第15話
篠妹の入学を家族で祝う為に皇真達三人は学校から帰宅する。
慎二の様に宿題をサボった者達は残念ながら新学期早々居残りで補習を受けているので、いつもよりも通学路を歩く学生が少なく見える。
「相変わらず慎二も懲りないわよね。」
慎二が長期休みの宿題をギリギリまでやらなかったり、忘れたりするのは小学生の頃からずっとなので、皇真達にとってはいつもの事であった。
「皇ちゃんと一緒に春休みに勉強していませんでしたっけ?」
「してたけど一緒にやったのは半分くらいかな?」
宿題を一緒にやろうと言う体での遊びの誘いは頻繁にある。
しかしそれに全て付き合っていると皇真も勉強をする時間が確保出来無いので、何回かは強制的に勉強のみの日を作っているので慎二の宿題も進んではいた。
「後の丸々半分はやってないって事ね。そんな調子で一年後の受験は大丈夫なのかしらね。」
二年生になったばかりと言っても受験については中学生であれば考えておかなければならない事だ。
「慎二は姉さん達の方を心配してたけどね。」
「なんで慎二に心配されなきゃならないのよ。」
姐月姉さんが不満そうに言う。
心配する事はあってもされる覚えは無いと言った感じだ。
「三年生にもなって志望校を決めてないからだよ。」
「あんた慎二に話したのね、余計な事を。」
「皇ちゃんが決めてくれれば直ぐにでも決まるのですけどね。」
皇真の言葉に姐月姉さんには睨まれ、姫月姉さんには困った顔をされる。
二人は皇真の志望する高校に一緒に通いたいと思っているので、高校は皇真次第なのだ。
ちなみに篠妹も皇真達と同じ高校に進むつもりである。
「うーん、そう言われても明確には決めれてないんだよね。」
都会には出たいと思っているが候補が多くて絞り切れてはいない。
決定打に欠けると言った感じだ。
「せめて夏休みくらいには決めなさいよ。先生にもよく聞かれるんだから。」
「心配と言うよりは興味本位の様ですけどね。」
文武両道の姉達は先生達からの評価も高い。
安心して高校に送り出せるのと同時に二人がどんな高校に進むのか興味があるのだろう。
「先生達にも注目されているなんて凄いね。」
「何を人事みたいに言ってるのよ。あんたの方が凄いわよ?」
姐月姉さんが呆れた様な視線を向けてきながら言う。
「皇ちゃんの進路先を気にしている同級生は多いですからね。」
「え、なんで?」
「モテる男は辛いって事よ。変なのに引っかからない様に見張っておいてあげないとね。」
「皇ちゃんにはまだ早いです。高校卒業、いえ大学卒業くらいまでは。」
姫月姉さんがぶつぶつと呟いていて、後半の言葉は何を言っているのか聞こえないくらいに小さい。
姉達の過保護は今に始まった訳では無いので、またいつもの事だと皇真は内心溜め息を吐いていた。
そしてそんないつもと変わらない日常の中でそれは突然起こった。
三人の鞄の中から突然ビービーと聞き慣れない爆音が鳴りだす。
何事かと鞄の中を見ると各々のスマホであった。
「ビックリしたわね、地震警報みたいだわ。」
「もう直ぐ起こるみたいだね。」
「日本全土に震度不明?こんな地震今まで…っ!?」
姫月姉さんが喋っている途中に地面が揺れだす。
人生で体験した事が無いくらいの大揺れに若干焦る。
視界に映る様々な物が地震によって大きく揺れ動いている。
「やばっ、ちょっと大き過ぎない!?」
「二人共、大きな物の近くは危険だから近付いちゃ駄目ですよ!」
「そ、そんな事今更言われても!?」
地震のせいで立っているのも困難なのに自由に動く事なんて出来無い。
「根性見せなさい皇真!あんたの体感ならいけるわ!」
姐月姉さんが根性論を言ってくるが無理なものは無理だ。
そんな地震は数分もの間続いてからようやく治まった。
「お、治った?なんとか無事みたいだ。」
体験した事の無い規模の地震であり驚かされたが怪我は無い。
「姉さん達も大丈夫?」
「なんとかね。」
「皇ちゃん、私は大丈夫じゃないです。」
そう言って地面に座りながら姫月姉さんが手を挙げている。
「え!?姫月姉さんどこか怪我したの!?」
「驚いて腰が抜けてしまったみたいです。歩けないのでおんぶして下さい。」
心配して側に駆け寄ると笑顔で両手を伸ばしてくる。
「どさくさに紛れて何言ってんのよ!姫月がその程度で腰を抜かす訳無いでしょ!」
「あーん、姐月ちゃん酷いですよ。」
姐月姉さんに身体を引っ張られて立たされている。
腰が抜けたと言っていた割りには自分の足でしっかりと立てているので、姐月姉さんの見立ては正しかった様だ。
「やれやれ、この二人はいつも変わらないな。ん?」
二人のやり取りに呆れていると手に持つスマホが鳴った。
見ると母親からの心配のメールであった。
「母さんが心配してるよ。無事って返信はしたけど家とか大丈夫かな?」
周囲の家も地震の影響で多少壊れているのが見えている。
自分達の住む家もそうなっている可能性はある。
「結構大きな地震だったし、新築じゃないから少し崩れちゃってるかもね。」
「皇ちゃんの部屋が崩れてたら、私の部屋で寝泊まりしてもいいですよ?」
「私のじゃなくて私達のでしょ!まあ、皇真がどうしてもって言うなら考えなくもないけど。」
姫月姉さんに続いて姐月姉さんもそんな事を言ってくる。
一応二人の部屋には篠妹もいるのだが、二人と同じく受け入れてくれそうな気はする。
「はいはい、その話しは家を見てからだね。」
いつまでもこんな場所でやり取りしていないで現場を見てから決める事だ。
そもそも家が壊れていない可能性もあるのだから。
「ん?何かあるわよ?」
再び帰路に付くと見慣れない物が目に入ってくる。
「何かの撮影でしょうか?」
「それにしてはカメラも人も見当たらないわね。」
「朝は見掛けなかったですよね?こんな洞窟の様な物が突然出来るとも思えませんし。」
道路を塞ぐ様にその場にある洞窟は、奥が見えない程に漆黒の暗闇で満ちていた。
「なんか童心を思い出しちゃうわね。少し覗いていかない?」
そう言って姐月姉さんが洞窟の中を覗き込んでいる。
「撮影等の場合お邪魔になりませんか?」
「いいじゃない、少しくらい覗いても。有名な俳優さんとかいるかもしれないわよ?」
「では少しだけですよ?」
こう言う時に言っても聞かないのが姐月姉さんだ。
それを姫月姉さんも分かっているので、少しだけ見させて満足してもらって早く帰ろうと許可を出す。
二人が洞窟に入ろうと足を進めた瞬間に、ずっと黙っていた皇真が二人の腕を掴んで止めた。
「皇ちゃん?どうかしましたか?」
「どうしたのよ急に、って言うか少し痛いわよ。」
突然の皇真の行動に姉達が不思議そうにしている。
「寄り道は駄目だよ二人共。今日は篠妹のお祝いなんだから。それに大きな地震で家も気になるしね。」
洞窟に寄っている時間は無いと二人を説得する。
「少しだけよ?」
「…。」
「姐月ちゃん、皇ちゃんの言う通りだわ。今日は早く帰りましょう?」
「わ、分かったわよ。」
皇真の無言の圧力に屈して、二人は洞窟に入る直前で引き返してくれた。
その事に皇真は人知れず心の中で安堵する。
それと同時にあり得ない現象に頭の中は?マークでいっぱいだった。
この世界で生きてきて感じた事が無い力、最後にこの力を感じたのは転生前の世界で死ぬ直前であった。
通称魔力と呼ばれていたこの力が、なんと目の前の洞窟の中から転生前以来に感じられたのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます