が戻ってきた。
一人顔を赤くしている姐月姉さんにそう尋ねてくる。
「別に何も無いわ!」
「そ、そう?もう充分見れたかな?」
恥ずかしそうに声を大きくする姐月姉さんを見てあまり突っ込まない方がいいと判断した南川先輩がそれ以上は聞かず、皇真に話しを振ってくる。
「はい、今日は軽く見られたら充分だったので。入学すればいつでも見にこられますし。」
「うんうん、その時はいつでも大歓迎だよ。」
ダンジョンに潜るならここで装備を整える必要がある。
その時にまたゆっくり見にくればいい。
「すっごく最高で素敵だった!早くダンジョンに潜りたくなっちゃったよ!」
「それは入学してからのお楽しみだね。」
「あー、待ち遠しいなー。」
大興奮の凛だったがそれはもう少しだけお預けだ。
と言ってももう直ぐ中学校を卒業して高校生になれるので、そうなれば思う存分ダンジョンを満喫出来るだろう。
「大体店の中は案内したけどもっと見ていくかい?」
南川先輩が皆に尋ねてくる。
もっと細かく説明していれば一日ではとても足りない。
主要箇所はしっかり案内してくれたので今日はこの辺が区切りが良いと判断した様だ。
「それはこの子達次第ですね。」
「他に行きたい場所の希望はありますか?」
姉達が三人に尋ねてくる。
新しく入学する三人の為の案内なので三人の希望に従ってくれる。
「私は選んだから次は皇真っちとソフィアっちの番だよ。」
凛は装備屋を見れて満足出来たので、次は二人の行きたい場所に付き合ってくれると言う。
「うーん、俺は特に希望は無いけどソフィアはどうだ?」
「…。」
「ソフィア?」
「は、はい?どうかなさいましたか?」
一度反応が無かったので近くで呼び掛けると少しビックリしながら反応した。
「いや、どこか行きたい場所があるかどうか尋ねたんだが、ボーッとしてどうした?」
「ソフィアっち、チラチラと商品棚を見ていたよね?何か気になる物でもあったの?」
「え、えーっと、はい。」
凛に言われてソフィアがこくりと頷く。
確かに先程まで見ていた武器防具の商品棚を今も気にしている様子だ。
気に入った物があったらしい。
「それを早く言ってくれないと。ダンジョン産の物は一期一会の物も多いからね。欲しいのならしっかりと考えた方が良いよ。」
南川先輩がアドバイスしてくれる。
ダンジョン産の物はどれもこれも需要がある物ばかりなので、一度見逃せば次にいつ会えるか分からない。
本当に欲しいのなら手に入れておいた方がいいと言う。
「ですが少々お値段が。」
ソフィアが困った様に言う。
ダンジョン産の物は根が張る。
学生には手が出しづらい。
「あー、成る程ね。ちなみに何が気になったんだい?」
「これです。」
南川先輩に尋ねられてソフィアが一つの武器を指差す。
それは武器立てに立て掛けられている立派な槍だった。
「魔槍・プロージョンスピアーかー。ソフィアちゃん、良い武器を選ぶね。」
その武器を見た南川先輩が分かってるねと言わんばかりにうんうんと頷いている。
ソフィアの見る目があるのか中々良い武器らしい。
「たっかい!?」
そしてその槍の値段を見た凛は驚いていた。
皇真も見てみるとプレートには3500万円と書かれている。
確かにこれは中学生には手が出ない。
「南川先輩、これは普通の武器ではないのか?」
「これは武器にスキルが付いている魔法武具だから、それなりの金額になってしまうのは仕方無いんだ。スキルは爆破、槍の先端で触れるのと同時に魔力を流すと小さな爆発を起こして敵にダメージを与えるスキルだね。ついでに簡単に壊れない様に爆発耐性のスキルも付いてる。」
皇真の質問に丁寧に槍の説明をしてくれる。
スキルが二つも付いているとなると根が張るのも納得だ。
「あらら、それは高いのも当然ね。」
「人気がありそうですね。直ぐに買われてしまいそうです。」
「仕入れたばかりだからね。この値段でも今週中には売れちゃうと思ってるよ。」
三人の言葉を聞いてソフィアが残念そうにしている。
この槍がそれだけ欲しかったのだろう。
それを見て南川先輩が有益な情報を教えてくれる。
「一応学校の施設でもあるこの装備屋では学生への優遇措置があってね、仮購入と言うものがある。」
「仮購入ですか?」
「うん、誰もがこんな値段ポンポン払える訳無いでしょ?だから正規の値段の一割を前金として支払って手に入れる事が出来るんだ。その後は定期的に返済していって完済したらはれて自分の物って訳だね。」
入学したばかりの学生達は装備屋でダンジョンに入る準備を整える。
ある程度の援助は学校側からもあるが、それでも手が届かない物が多いだろう。
それを手助けする為の措置だ。
「注意点としては仮購入は同時に複数は出来無い事ですね。あれもこれもと一人で独占は出来無いと言う事です。」
「だから仮購入を選ぶ時は慎重にならないといけないの。更に欲しい物があっても確保出来無くなっちゃうからね。」
ソフィアがこの槍を仮購入すれば次に仮購入を選びたくても完済しなければいけないと言う事だ。
3500万円の完済は中々大変そうである。
「仮購入…一割ですか。」
「350万円でも高過ぎるよね。」
凛の言葉にソフィアが残念そうに頷く。
かなり金額としては安くなったが、それでも中学生の手に届く範囲では無い。
「ふっふっふ、それなら次の場所は決まりかな?お姉さんが良い場所に案内してあげよう。もしかしたら仮購入の資金が確保出来ちゃうかもしれないよ?」
「ほ、本当ですか!?」
南川先輩の言葉を聞いてソフィアが驚いた様に尋ね返していた。
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