第31話

 南川先輩に案内されながら店内を回る。

どこを見回してもダンジョン産の装備やアイテムが置かれていて、凛のテンションは爆上がりであり、ソフィアも様々な物に興味を持っていた。


 そして皇真は一人懐かしい気持ちを感じていた。

転生前の世界では当たり前の様に存在していた物で溢れている。

当然全てを把握している訳では無いが、それでもこの世界では一番詳しいだろう。


「さてさて、皆色んな物に興味があるみたいだけど、探索者と言ったら先ずはこれだよね。」


 そう言って南川先輩が棚に並べられていた物を一つ手に取る。

それは免許証くらいの大きさのカードであった。


「これが何か分かるかな?」


「はい!」


 勢い良く手を挙げたのは凛だ。

と言うかそのカードを南川先輩が手に取った段階で目をキラキラとさせていた。


「はい、凛ちゃん。」


「ステータスカードです!」


「大正解。」


 このカードはダンジョンの魔物からのドロップ又は宝箱から入手出来る魔法道具だ。

ステータスカードと言って使用した探索者の情報を表示してくれる便利なカードだ。


「ステータスカードにはランクが存在していて、SからDまでの5段階ある。ランクが上がる事に見られるステータスの量が変わる仕組みだね。ちなみに一番ランクの低いDランクのカードを使用すると名前と年齢、現段階でのLV、HP、MPが表示されるね。」


 Dランクのステータスカードを使用した時に表示される項目は五つ。

そこからランクが一つ上がる事に項目が追加されていく。


 CランクだとSTRとVIT、BランクだとMATとMDF、AランクだとAGIとMAGI、SランクだとLUKとスキルとなる。


 LVは魔物を倒した時に得られる経験値によって上げる事が出来る。

そうすると他のステータスも強化されて、稀にスキルも獲得出来る。


 HPは体力を意味しており、全て無くなると命を落とすので管理するのは注意が必要だ。

MPは魔力量を意味しており、魔装やスキルの使用によって減っていき、全て無くなると魔力切れとなって目眩や頭痛等の症状に見舞われる。


 STRは攻撃力を意味しており、相手のVITとの数字の差でHPに及ぼすダメージが変わる。

VITは防御力を意味しており、相手のSTRとの数字の差でHPに及ぼされるダメージが変わる。


 MATは魔力攻撃力を意味しており、魔装やスキル等の魔力を含む攻撃時にSTRに加算される数値だ。


 MDFは魔力防御力を意味しており、魔装やスキル等の魔力を含む防御時にVITに加算される数値だ。


 AGIは敏捷を意味しており、数値が高い程素早く行動出来る。

MAGIは魔力敏捷を意味しており、魔装やスキル等の魔力を含む速度強化時にAGIに加算される数値だ。


 LUKは運を意味しており、数値が高い程に自信に幸運が訪れる。

スキルは様々な超常の力を意味している。

千差万別であり全容を把握しているのは神々だけだろう。


「とまあこんな感じかな。」


 南川先輩がざっと早口で説明してくれて、凛が思わず拍手している。


「スキルを調べるのはSランクのカードでなくてはいけないのですね。ですが値段が…。」


「すっっっごく高いよね。」


 棚に並べられているSランクのステータスカードを見て凛とソフィアが怯んでいる。

そのお値段なんと500万円。

簡単に手を出せる値段では無い。


「まあ、世界中からスキルの情報が上がって公開されているものも多いから、スキル名さえ分かれば使い方が分かるものも多いんだけどね。だからあまり買い手はいないんだ。」


 ダンジョンではスキルを獲得した時にスキルを獲得しましたと謎の声が教えてくれる。

前世には無かった仕様だがそのおかげでスキル名は分かり、名前からある程度の効果も予測出来るだろう。


 そしてスキル名が分かれば公開共有されているスキルに同じものがないか探して、有れば効果は判明している事になり、スキルを十全に活かして使用出来る。


 逆に無ければ秘匿している者もいる世界でも珍しいスキルの保持者と言う事になり、スキルの詳細を知りたければSランクのステータスカードは必須と言う事になる。


「それに使い捨てのSランクステータスカードに500万は無いわよね。」


「せめて永続でなくては買う気にはなりませんね。」


 姉達の言葉に凛とソフィアが驚いている。

皇真は知っていたので驚かないが、ステータスカードは使い捨ての物と永続の物の二種類存在している。


 使い捨ての物はステータスを表示して5分で砂の様にサラサラと崩れて消えてしまうのだ。

永続の物はステータスを表示して5分で表示内容が消えて元の真っ白の状態に戻る仕様だ。


 なので使い捨てはBランクやCランクくらいまでしか求められない。

たまに速度重視の探索者がAランクを買ったり、お金持ちがSランクを買うくらいの需要である。


「でも永続のステータスカードのSランクって無いですね。」


 ステータスカードの並ぶ棚を見渡してみるが、使い捨ての物ばかりが大量に並んでいる。

ようやく見つけた永続のステータスカードもDランクが数枚、Cランクが一枚だけであった。


「永続のは何回でも使えるし自分以外も使えるから需要は凄いんだけどドロップは稀なんだ。そして値段はとても跳ね上がるね。」


「本当だ、Dランクなのに100万円もする。」


 ちなみに使い捨てのDランクのカードは1万円なので百倍の値段だ。

永続的にステータスを確認出来ると言うのはそれだけ魅力的な事なのだ。


 ドロップ率もかなり低いのでその値段でも買いたいと思う者は多い。

なので今目の前で他の客がCランクの永続カードを持っていってるところだ。


「君達もダンジョンに潜ったら直ぐに使うといいよ。自分が何に優れているのか知っているのと知らないのとでは戦いに大きく影響してくるからね。」


 実際に前世でも永続のステータスカードのDランクは探索者の必須アイテムであった。

戦いにおいて自分の命とも言えるHPは即座に把握出来る様にしておかなければならない。

残るHPで回復や撤退と言った判断が必要だからだ。


「皇ちゃんなら今使えますよね?」


「そうね、せっかくだし使ってみたら?」


 姉達がステータスカードを見ながら進めてくる。


「なぬっ!?と言う事は皇真っちはサバイバーなの!?」


 凛が驚愕の表情を浮かべて皇真を見る。

サバイバーとはあの世界が大きく変わった日にダンジョンに入って帰還した者達の事である。

高校生になっていない者達だとサバイバーか法を破った者かの二択なのだ。


「そう言う事だな。」


「ちなみに私もです。」


「なぬっ!?」


 ソフィアの発言に凛が更に驚愕している。

なんとソフィアもサバイバーであった。

前世の知識を持っていた皇真だからこそ生還出来たが、子供が強制的にダンジョンに入れられて無事に出て来られたのは余程運が良かったのだろう。


「ほお~、二人共すごいね。よく情報も無く生還出来たもんだよ。」


 南川先輩も驚いている。

今や日々ダンジョンの情報が次々と更新されていく世の中になっても死者は減らない。

それなのに力を持たない子供が入って無事で済むのは奇跡である。


「遭遇したのがスライムでしたから。なりふり構わずに全力で走ったら逃げる事が出来ました。」


「成る程成る程、運が良かったね。」


 スライムはダンジョンの序盤に出現する初心者向けの魔物だ。

それでも力を持たない子供では勝つ事が出来無いので懸命な判断である。


「でしたらソフィアちゃんもステータスカードが使えますね。」


「ですが一般の学生には手が出しづらいですね。」


「確かに。」


 使い捨てのDランクのカードですら1万円もするのだ。

東京観光に向けてそれなりにお金は持ってきているが、1万円の出費は痛過ぎる。


「それくらい出してあげるわよ。南川先輩、Cランクを3枚買うわ。」


「はいはい、まいどあり。」


 姐月姉さんが学生証を取り出して南川先輩が持つ商品の値段を入れた機械にスキャンすると支払いが完了する。


 学生証はダンジョンで得た収益を電子マネーとして保存して支払いに利用出来るカードでもあるのだ。


「はい、三人共。」


「姐月姉さん、ありがとう。」


「あ、ありがとうございます!」


「こんなに高い物を宜しいのでしょうか?」


 姐月姉さんが差し出したCランクのステータスカードを三人が受け取る。

ソフィアは値段を見て少し申し訳無さそうにしている。

一枚10万円なので三人分で30万円もしたのだ。


「これくらい探索者の稼ぎがあるから問題無いわよ。でも凛は使えないからダンジョンに入った時まで我慢しなさい。」


「残念ですけど了解です。」


 ステータスカードは魔力を使える者でないと使用出来無い。

なのでダンジョンに入って魔力を感じ取り、魔力を使用出来る様になった者にしか使えない。


「それじゃあ早速使ってみなさい。」


「ワクワク!」


「ちなみに他人のステータスを見るのはバッドマナーだからね凛ちゃん。」


「がーん。」


 二人のステータスをワクワクした表情で待っていた凛に南川先輩が忠告すると肩を落としていた。

正直に言うと皇真はその言葉に救われた。

皆の前で見せろと言われたらどう断ろうかと考えていたからだ。


「まあ、1だろうけどね。」


 南川先輩の言う通り、これが問題であった。

魔物を倒せば経験値が手に入る。

つまりLVが上がってしまう。


 逆に言えばLVが上がっていると言う事は魔物を倒していると言う事だ。

姉達には篠妹を助ける際にゴブリンを倒した事は知られている。


 なのでLVが上がっていてもおかしくは無いのだが、倒したゴブリンは一体だと思われているのが問題だった。


 実際には篠妹を助ける為にダンジョンを走り回ってゴブリンどころかオークまで倒しており、更には中ボスのミノタウロスまで単独撃破している。


 これだけの数を倒しているのでLVが1や2上がっているくらいではすまないだろう。

そうなると探索者をしている者達からすれば、LVである程度倒した魔物の強さや数がわかってしまう。


 つまり姉達にあの時の話しが嘘だと気付かれてしまうのだ。

なので見られなくて一安心であった。


「姐月姉さん、じゃあ早速使わせてもらうね。」


「姐月先輩、ありがとうございます。」


「気にしないでいいわよ。ちなみに使い方は魔力を流すだけよ。」


 二人はステータスカードを持って魔力を流す。

するとカードに文字が浮かび上がる。


名前 天条皇真

年齢 15歳

LV 14

HP 704

MP 511

STR 334

VIT275


「どうだったかしら?ちなみにLV1の時のステータスは人によるけどHPが100前後でMPはその半分くらい、他は10前後ってところね。数値の上昇に関しては人によって大きく異なるわ。」


「探索者ギルドへの情報提供による統計ですと、上昇数値はHPが10~50、MPが5~30、STR・VIT・AGIが1~20、MAT・MDF・MAGI・LUKが1~5程度と言われていますね。当然例外もありますけれど。」


「成る程。」


「参考になります。」


 姉達の情報によって皇真が思ったのは、数値高過ぎないかと言う感想だった。

統計に基づくならHPとVITが殆ど上限分貰えており、MPとSTRに関しては超過している。

他人に見せるのは絶対に止めようと誓った。


「5分経つと消えちゃうから、メモや写真を撮るなら今のうちだよ。覚えられるなら問題無いけどね。」


 そう言われてソフィアはスマホを取り出してステータスカードの写真を撮る。

皇真は万が一に備えて情報を残さない様にしておこうと写真は止めておいた。

それにこれくらいなら覚えられる。



そして5分が経つと二人が持つステータスカードがサラサラと崩れ始めた。

直ぐに二人の手からカードの形状を保てず、10万円が崩れ去ってしまった。


「それじゃあ、探索者に重要なステータスカードも見られたし、次のアイテム行ってみよう!」


「おー!」


 南川先輩の言葉に凛は元気良く手を挙げて応えていた。

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