第22話

 姉達が戻ってきてから更にお代わりをして三杯目を食べ終えてやっと満足した。

ずっと寝ていたので随分とお腹が空いていた様だ。

姫月姉さんの美味い料理と言う事もあって大満足である。


「ご馳走様でした。」


「ふふふ、良い食べっぷりでしたね。」


 姫月姉さんが皿を回収しながら嬉しそうに言う。

美味しく食べてもらえて満足気だ。


「さてと、それじゃあ少し話しを聞かせてもらうわよ?私達は殆ど何も聞かされてないんだからね。」


「話し?」


 皿を片付け終わった二人が戻ってくると姐月姉さんが唐突に呟いた。


「ダンジョンの事。篠妹を中でどうやって助けたのよ。」


「魔物が沢山いるんですよね?」


 どうやら二人はダンジョンの中での事が気になっている様子だ。


「篠妹が緑の肌をした魔物に襲われたって言ってたわよ?SNSの投稿でダンジョン生還者達からはゴブリンって呼ばれてたわね。」


 突如この世界に出現したダンジョン、今はその話題でどこもいっぱいだ。

皇真達の様にダンジョンから生還した者達も大勢いるので、そう言った者達がネット等に書き込んでいき、ダンジョンの情報が次々に上がってきている。


「確かに篠妹をダンジョン内で発見した時にそのゴブリンってのに襲われてたよ。それを見たら篠妹を助けなきゃって思って無我夢中だったね。」


 嘘は言っていない。

篠妹を直ぐにでもゴブリンから助け出したいと思っており、ゴブリンの殲滅して見えていなかった。


「…ふーん。ゴブリンが一体だけ倒されたのは篠妹も見たって言ってたけどよく倒せたわね?」


「火事場の馬鹿力って奴じゃないかな?」


 魔力の存在が明らかになっているかも分からないので、魔装に付いて話しても理解してもらえるか分からない。

それに何故そんな事が出来るのかと更に問い詰められる状況にもなりそうなのでそれは黙っておく。


「…銃火器を浴びせて倒す様な魔物をですか?」


「う、疑ってる?」


 二人の姉がジト目で皇真を見てきている。

皇真の説明を聞いて何かしら疑っているのかもしれない。


「皇ちゃんを疑うなんてそんな酷い事をするつもりはありませんよ。少し不思議に思っていただけです。」


「私は疑ってるけどね。普通に考えればそんなの倒せる訳無いじゃない。」


 姫月姉さんと違って姐月姉さんは隠す素振りも無くはっきりと言う。

それに関しては黙秘権を行使する事にした。


「まあ、いいわ。それじゃあ次の質問よ。」


 ダンマリを決め込んだ皇真を見て姐月姉さんが折れてくれたがまだまだ解放はされない様だ。


「何か追い詰められてる犯罪者の気分なんだけど。」


 悪い事をした訳でも無いのにそう言う立場を連想させられる。


「美人なお姉ちゃん達に詰められるんだから皇ちゃんも素直に答えてくれると嬉しいんですけどね。」


「嘘は言ってないよ?」


「でも肝心な事も言ってない様な気がするわ。」


「…。」


 姐月姉さんの発言に皇真は言葉に詰まる。

野生の感とでも言うのか皇真に関しては二人共とても鋭くなる。


「それで次の質問なんだけど、これは何かしら?」


「皇ちゃんが着ていた物の中に入っていたんですよ。」


 姉の手の上に乗せられているのは小さな石の様な物だ。

それは魔物を倒した時に出る魔石である。

ダンジョンで倒した魔物から回収しておいたのだ。


「な、なんだろうね~。」


「とぼけないの、魔物から出たんでしょ?ネットでは魔石って呼ばれてるわね。」


「魔物を倒すと色々とその場に落とすらしいですね?国が確認した内容を発信していました。」


 どうやらドロップアイテムに関しては情報が広まっている様だ。

実際に魔物を倒していたのだから確認出来ていても不思議は無い。


「まあ、この魔石についてはいいのよ?ネットに記載されている情報とも一致するから。でもこれはどう言う事なのかしら?」


「これもですね。」


 そう言って姫月姉さんの手には打根が、姐月姉さんの手には拳大の魔石がそれぞれ乗せられている。

どちらもミノタウロスと言う大物を倒した事で入手出来た戦利品だ。


 おそらくこのレベルのドロップアイテムは出ていないだろう。

魔力を扱う皇真が苦戦していたのだから、倒せる者なんている筈が無い。


「運良く宝箱を見つけたんだ。その中に入ってたんだよ。」


「宝箱?」


「成る程、そう言った物があるなら説明もつきますか。」


 ダンジョンといえばお宝を連想出来る。

実際に見ていなくても可能性は捨て切れない。


「えー、姫月信じるの?ってちょっと待ってね。」


 姐月姉さんのスマホが鳴り出した。

深夜だが誰かから電話の様である。


「もしもし?何時だと思ってるのよ休みだからって。え?うんうん、動画のトップに出てる人?分かった、見てみるわ。はーい。」


 姐月姉さんが電話しながら皇真のパソコンの前に移動してカタカタとキーボードを打っている。


「何してるの?」


「友達が急いで動画見ろってさ。数時間前に海外の動画投稿者が投稿したらしいんだけど、あっという間に1000万再生超えたんだって。」


 そう言いながら動画投稿サイトでその動画を探している。


「凄いですね。ダンジョン関連でしょうか?」


「今一番世間が注目しているからそうでしょうね。あった、もう1200万再生になってるわね。」


 姐月姉さんが動画を見つけた様だ。

再生数は見る見る増えていっており勢いは増すばかりだ。

タイトルは英語でダンジョン探索と書かれている。


「ダンジョンの中に入っていく様子を撮影してるわね。」


「命知らずと言うかなんと言うか。」


 危険な場所だと言うのに随分と軽装である。

ダンジョンの恐ろしさをまるで理解していない。


「この国ではダンジョンに入るのを制限されていないのでしょうか?」


 日本では無駄な死者を出さない様にダンジョンの入り口を封鎖して、中に入らない様にとお達しがきている。


「どうかしらね。ダンジョン全部を管理出来ている訳でも無いでしょうし、確実に再生数を稼げる内容なんだから、動画撮っている人にとっては良いネタよね。」


「命懸けのネタだけどね。」


 死んでしまったら意味が無い。

正に命懸けの動画撮影だ。


「ダンジョンの中ってこうなってるのね。皇真の入った場所も同じ感じ?」


「結構違うかもね。ダンジョンによって中身は変わってるみたいだよ。」


 壁の質感が随分と違う。

前世と同じなら様々な内装のダンジョンが存在している筈だ。


「二人共、見て下さい。」


 画面の端を指差しながら姫月姉さんが言う。

そこには宝箱が一つポツンと置かれていた。


「宝箱だ!本当にあったのね!」


「だから言ったじゃん。」


「投稿した人も興奮していますね。」


 姐月姉さん同様に宝箱に興味津々である。

そして宝箱を開くと一枚の紙が丸められて紐で縛られている様な物が出てくる。

それを見た皇真は静かに驚いていた。

    

「何あれ?巻物?」


「何でしょう?」


 二人の姉が首を傾げているが皇真は知っている。

あれは前世ではスクロールと呼ばれていた物だ。


「持ち帰って色々試してるわね。」


 投稿者はスクロールの使い方が分からない様だがそれも当然である。

スクロールの使用方法には魔力を必要とする。

魔力を使えなければスクロールはただの紙だ。


「使用方法が分からないですね。あっ!」


「光って消えたわ。使えたのかしら?」


 色々と試している最中に突然手の中にあったスクロールが発光して、光りの粒子になったかと思うと投稿者の身体に吸い込まれていった。


 その後少し英語で喚いてパニックになっていた。

分かる単語を聞き取るとスクロールが消えた事では無く、部屋に誰もいないのに何か声が聞こえてきた事に驚いている様だ。


 しかしそれも直ぐに収まり投稿者は何を思ったか突然近場にあったダンベルを手に取り真上に放り投げた。

その後にレビテーションと言う言葉を唱えると信じられない事が起こった。


「「えっ?」」


 姉達が間の抜けた声を出すのも当然だ。

なんとダンベルが落下する事無く、空中に固定されたのだ。

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