第25話

 過ぎ行く景色を眺め、うとうと居眠りをし、お弁当を食べて時間を潰していると目的地に到着する。


「やってきたぞ大都会!」


 東京駅から降りて目にする景色に皇真のテンションも上がってしまう。

田舎ではあり得ない程の人の多さ、周りを取り囲むビルは真上を見上げなければ全貌が見えないくらい高いものばかりであり、田舎では見た事も無いお店も大量にある。


 この歳まで田舎に住んでいる皇真としては、目新しい物に溢れている都会が新鮮で堪らない。

高校に上がってから通う予定の国立栄華高校は東京に建設された新設校なので、通い始めればこれが日常となる。


「はぁ~、テンション高いな。お前は試験が無いから楽しそうで羨ましいよ。」


 皇真の隣りでそう文句を言うのは幼馴染の慎二である。

今も英単語帳を見てギリギリまで頭に詰め込もうと必死だ。

二人が東京にやってきたのは高校受験の為だ。

明日に行われる受験の為に東京に前日入りしているのである。


 ちなみに慎二の言う通り皇真は試験を受ける為に東京まで来た訳では無い。

既に推薦合格の通知が届き、高校受験は突破している。


 今回は国立栄華高校の推薦合格者向けの顔合わせ兼先行学園案内の様な催しが開かれ、自主参加だが姉達に久しぶりに会いたいから来いと電話をもらい、東京見物がてら学園を見にいく事にしたのだ。


「それにしても慎二まで栄華を受けるとはな。」


 歩きながらも単語帳から目を離さない隣りの幼馴染を見ながら言う。

なんと慎二も皇真と同じ高校を志望していたのだ。


「栄華は新設校だけあって色々と学生の事を考えているみたいだし、前々から興味があったんだ。特典も多いし全国区で人気なんだぜ?」


 確かに本格的に受験勉強が始まってからの慎二の取り組みは凄まじかった。

大好きな娯楽も封印してこの数ヶ月勉強に勤しんでいたのは知っている。

それだけ栄華高校に入学したいのだろう。


「本音は?」


「栄華って複数の学校を合併した高校大学一貫校だし人数の多いマンモス校だろ?その中に女子校もあったらしくて比率的には女子の方が多いんだぜ。だから女子中学生にも人気が高いらしくて、入学出来たら最高の高校生活になるだろうな。」


 その時の事を想像して表情がニヤけている。

だが直ぐにハッとして単語帳に視線を戻す。

合格出来無ければ全て妄想で終わってしまうのだ。


「そんな事だろうとは思っていた。相変わらず昔から変わらないな。」


「お前が女子に興味無さ過ぎるんだよ。本当に10代か疑わしいぜ。」


 周りの男子達は多かれ少なかれ異性に興味を持ち始めてきた時期だ。

恋人関係になっている者も少なくない。

そんな中で皇真はそう言った話しの類が一つも無い。


 これはモテないと言う訳では無く、恋愛ゲームを現実にしたかの様に告白イベントは中学を通して学年関係無く何度も行われていた。

しかしそれらを受ける事は無く、結局彼女を作る事は無かった。


「他に興味があり過ぎて恋愛まで手が回らなかったんだよ。相手を蔑ろにするのも申し訳無いしな。」


「ちっ、モテる奴は余裕があっていいよな。まあ、高校で彼女作って自慢してやればお前も興味を持つかもしれないし、それも楽しみの一つではあるな。」


「その為には先ず合格しないとな。」


「分かってるよ。今日もホテルに着いてから最後の追い込みだ。って事で観光は一人で行ってきてくれ。」


 そう言い残すと慎二は客を待っているタクシーに乗り込んで宿泊先のホテルへと向かっていった。

一緒に来ている訳では無いが他にもクラスメイトや知り合いが大勢同じ高校を受けているので、皆頑張ってほしいと皇真は思っていた。


「全員受かるのは厳しいだろうな。」


 姉達の話しでは今回の栄華高校の定員も余裕でオーバーしており、去年を超える40倍にも昇ると言う。

テストも相応に難しくなっているらしく、皆が突破出来るかは怪しい。


「まあ、俺に出来る事は既にしたし、後は皆の頑張り次第だな。」


 受験に向けて特別授業を何度も開いたり、個別に苦手な科目を教えたりと、最近は生徒では無く先生役の方が多かった気がする。


「さて、気持ちを切り替えて俺は東京を楽しむとするか。その前に荷物を置きにいかないとな。」


 今回は三泊四日の東京旅行となっているので、それなりに大荷物なのである。

キャリーケースを引き大きなリュックを背負っていて、このまま観光は中々大変だ。


「えーっと、こっちだな。」


 スマホの地図を開いて目的地を目指す。

タクシーを使ってもいいが急いでいる訳では無いので、周りの景色を楽しみながら歩いて向かう。

新鮮な街並みを楽しんでいるとあっという間に目的地に辿り着いた。


「おー、結構大きいところだな。」


 皇真の目の前には高層ビルにも負けないくらい大きなマンションが建っている。

今回の旅行中に泊まるのはホテルでは無く、このマンションなのである。


「お、迎えにきてくれてるな。」


 マンションの中に入ると広いロビーに見知った顔を見つける。

あちらも皇真に気付くと勢い良く立ち上がって小走りに近寄ってくる。


「姫月姉さん、久しぶ…。」


「皇ちゃーん!」


 小走りに駆け寄ってきた姫月姉さんは、そのまま皇真目掛けて抱き付いてきた。

柔らかい感触でありながらも勢いのある激しいタックルをなんとか受け止める。


「久しぶりですね!」


「うん、数ヶ月しか経ってないけどね。」


 姉達は長期休みはしっかりと帰省していたのでそれ程久しぶりと言う感じはしない。


「同じ学校に通っていた頃は毎日顔を合わせていたんですから、それを考えると久しぶりですよ。」


 二人が東京の栄華高校に入学してからは別々に住む事になったので、今までの当たり前が当たり前では無くなってしまった。

皇真は直ぐにそんな生活にも慣れたが、二人の姉達は中々慣れられなかった様だ。


「とにかく先ずは部屋に行きましょうか。荷物も重そうですからね。」


「そうしてもらえると助かるよ。」


 姫月姉さんに案内されながらマンションのエレベーターに乗って部屋に向かう。

今回の旅行中に滞在する部屋は姉達が暮らすマンションの部屋となっている。


 普通にホテルに泊まろうとしていたが姉達が泊まりに来いとメールや電話をしてきたので皇真が折れた形だ。

ちなみに栄華高校に通う様になってからは自分の部屋にもなる予定である。


 どうせ同じ学校に通うなら家族で一緒に住もうと言う話しになり、姉達が事前に少し大きいこのマンションに引っ越してきたのである。


「さあ入って下さい。皇ちゃんの家でもありますから遠慮せずに。」


 姫月姉さんにそう言われて部屋の中に招かれるが、こんなに良いマンションに入るのは初めてなので緊張してしまう。


「うわー、金掛かってそうだね。」


「うふふ、さすがは栄華ですよね。」


 実はこのマンションは国立栄華高校の所有する学生用の施設だったりする。

泊まる為には学業や部活による実績が必要らしいが、既に一年生にして二人の姉達はその実績を得てマンションに泊まれる権利を獲得したらしい。


 その功績にあやかる形で皇真もこんな豪華なマンションに泊まる事が出来ると言う訳だ。

ちなみに一般向けにも開放されているので学生だけが住んでいる訳では無いらしい。


「中も広い!」


 部屋数が多くてマンションの一室とは思えない程の広さである。

高級ホテルとも遜色無いレベルで家具も質の良い物ばかりだ。


「ざっと部屋の説明をしていきましょうか。」


 初めての部屋なので姫月姉さんが順番に案内してくれる。

最新式の設備が導入されたキッチン、小型のサウナまで付いていて複数人でも入れそうな大きなお風呂、普段使用や客室としても使える部屋が複数あって室内もベッドも大きい。


「そしてこちらが姐月ちゃんの部屋です。」


「え?勝手にいいの?」


 皇真の言葉が終わるよりも早く部屋の扉が開かれる。

部屋主である姐月姉さんは出掛けているらしく、部屋の中にはいないが生活感はある。


 女性らしい小物やおしゃれな置き物等で部屋が可愛らしく装飾されている。

そして部屋の中を見てしまうと自然に目に入る大きなベッドとその上に置かれた物。


「あらあら、結構大胆な物を身に付けているんですね。」


「…事前にチェックしておいてよ。」


 姫月姉さんは楽しそうに笑っているが、皇真は片手で顔を覆いつつ目を背ける。

ベッドの上に置かれていたのは姐月姉さんの私物と思われるスケスケの黒い下着だ。

家族だから良かったものの無防備なのは考え物である。

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