第17話
三人を残して皇真は街中を走りまくる。
篠妹の名前を呼びながら移動しているがまだ見つかっていない。
「地震の被害があちこちで出ているし巻き込まれた可能性もあるか?」
街並みは地震のせいで普段と様子が大きく変わっていた。
建物が崩れたり壊れたり、至る所からサイレンが聞こえていたりする。
「携帯も繋がらない。早く見つかってくれればいいんだが。」
スマホで何度も連絡を取っているのだが、電話は繋がらずメールも既読が付かない。
心配する気持ちだけが高まっていくばかりだ。
「あ、あの!」
「ん?」
街中を走っていると声を掛けられた。
止まって振り返ると二人の女の子がこちらを見ている。
「皇真先輩ですよね?」
「二人は確か篠妹の。」
「はい、友達で同級生です。」
何度か家にも遊びにきていたので見た事があった。
「篠妹ちゃんを探してたんですよね?」
「何か知っているのか!?」
どんなに些細な情報であっても篠妹について知っているのであれば教えてもらいたい。
「私達も探しているんです。篠妹ちゃんと別れて直ぐに地震が起こって心配だったので。」
「でも直ぐに戻ったのに篠妹ちゃんの姿が無くて。それで周りを探していたんです。」
どうやら二人も皇真と同じく篠妹を探してくれていた様だ。
「その場所まで案内出来るか?」
「はい、こっちです。」
女の子達に連れられて地震が起こった時の現場に移動する。
「ここで二手に別れました。」
女の子が十字路を指差して言う。
帰る方向が違うのでそこで分かれてしまい、地震が起きた後に心配で篠妹の様子を伺いに戻ったら、既に姿は無かったらしい。
「…成る程、ありがとうな。俺はもう少しこの辺りを探してみるから、二人は家に帰るといい。親御さんも心配しているかもしれない。」
「篠妹ちゃんは大丈夫でしょうか?」
「俺が必ず見つけ出すから安心してくれ。」
安心させる様に女の子達に言う。
「分かりました、皇真先輩。」
「先輩も地震直後ですから気を付けて下さいね。」
「ああ、そっちもな。」
二人は頭を下げて帰路に付いてくれた。
「近くにいたのにいなくなったか。明らかに怪しいのはここだよな。」
皇真の目に映るのは姉達と帰っていた時にも見つけた怪しい洞窟だ。
篠妹がいなくなった丁度近くにそれがあったのだ。
「やはりこの穴から魔力が感じられる。確実にこの世界に異物が混ざり込んでいるな。」
洞窟の前に立つと転生前では当たり前だった魔力と言う力がひしひしと感じられる。
「何が起きているのかは分からないが、入らない選択肢は無いな。」
篠妹がいなくなった近くと言う事もあり無視は出来無い。
皇真は洞窟の中に入って道を進んでいく。
「これは…ダンジョンか?」
辺りを見回して皇真が呟く。
様相は違うが前世でも似た様な場所には何度か訪れた。
その場所は魔力に満ちており魔物や宝物が大量に存在する、通称ダンジョンと呼ばれる場所だ。
この世界には絶対に存在しない事は10数年生きてきて分かっている。
物語の中で語られる様なファンタジー要素が地球に追加されてしまった様だ。
「魔力は感じられるが魔法は使えるのか?ファイアアロー!」
皇真が手を出して魔法の名前を口にするが反応は無い。
声だけが洞窟に響いていく。
「火魔法の適性は無くなっているか。魔力の存在しない世界に転生したんだから当然か。」
前世の力は転生する際に全て失った。
その際に魔法の適性等も無くなったので、前世で支えていた魔法も使えないのだ。
「お、魔装は使える。一先ずこれが使えるのであれば、ダンジョン内でも何とかなるな。」
魔装とは身体に魔力を纏わせて身体能力を高める技術だ。
これは記憶として知っていたので直ぐに出来た。
能力が失われても知識は残っているので少なからずやれる事はありそうだ。
「実験は後回しだ、篠妹を探さないとな。」
久しぶりに感じる魔力に色々と試したいところだが、今はそんな事をしている暇は無い。
最低限ダンジョン内でも活動出来る力を確認したので、今は篠妹探しの続きに戻る。
魔装によって身体能力が向上したので、数倍の速さで洞窟内を疾駆する。
久しぶりの感覚だが、元々日常的に使っていた力なので直ぐに慣れそうだ。
「ギャギャア!」
ダンジョンの中を移動していると耳障りな声が聞こえてくる。
声のした方に向かうと緑色の肌を持つ皇真よりも少し背丈の小さい魔物がそこにはいた。
「ゴブリンか、本当にダンジョンの様だな。」
前世の世界でも何度も目にした事のある魔物だ。
「ギャギャア!」
「おっと、はあっ!」
「グギャ!?」
皇真を見つけてゴブリンが棍棒で殴り掛かってきたので、回避してカウンターの掌底を腹に叩き込んでやる。
それによりゴブリンは勢い良く吹き飛んで壁に激突する。
「魔装していなくてもダメージは与えられるな。だがゴブリン一匹を一撃で倒せないとは、元魔王の頃とは全然違うな。」
前世であれば素の身体能力だけでもゴブリン程度は楽々倒せていた。
種族的にも人間に転生しているので当然と言えば当然なのだが随分と力が落ちている様だった。
壁に激突してフラフラとしていたゴブリンに魔装した皇真が近付いて殴り付ける。
すると鈍い音と共にゴブリンが吹き飛んで壁にめり込み、ピクリとも動かなくなった。
「魔装をしていれば問題無く倒せるか。同年代と比べて身体能力の高い身体ってのも影響しているかもしれないが。」
魔物と問題無く戦える事が分かっただけでも収穫である。
少しするとゴブリンの身体から煙が出てきて、ゴブリンの姿が消えてその場には小さな光る石が残った。
「ドロップアイテムの魔石か。一応回収しておくか。」
皇真は落ちていた魔石を拾って再び篠妹探しに戻る。
「これは…。魔物にやられたのか。」
洞窟を移動していると辺りに血を撒き散らして倒れている人間を複数確認した。
残念ながら全員が既に息絶えている様である。
「ちっ、前の世界では日常的な光景だったが、この世界ではグロ耐性はあまり無いってのに。」
人の死が身近だった前世と比べて、この世界ではこんな光景に遭遇する機会が無い。
久しぶりに見る残酷な光景に気分が少し悪くなった。
「これは急いで探さないとな。篠妹はどこだ。」
闇雲に走り回っても見つからないと判断して、落ち着いてその場で感覚を研ぎ澄まし周囲の音を聞く。
人の悲鳴や魔物の声が微かにでも聞こえれば、人が襲われていたり人を見つけて襲っていたりと情報が得られる。
『探知のスキルを取得しました。』
周囲の情報収集に集中していると機会的な音声が頭の中に響いてきた。
「スキルだと?しかもこの声は何だ?」
前世でも経験した事の無い不思議な現象に少し戸惑う。
しかしスキルが得られたのであれば今は有り難い。
「本当にスキルが使えるのであれば、これで篠妹を探せる。探知のスキル、頼んだぞ。」
皇真は早速手に入れたスキルを発動させてみた。
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