第29話
凛やソフィアと雑談していると時間になって先生が入ってくる。
スーツをビシッと着こなしている仕事の出来そうな美人だ。
男子生徒達が心なしか喜んでいる。
「諸君、今日は栄華の学校案内に参加してくれて嬉しく思う。私は春から君達一年生の担任の一人となる桐生だ。宜しく頼む。」
よく通る声が室内に響く。
先程まで話していた者達も今は静かに桐生先生の言葉に耳を傾けている。
「それでは早速今日の予定を軽く見てもらおう。」
桐生先生が手元にあるタブレットを操作すると、巨大モニターに栄華の敷地内の見取り図が現れる。
高校大学一貫校と言うのもあり、敷地は相当な広さを有している。
「先ずこの後は君達が四月から通う栄華高校の校内を案内していく。全て回っていては時間が掛かるので主に利用する場所だけを説明する。」
モニターには様々な教室が映し出される。
新設された学校であり国に運営されているだけあって金が掛かっていると言う印象を持つ。
「案内が終われば在校生徒を付けての自由見学に移行する。何人かのグループを組んでもらい、そこに案内役の生徒が付けられるので行きたい場所を言うといい。」
既に入学が決まっている推薦組は栄華の敷地内への出入りが自由となっている。
それでも広い敷地内では迷ってしまうかもしれないし、制服を着ている訳では無いので周りからは浮いてしまうだろう。
「午後に一度集まって点呼を取らせてもらうが、その後も午前と同じく自由見学の予定だ。何か質問はあるか?」
特に推薦組からは手が上がらない。
「それでは移動する。」
桐生先生の言葉に皆が立ち上がり、その後ろを付いて校内を回る。
主要教室を次々に案内されたが、どれも豪華な最新式であり中学校とは雲泥の設備差であった。
「どこも凄いね。今から通うのが楽しみだよ。」
「そうですね、さすがは栄華です。」
凛もソフィアも数ヶ月後の高校生活に想いを馳せている。
「今更だがソフィアは随分と日本語が上手いんだな。」
流暢過ぎて日本人と大差無い。
違和感無く皇真や凛と会話出来ている。
「私は日本人とのハーフなんです。流暢なのは母親のおかげですね。それに日本での暮らしも長いですから。」
「日本の中学校に通っていたの?」
「はい、家の事情と言うものでそうしていました。」
ほんの少しだけ悲しそうな表情が見えた気がしたが、それも直ぐに元に戻る。
そんな会話をしながら向かっていたのは外だ。
最後に体育や部活で使う広いグラウンドに案内され、そこには制服を着た学生達が待機していた。
「ここからは自由見学だ。何人かでグループを作って先輩達に加わってもらったら各自自由行動とする。」
桐生先生の言葉で推薦組達が元々の知り合いや待ち時間で仲良くなった者達へと声を掛けていく。
「ねえねえ、せっかくだし私達は三人でグループになろうよ。」
「俺は別に構わないぞ。」
「不思議な縁ですが今後も長い付き合いになるかもしれませんからね。」
凛の提案に皇真とソフィアが頷く。
「皇真ったら手が早いわね。早速女の子と仲良くなってるじゃない。」
「仕方ありませんよ。皇ちゃんは昔から人気者ですからね。」
そう言いながら近付いてきたのは双子の姉達だ。
案内役の生徒の中に二人もいた。
「うわ、凄い美人の先輩達。」
「お二方が案内をして下さるのでしょうか?」
初対面の凛とソフィアが少し驚いている。
二人も充分に可愛いのだが、姉達のレベルはとても高い。
昔から成長していく様を一番近くで見てきたがどんどん綺麗で美しくなっていくのだ。
テレビに映るアイドルもたじたじの容姿である。
「そうよ、今日は宜しくね。」
「他の方には任せられませんからね。」
「成る程、これが目的だった訳ね。」
皇真は乾いた笑みを浮かべながら言う。
案内役を引き受けたのも自分に校内の案内をしたかったからだろう。
まだまだ弟離れが出来ていない姉達である。
「あの、三人はお知り合いなんですか?」
気安いやり取りをする三人を見て凛が尋ねる。
ソフィアも関係性が気になっている様子だ。
「知り合いも何も私達の愛すべき弟です。」
「まあ、そう言う事ね。」
二人の姉の発言で遠くから殺気を感じる。
美人な先輩達が実の姉なんて羨ましいとでも思っているのだろう。
そして美少女達に囲まれている皇真を憎んでいるのだろう。
慎二がいたのなら血涙を流していたに違い無い。
「皇真っち、こんな美人なお姉さんがいたんだね。」
「もうそれで定着してるんだな。」
「私は友人の事をそう呼ぶって決めてるんだ。だからソフィアっちも諦めてね。」
「友人カテゴリーに振り分けられるのが早かったですね。」
ソフィアが溜め息を付く。
少し恥ずかしさを感じる呼び方だが訂正しても直す気が無い様なので諦めたのだろう。
「それじゃあ早速見学に行こっか。どこか行きたい場所はある?」
「はいはいはいはい!探索者関係の施設に行きたいです!」
姐月姉さんの言葉に凛が勢い良く手を上げて答える。
探索者になる為に来たのだから当然興味は湧くだろう。
ソフィアからも興味がありそうな感じが伝わってくる。
凛と同じく探索者になりたいのかもしれない。
「皇ちゃんとソフィアさんも構いませんか?」
「大丈夫だよ。」
「私もです。」
「それじゃあ早速移動するわよ。」
姉達の後ろに付いて移動する。
凛は余程楽しみなのかご機嫌にスキップしている。
「それでどこに向かうの?」
「探索者ギルドは正式に高校生にならないと入れませんよね?」
ダンジョンへ入れる様になるのは高校生になってからだ。
そしてダンジョンを冒険出来る探索者になる為の施設、探索者ギルドに入れるのも高校生になってからとなる。
なので推薦組と言ってもまだ中学生の皇真達ではどちらも入る事は出来無いのだ。
「探索者向けの装備屋よ。栄華はダンジョン探索にも力を入れてるから、敷地内にそう言う施設もあるの。」
「品揃えも豊富なので校外からわざわざ訪れる方もいらっしゃるんですよ。」
「装備屋!ワクワクが止まらないよ!」
姉達の言葉に凛のテンションは爆上がりだ。
ソフィアの表情からも楽しみにしているのが伝わってきて、なんだかんだ皇真も異世界の装備屋に少しワクワクするのだった。
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