第16話
皇真達三人は怪しげな洞窟に入るのを止めて、真っ直ぐに家へと急いで帰った。
「結構被害出てるわね。」
帰り道に建ち並ぶ家々を見ながら姐月姉さんが呟く。
崩壊まではしていないが屋根が落ちていたり、壁が崩れていたり、車がぶつかって凹んでいたりと地震による影響があちこちに見受けられる。
「私達は運が良かったのですね。」
あの規模の地震で三人共怪我も無く無事な状態である。
しかし周りではサイレン音が響いてきているので、怪我人は少なからず出ていると言う事だ。
「父さんも連絡がきたから無事みたいだけど、家は心配だよね。」
母親からの連絡の後に父親も無事だと言う連絡がきている。
仕事を早めに切り上げて帰宅してくれているらしい。
「あっ、お母様が出迎えてくれてますね。」
「ママ、ただいま。」
家の前で心配そうにしていた母親に三人が駆け寄る。
「皆!」
母親は三人を見ると足早に駆け寄ってきて、腕を広げて全員を抱きしめる。
「ちょっ、苦しいって母さん。」
「無事で良かったわ。」
心底安心したと言った声音で母親が呟く。
大規模な地震に我が子の身が心配で仕方がなかったのだろう。
「突然の地震で驚いたけど、私達は無事よ。」
姐月姉さんが安心させる様に呟く。
「お母様、篠ちゃんは一緒ではないのですか?」
姫月姉さんが開いた扉から家の中を見ながら尋ねる。
家から出てきていたのは母親一人であり、篠妹の声が聞こえてこない。
「入学式が終わった後、友達と校内を少し見て回ってから帰るって言われてお母さんは先に帰ってきたの。でも貴方達が先って事は無いわよね?」
「まさか帰ってないの?」
二、三年生は入学式の後片付けがあったので、一年生は少し早めに帰宅した。
校内見学をしたとしてもそれ程時間は掛からず、篠妹の方が先に学校を出ている筈である。
「そうなの。連絡も付かないから今お父さんが探しにいってくれてるわ。」
「篠妹の方が先に帰った筈なのに、まだ帰ってないなんて。」
「心配ですね。皆で探しにいきますか?」
先程の地震の事もあり、三人が心配している。
何か危ない目に遭っているのではないかと自然と想像してしまう。
「いや、皆で探しにいってまた戻らない人が増えるのはよくないよ。だから俺が代表していってくる。」
先程感じた魔力の事も気掛かりなので、あまり女性陣を出歩かせたくなかった。
「分かったわ、皇真ちゃん。くれぐれも気を付けてね?」
「うん。」
母親から許可が出たので皇真は心配そうな視線を向けてくる三人を残して篠妹を探しに走り出した。
数十分程前の事、これから新しく学校生活を送る中学校を友達と見て回った後に篠妹は帰路に付いていた。
「これからの学校生活楽しみだね。」
「篠妹ちゃんのお姉さんとお兄さんもいるもんね。」
「皆人気者。」
友達の女の子二人と一緒に雑談をしながら通学路を歩いていた。
「篠妹ちゃんだって人気者だよ?」
「そうだよ、こーんなに可愛いんだから!」
そう言って一人の女の子が篠妹に抱き付いてくる。
小学生から仲が良いのでスキンシップも慣れたものだ。
「中学校でも三人で同じクラスになれてよかったね。」
「仲良くやっていきましょう!親睦会も兼ねてこの後カラオケでもいかない?」
「いいね!いこいこ!」
二人がこの後の予定を話し合っている。
まだ日が沈むには早いので遊ぶ時間がある。
「御免ね、私は無理。」
篠妹が申し訳無さそうに断る。
二人は乗り気な様だが篠妹には予定がある。
「えー、篠妹ちゃん付き合い悪いぞー。」
「何か予定でもあった?」
「うん、家族の皆が入学のお祝いしてくれるの。」
後から帰ってくる姉兄達や仕事の父親が戻ったら篠妹の入学祝いをする事になっている。
まだ早い時間帯ではあるが家に帰って準備しておきたい。
「ありゃりゃ、それは大事な用事だね。」
「カラオケはまた今度にしよっか。」
「ありがとう。」
二人も納得してくれて今度カラオケに行く事を約束して今日は真っ直ぐ家に帰る事になった。
「それじゃあ私はこっちだから。」
「うん、また明日ね。」
「ばいばい。」
二人と別れて少しすると鞄の中からビービーと言う爆音が響く。
「ビックリした。」
篠妹は驚きながらスマホを取り出して画面を見る。
周りでも同じ様に携帯やスマホを見ている者達がいる。
「地震?っ!?」
突然地面が大きく揺れ出して篠妹は尻餅を付く。
その際にお尻をぶつけた軽い痛みで目を瞑った。
そして次に目を開けた瞬間、景色が一変していた。
「え?夜?」
まだ日が高い時間帯であったのに、一瞬で暗くなってしまった。
「違う。何ここ?」
先程まで自分がいた場所とは違う事に篠妹が気付く。
見上げると空は無く、土塊で出来た天井がある。
外にいたのに洞窟の様な場所に突然移動してしまった様だ。
「ぎゃあああ!?」
「いや、こないで!?」
「な、なんだこの化け物!?」
自分の状況に戸惑っていると、遠くからそんな絶叫や悲鳴が次々に聞こえてくる。
それに混ざって人とは思えない喧しい鳴き声も聞こえる。
「何?何なの?」
どうしていいか分からず、声が響いてくる方をただ見ている事しか出来無い。
すると少し先の曲がり角から緑色の肌で手には血濡れた棍棒を持つアニメや漫画で言うところのゴブリンの様な生物が姿を表した。
「ひっ!?」
それを見た篠妹は反対方向に走り出す。
あれが先程聞こえた人の悲鳴の原因だと頭が直ぐに判断した。
「グギャギャ!」
逃げる篠妹を見てゴブリンは嬉しそうな声を上げて追い掛けてくる。
走る速度は篠妹の方が早いがずっと声を上げて追い掛けてきている。
「何これ、何かのドッキリなら早く止めてよ。」
訳が分からない状況で恐怖に支配されながらも必死に足を動かす。
足を止めて追い付かれたら、あの棍棒が自分に向かってくると思った。
「はぁはぁ、誰かに助けを求めないと。け、警察に電話を。」
震える手でスマホの電話ボタンをタップしていく。
しかし電話が通じる事は無い。
「なんで街中にいたのに圏外なの。」
篠妹は絶望した様に小さく呟く。
これでは誰にも助けを求められない。
どこかも分からない場所で化け物から逃げる事しか出来無い。
「怖い、助けて。お父さん、お母さん、姫月姉、姐月姉。」
篠妹は震える身体を抱き抱えながら縋る様に家族の名前を呼ぶ。
「助けてよ、皇真兄。」
最後に祈る様に皇真の名前を口にした。
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