第27話
枕元に置かれている目覚まし時計が起床時刻となったので鳴り出す。
まだ眠い目を擦りながら身体を起こして時計のスイッチを押して止める。
「ふわぁー、…そう言えば東京に来たんだっけ。」
普段目覚めた時に見える部屋とは違う。
寝ぼけた頭を徐々に覚醒させていき、昨日の事を思い出す。
幼馴染の慎二と共に東京に昨日やってきた。
慎二は翌日に行われる受験の為に昨日はホテルで勉強漬けだった事だろう。
そして皇真も翌日に受験の裏で行われる推薦入学者同士の顔合わせ兼学校案内のイベントに参加する為に東京にやってきた。
皇真は東京滞在中に宿泊する姉達のマンションで合流して、昨日はスイーツバイキングに連れて行かれた。
カップルの様なやり取りをして精神的に疲労したからか、ベッドが快適だったからかぐっすりと快眠であった。
「まだ二人は起きていないのか。」
部屋から出てリビングに向かうが二人は寝ているのか姿が見えない。
少し早く起き過ぎたのかもしれない。
「朝ご飯でも作って待ってるとするか。」
勝手知ったる家では無いが姉弟の関係でキッチンや冷蔵庫の中身を使っても文句を言われたりはしないだろう。
むしろ姉達が家にいた頃は姉達の希望もあり皇真が朝ご飯を作る事が多かったので喜んでくれそうだ。
「あら?皇真早いわね。」
「姐月姉さんおはよう。」
朝ご飯のメニューを考えて作っているとリビングに姐月姉さんが起きてくる。
寝巻きからジャージに着替えている。
「おはよう。もしかして朝ご飯を作ってくれてるのかしら?」
「そうだよ、まだ少し時間掛かるけど。」
「久しぶりの皇真の朝ご飯ね。楽しみにしてるわ。」
予想通り姐月姉さんは嬉しそうな表情を浮かべてくれている。
自分で美味しい物を食べる為に料理の腕は日々磨いているので満足してもらえるくらいの物は提供出来る自信がある。
「こっちでも朝走ってるの?」
ジャージ姿の姐月姉さんを見て尋ねる。
地元でも毎朝早起きして走り込みをしていた。
時々付き合っていたが朝から元気な姉なのだ。
「昔からの日課は簡単に崩したくないから続けてるのよ。体力作りにダイエット、一日も欠かす訳にはいかないの。」
それを聞いてこれ以上体力は必要ないだろうと思った。
同年代の女子と比べても姐月姉さんの身体能力は突出している。
中学時代も助っ人で出た大会で好成績を残しまくっていた。
そしてダイエットに関しても必要さは感じられない。
姐月姉さんは非常に健康的な身体をしていながらも出るところは出て引き締めるところはしっかりと引き締まっている、正に女性の理想と言える体型だ。
「それじゃあちょっと行ってくるわね。朝食には間に合う様に戻るわ。」
「分かった。」
姐月姉さんを送り出して朝食作りに戻る。
ご飯、味噌汁、スクランブルエッグ、カリカリベーコン、サラダと定番の朝ご飯を人数分作り上げてテーブルに並べていると玄関からただいまと言う声が聞こえてくる。
「ふぅ、良い汗かいたわ。」
「おかえり、こっちも今出来たところだよ。」
「ナイスタイミングね。って姫月は?」
姐月姉さんが辺りを見回して尋ねる。
「まだ起きてないよ。」
「はぁ~、相変わらず寝坊助よね。」
「姫月姉さんの唯一の弱点みたいなところだからね。」
大きな溜め息を吐く姐月姉さんを見て皇真が笑う。
何かと完璧に見える姫月姉さんだが、昔から朝が弱いと言う弱点がある。
目覚まし時計の音も気にせず眠り続けて、登校時間になって慌てて準備して走って家を出る事も珍しく無かった。
「仕方無いわね。皇真、悪いけど起こしてきてもらえる?私は速攻でシャワー浴びてきたいから。」
「分かった。」
姐月姉さんが汗を流しに風呂場に向かったので、皇真も料理を並べた後に姫月姉さんの部屋に向かった。
昨日揶揄われた姐月姉さんの部屋の隣りが姫月姉さんの部屋である。
ノックをするが当然これくらいで返事がくる事は無い。
「お邪魔しまーす。」
扉を開けて中に入ると良い香りが漂っている。
姫月姉さんが使う香水かアロマの匂いだろう。
そしてベッドで気持ち良さそうにスヤスヤと眠る姫月姉さんの寝顔が見える。
「姫月姉さん、朝だよ。ご飯も出来てるしそろそろ起きて。」
「…うぅん。」
皇真が身体に触れながら声を掛けて優しく揺する。
しかし寝返りを打って布団に更に深く潜ってしまった。
暫く声を掛けながら揺さぶるが効果は無い。
「やれやれ、少し強引にやらないと起きないか。」
皇真は姫月姉さんの上に掛けられている布団を両手で掴む。
「起きろー!」
掴んだ布団を一気に捲り上げて姫月姉さんを起こしに掛かる。
二月上旬のこの時期はまだまだ寒い。
暖房の効いている部屋であっても布団は必須なので、それを没収された姫月姉さんは徐々に身体を震わせていく。
「…さ、寒いです。」
「だったら早く起きなよ。リビングはもっと暖かくしてるし、朝ご飯も出来てるんだからさ。」
「…もう少しだけ。」
往生際の悪い姫月姉さんはまだ起きようとしない。
相変わらずベッドの誘惑から抜け出すのが苦手な様だ。
「布団は返さないよ?」
「新しい布団を所望します。」
「へ?」
突然姫月姉さんに腕を掴まれたかと思うとグイッと引っ張られる。
突然の事に反応出来ず皇真はそのまま姫月姉さんの上に倒れ込む。
色々と柔らかい感触が皇真の身体を優しく受け止めてくれた。
そして長く広がる髪の毛からはシャンプーの良い香りが漂ってくる。
「ちょっと姫月姉さん!?」
「はぁ~、暖かいです~。」
姫月姉さんは寝ぼけているのか温もりを堪能する様に上に覆い被さった皇真に抱き付いている。
「ちょっと皇真、いつまで掛かってるのよ。」
タイミングが良いのか悪いのか、シャワーを浴び終わった姐月姉さんが部屋に入ってくる。
そしてそこには姫月姉さんの上に覆い被さっている皇真がいる訳だ。
「朝から何をいちゃついてるのよー!」
「ち、ちが!?」
「いいから早く離れなさい!姫月、あんたもいい加減起きなさい!」
姐月姉さんに引き剥がされて姫月姉さんががくがくと大きく揺すられながら起こされている。
そして着替えさせるから部屋から出ていく様に言われて先にリビングに戻る。
少し待っていると寝巻きから着替えた姫月姉さんを連れて姐月姉さんが戻ってくる。
やっと起きてくれた様だ。
「皇ちゃん、おはようございます。」
「お、おはよう。」
先程の事を思い出して微妙に気まずくなりながらも挨拶を返す。
本人は寝ぼけていて覚えていないかもしれないが、昔と違って大人の身体になってきているのだから過度なスキンシップは刺激が強い為止めてもらいたい。
「うふふ、また是非起こしにきて下さいね。」
「っ!?あんた、まさか起きてたんじゃ!」
「さて、何の事でしょうか?」
先程のはわざとかと疑っているがその真意は分からない。
「皇真、これからは私が起こすからあの部屋には近付くんじゃないわよ。」
「姐月ちゃん、酷いです~。」
「酷く無い。」
姫月姉さんの言葉をばっさりと切る。
やはりいつも通り自分が起こした方がいいと姐月姉さんが心に決めた。
「まあ、何はともあれそろそろ食べない?」
「そうね、走ってきたしお腹空いちゃったわ。」
「久しぶりの皇ちゃんの朝ご飯楽しみです。」
三人は両手を合わせる。
「「「頂きます。」」」
三人は早速目の前の朝ご飯を食べ始める。
皇真の作った朝ご飯を食べて幸せそうな表情をする二人を見て、作った皇真も嬉しくなるのだった。
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