第23話
ダンベルが落下せず空中に止まった事に投稿者自身が非常に驚いている。
そして空中に浮くダンベルを少しずつ動かして楽しそうに笑っている。
「マジックの類いか編集した動画でしょうか?」
姫月姉さんがモニターをまじまじと見ながら呟く。
「動画のコメント欄を見るにそう言った意見も大量にきているわね。でも一番多く書かれてるのは、ダンジョンから持ち帰った巻物で特殊な力を得たんじゃないかって内容ね。」
投稿者はレビテーションと発していたのでこの現象を起こす合言葉なのではないかとコメントが多く書かれていた。
「中々信じ難いですね。」
「目の前ならともかく動画だしね。」
姉達は動画の光景を信じ切れてはいない様だ。
確かにこんな不思議な力に目覚めたと言われても実際に信じるのは難しい。
まだダンジョンと言う存在が世界中に現れて間もないのである。
しかし皇真は動画のコメント欄で多く寄せられている内容が正しいと確信している。
前世ではスクロールはスキルを取得出来るアイテムだった。
この現象もスクロールによって齎されたものだろう。
その後も投稿者は楽しそうにダンベル以外の物を次々と浮かせていく。
まるでその部屋だけ無重力空間になった様な異質な光景だ。
浮かせては動かしてを暫く続けて満足したのか、浮かせた状態で英語で何か興奮した様に話して動画は終わった。
「これが本当の超能力にしろ偽物の力にしろ、動画を投稿したタイミングはバッチリだったわね。」
「ダンジョンと言う異質な存在が出現したばかりですからね。関連性があって世界中の興味を引きますから再生数に直結しています。」
元々投稿者のチャンネルでは沢山再生される動画が多かった様だが、この動画だけ再生数の桁が二つも違う。
世間を賑わせるダンジョンの効果は凄まじい。
「本当にそんな力がダンジョンで手に入るなら人が流れそうね。」
「危険な場所なのですよね?命を掛けてまでする事でしょうか?」
本当だとすればリターンは大きいがリスクも大きい。
死んでしまえば全てが終わるのに、わざわざ魔物が徘徊する危険な場所に入っていきたいとは姫月姉さんは思わないのだろう。
「未知の力への渇望はその危険すらも上回るかもしれないわね。」
「確かにあるかもね。動画の様な力が手に入れば億万長者も夢じゃないだろうし。」
物を浮かせるスキルでもこれだけの注目を集めているのだ。
更に珍しいものや目を引くものは幾らでも存在するだろうし、影響力も凄まじいだろう。
「皇真は本当にある力だと思ってるの?」
この中でのダンジョン経験者は皇真だけである。
実際に中を見た者の意見を聞きたい様だ。
「思ってるよ。魔物が徘徊する様な場所なんだから対抗手段があっても不思議は無い。それに宝箱なんてのもあるんだしさ。」
「確かに無いとは言い切れませんね。」
断言すると怪しまれるので今はこの程度にしておく。
だが既に探知のスキルを持っている事からも、スキルの存在は確かだろう。
「まあ、そんな考察してても拉致が開かないわ。今日はもう良い時間だから寝ましょっか?」
姐月姉さんがパソコンの電源を落とす。
今は真夜中なので学生であれば眠っている時間だ。
ダンジョン騒ぎで自宅待機する事になったが生活リズムは崩さない方がいい。
「そうだね、たっぷり寝てたみたいだけどお腹一杯になったからまた少し眠くなってきたよ。」
ダンジョンでの疲れは完全に取れていない様だ。
まだまだ身体が睡眠を欲している。
「それでは移動しましょうか。」
そう言って姫月姉さんが皇真の右腕に抱き付いてくる。
「ん?移動ってどこに?」
「私達の部屋よ。」
今度は姐月姉さんが左腕に抱き付いてきた。
「なんで?」
「心配を掛けた罰です。今日は久しぶりにお姉ちゃん達と一緒に眠りましょう。皇ちゃんのベッドでは三人は狭いですから。」
どうやらこれから姉達の部屋へと連行されるらしい。
姉妹達の部屋には三人分のベッドがあるので繋げれば大きなベッドになる。
そうすれば三人で眠るスペース的にも困らない。
「言っておくけど皇真に拒否権は無いからね。」
「今日はお姉ちゃん達の抱き枕です。」
「ははは。」
皇真は成す術無く姉達に連行されていき、二人の姉に挟まれる形で就寝する事になった。
実の姉と言っても二人共超が付く程の美少女なので、何も無くても少し緊張してしまうが、皇真は直ぐに夢の中へと旅立っていった。
そして三人がイチャついている間に世界は大きく動いていた。
きっかけは先程の動画である。
三人が眠る頃には既に3000万再生を超えており、その勢いが止まる事は無い。
動画と言うのは目を引いた内容が身近であれば実際に試してみたいと思う者が現れるものだ。
そしてそれだけ再生されていると言う事は、実際に自分で足を運ぶ者もいると言う事になる。
SNSでもダンジョンに潜って一攫千金や超能力を手に入れろと言った話題が多数上がる事になった。
しかし日本を含む多くの国ではダンジョンに入る事が危険なので禁止されている。
だが大量の人の流れを自衛隊や警察だけでは抑えられない。
それに国に現れた全てのダンジョンを政府が把握しているかと言われれば答えは否だ。
そう言った個人的に発見されたダンジョンは人の目は無いので入りたい放題となる。
そうして大量の人がダンジョンに入る流れが生まれてしまった。
その結果当然ながら多くの人が死ぬ事になる。
どの国でも少なくない被害が出て、政府は頭を悩ませる事になる。
しかしダンジョンに入って生還してくる者も一定数存在した。
その者達は宝箱から様々な物を持ち帰ってきたのだ。世間を騒がせた動画のスクロール、強そうな見た目の装備類、見るからに高価な金銀財宝と言った物だ。
それらがネット上で知れ渡ると命の危険を承知で入る者が更に現れる事になった。
こうなるともうダンジョンに入る事は止められない。
国がしっかりと法律で制限して処罰を与える事にすればある程度は抑制出来るかもしれない。
しかし確実に反感を買う事は目に見えている。
誰しもが一攫千金や物語の中の超常的な力を手に入れる機会を逃したくは無い。
それに国としても止める理由はあまり無かった。
危険なのは確かだがそれを承知で入るのであればどうする事も出来無いのと、先の成果からダンジョンが利益を齎してくれる事は確定したからだ。
ダンジョン探索はハイリスクハイリターンではあるが、ダンジョンが国に齎す利益を考えれば出入りを制限するべきでは無いと言う結論に辿り着いた国が殆どであった。
なので出入りに関する制限では無く、ダンジョンやそこで得た物や力に関しての法整備が行われていった。
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