3章 学校見学

第24話

 皇真がダンジョンから篠妹を救出して帰還した時から月日は流れ、学年も一つ上がっていた。

それ程の月日が流れても相変わらずダンジョンの話題が尽きる事は無い。

と言っても出現当初に比べれば大分落ち着いた方だろう。


 当時は誰もがダンジョンについて詳しく無く、無駄に命を散らす者が多かったがそれも減少傾向にある。

この1年以上の間に世界は劇的に動いたのだ。

ダンジョンを財源の一つとして生活の中に組み込もうと考えた国が殆どであり、日本もそう言った行動に出た。


 先ずはダンジョンに入れる者について法が決まる。

義務教育を終えていない者がダンジョンに出入りした場合に罰金が課せられると言うものだ。

これによりダンジョンによる日本の若者の死亡率は激減した。


 子供の方がそう言った力に魅せられる傾向にはあるが、親としても危険な場所には近付かせたくは無いだろう。

なのでダンジョンに入れるのは高校生以上になってからだ。


 そして次にダンジョンについての知識が必要になるだろうと、ダンジョンのある県や街にダンジョン探索ギルドと言う施設が作られた。


 日本中にある凡ゆるダンジョンについての情報が集まり共有される場所であり、同じ目的を持つ者を探す場所、ダンジョン産のアイテムの換金等が行える場所だ。


 この施設のおかげで探索者達からダンジョンや魔物についての情報が出て、新たにそのダンジョンに入る探索者の死亡率も減る事に繋がった。

ダンジョン産のアイテムも高値で取り引きされて、日本の経済を大きく動かしてくれた。


 そしてダンジョンの中から持ち出される物の一つである魔石。

これは新たなエネルギー源になるのではないかと各国が調査や研究を続けている。


 ダンジョンの中に充満している魔力を蓄えた石であり、その魔力を動力として電力の代わりになるのではないかと言う事だ。

皇真が転生する前だと魔法道具に使われていたので近々そう言った物も出来上がってくるだろう。


 他にも探索者が優遇される施設が出来たり、探索者育成の授業が学校で導入されたり、ダンジョン探索会社の様な物まで出来たりと激動の年だった。

そんな年を登校再開となった中学校で皇真は過ごしており、義務教育が終わる三年生として過ごしてきた。


「皇真、待たせたな。中に入ってくれ。」


 廊下で待っていると担任の先生に呼ばれて教室の中に招かれる。

今日は志望高校の進路についての話し合いが行われる二者面談の日だ。


 後日親も交えての三者面談も行われるが、事前に先生と生徒で成績や部活の事を交えつつ、雑談感覚で進路についての話し合いが行われるのだ。

そして皇真の順番になったのである。


「さて、最初に言っておくがお前の進路については心配していない。どこに言くといっても学校側の推薦で合格出来るだろうからな。」


 先生がそう言って紙を渡してくる。

そこには担任以外の先生からも色々とコメントが書かれている。

教科ごとの先生達からもどこでもいけるとお墨付きを貰えている。


「随分と評価が高いですね。」


「当たり前だろう。お前くらいの年齢でこんな成績を残した者を俺は知らん。」


 そう言って新しい紙を渡してきた。

前回のテストの結果である。

満点には届かなかったが495点で一位、二位との差も50点以上離れているとは頑張った方だろう。


「前回のテストは中々難しかったですからね。」


「…難しいの一言で片付けられるレベルじゃないんだよ。先生達が絶対に100点を取れない様にと言って作った問題だったんだぞ?」


 そう言って先生が紙の100点と書かれた場所を指でタップしている。

国語、数学、英語の欄が100点となっているのだ。


「二人の先生はホッとしてたが三人の先生は頭を抱えていたな。」


「そういえば授業の時も心なしか落ち込んでいた様な。」


「渾身のテストを突破されたからだろうな。」


 そうは言っても皇真としては100点を取れなかった事の方が残念ではあった。


「今年の学年は凄まじいの一言に尽きる。あのテストでもあれだけの平均点をキープ出来るんだからな。俺が今まで担当してきた中でもダントツで優秀だ。全てお前の影響だけどな。」


 中学校に上がってから幼馴染である慎二の勉強を見る機会が増えた。

テストになる度に毎回頭を下げられるからだ。

それだけ赤点を取った代償で自由な時間を奪われるのが恐ろしいのだろう。


 そんな事を続けているとクラスメイトからも同じ様に教えを乞われる事が増え、自習時間や学校が終わってから皇真による特別授業が開かれたりした。

その結果学年の成績が底上げされる事になり、先生達も求められるテストの質が上がったと言う訳だ。


「そんなお前だからこそ、どこの学校に行こうと心配はしていない。その学校が不憫だとは思うけどな。」


「不憫とはどう言う意味ですか?」


 まるで自分が厄介な存在とでも言われている様だ。


「お前が行く学校は荒れるだろうからな。」


「そんな悪さはしませんよ?」


「そう言う意味じゃ無い。確実に入学希望数の定員がオーバーすると言っているんだ。お前の前に二者面談をした生徒の大半が志望校は皇真の学校と言ってきたくらいだからな。」


 先生は溜め息を吐きながら言う。

そんな志望校の決め方をする生徒は普通は少ないだろう。

自分の将来に関わる選択をクラスメイトと同じ場所に行きたいと言う理由だけで決めてしまうとは、さすがの皇真も少し驚いた。


「随分と慕われているみたいですね。」


「お前は男女共に人気があるからな。一年前の天条姉妹を見ている様だ。」


 懐かしむ様に先生が言う。

天条姉妹とは皇真の姉達の事だ。

学校では常に人気者だった二人も高校を選ぶ時に同じ学校を志望する生徒が後を絶たなかったと言う。


 その影響は他校にまで及び、高校の定員数は大幅にオーバーして二十倍以上にも跳ね上がったらしい。

高校の先生達は苦労した事だろう。


「その姉達の様になると言う事ですか?」


「ああ、なるだろうな。」


「買い被りすぎですよ。そこまでの人気はありせん。」


「どうだかな。」


 確かにクラスメイト達には慕われているとは思う。

中学三年生になるまで大した問題も無くやってこられたのは良好な関係を築いてきた証と言えるだろう。

しかしたかだか勉強を教えたくらいでそこまでの人気を得られているとは思えなかった。


「取り敢えず学校側はそんな感じだ。それでどこの学校を志望するんだ?」


 最後に渡された紙には進路志望先の高校について記入する欄がある。

第三志望まで書ける様だ。


「決まってるなら一つでいいぞ。学校側からの推薦者はお前で確定している。試験を受ける必要は無い。」


 学校側から選ばれた生徒一名が高校に推薦と言う形で試験免除で入学出来る制度がある。

皇真の通う学校は今年の推薦枠を既に決めており、それが皇真だと言う。


 学業だけで無くスポーツにも通じている皇真は学校側から高く評価されている。

この二年以上の成果を見れば選ばれるのは必然だ。


 ちなみに去年は成績優秀でスポーツも出来る姫月姉さんとスポーツ万能で成績も上位の姐月姉さんで推薦枠決めが先生達の間で荒れたらしい。

その結果姉達は推薦枠を自ら辞退して、試験で合格を掴み取っていた。


「志望校については決まってると言うか決められていると言うか。この高校以外を選んだら恐ろしい目に合いそうなんで選択権は無いんですよね。」


 そう言って志望校の名前を書いて行く。

第二志望と第三志望は線を引いて消しておく。


「どれどれ。…国立栄華高校。間違い無いんだな?」


「はい。」


「よりにもよって二年連続か。これは去年を超えて荒れるだろうな。」


 栄華高校の教師達の苦労を思うと同じ教師と言う立場から労いの言葉でも掛けてやりたい気持ちになった。

この栄華高校こそ姉達が進学した高校なのである。


「姉達から念押しされましてね。つい先程も栄華以外を志望しない様にと散々メールで言われています。どこで聞き付けたのやら。」


「天条達から脅されているのか、お前も苦労しているな。」


 あの二人は優秀ではあったが優秀過ぎて教師達も扱いに困る事があった。

そんな二人を姉に持つ皇真も同じ苦労をしていると先生は感じてくれた様だ。


「だがお前の三年間過ごす志望校を決められていいのか?お前自身進みたい高校が他にあるなら書いてもいいんだぞ?」


「大丈夫ですよ先生、ここが前々からの志望高校ですから。姉達が志望した理由も自分が入るからと言う理由ですし。」


「成る程な。去年の天条達が志望校を決めかねていた理由はそれか。」


 この栄華高校はこの激動の年に新設された新しい学校だ。

地震やダンジョン出現によって崩れてしまった近くの学校を合併する形で急造された新学校なのである。


 各校の伝統や新たな取り組みも導入された高校大学一貫校なのである。

長く一緒の学校に皇真と通いたい姉達としては正にピッタリの学校であった。


「栄華は新校だがレベルは高い。皇真は関係無いが他の生徒達からすると大きな壁になりそうだな。」


「アシストはするつもりですが、志望生徒の全員合格は難しいかもしれませんね。」


 学年の成績が底上げされたと言っても高校の合格水準に届いているかは別の話しだ。

去年大幅な定員オーバーを起こした事からも、入学する学生のレベルを高く設定する可能性もある。


「まだ時間はある。皆の希望に会う様に努力はするつもりだ。お前も空いた時間に協力してくれると有り難い。」


「勿論ですよ。」


「では二者面談はこれで終わりだ。気を付けて帰るんだぞ。」


 先生に見送られて皇真は教室を後にした。

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