2章 世界融合

第14話

 今日から新学期、皇真達の学年が一つ上がって中学二年生となった。

後輩となる一年生も入ってきて、今日から先輩である。


「いやー、篠妹ちゃんもついに中学生か。感慨深いな。」


 慎二が腕組みをしながらしみじみと呟く。


「お前はどこポジションなんだ。」


「だってあんなに小さかったのにもう中学生なんだぜ?それに俺にとっても妹の様な存在だからな。」


「歳は一つしか変わらないけどな。」


 幼馴染なので小さな頃から篠妹とも交流がある。

一緒に遊ぶ機会も多かったので、妹の様に感じているのだ。


「先輩か、約一年ぶりだが良い響きだよな。小学生の頃はなんとも思わなかったけど、中学生だと敬われてる気分だ。」


「それは良かったな。」


 慎二が今後の学園生活に想いを馳せている。

小学生から中学生へと成長して考え方も変わってきている。


「だが残念な事もある。篠妹ちゃんが一年生になったと言う事は、姫月さんと姐月さんが三年生になったと言う事だ。」


「当たり前の事を言ってどうしたんだ?」


 皇真の姉妹達は一つ上と一つ下なので、今は全員が学年違いの中学生である。


「どうしただと?普段から一緒に住んでいる奴はこの一大事に気付いていないのか?あと一年で二人が卒業してしまうんだぞ?」


「三年生なんだから当然だろ。」


 中学三年生となった姉達は後一年で卒業して高校へと進学する事になる。

留年すれば来年も三年生だが、成績優秀スポーツ万能の二人が留年するのはあり得ないだろう。


「学園のマドンナが二人も同時にいなくなるんだぞ?何を希望に学園生活を送っていけばいいんだ、俺には耐えられん。」


 そう言って慎二が頭を抱える。

幼馴染であり慎二にとって美人な姉的なポジションの二人なので、いなくなるなんて考えたくもないのだ。


「姉さん達は人気だからな。」


 双子で美人、成績もスポーツもトップクラスとなれば話題性には事欠かない。

学校中で知らない者なんている訳も無く、他校からも幅広く認知される程だ。


「当たり前だろ、あんなに美人な二人が人気にならない筈が無い。噂だが二人の進学する高校は大荒れになるって言われてるぞ。」


「なんでだ?」


「二人と同じ学校に通いたくて受験を受ける者が続出する可能性があるからだ。学校の内外問わず人気だから定員割れは確実だろうな。」


 男女問わず人気があるので同じ高校を受験する者が多いと慎二は予想している様だ。


「成る程な、だがそんな目的で受験に受かれるかは分からないけどな。」


「二人共頭良いもんな。レベルの高い高校に進学するのは確実か。」


 姫月姉さんは学年でも常にトップを取り続けるくらいに勉学に通じている。

姐月姉さんも姫月姉さんには及ばないが、上位には常に入っているので優秀だ。


「それはどうだろうな。」


「ん?まだ決まってないのか?」


 慎二が意外そうな表情で尋ねてくる。


「そうみたいだぞ。」


「もう三年生なのにか?そろそろそう言うのは決めておく時期なんじゃないのか?」


 受験まで一年を切っている。

三年生であればある程度自分が受験する高校は決めている時期だろう。


「俺が自分の受験したい高校を決めてないからギリギリまで決めないんだとさ。」


「そう言う事か、仲が良くて羨ましい事ですね。」


 それを聞いて慎二がつまらなそうに言う。

皇真達の姉弟関係の良さは今に始まった事では無い。

側から見ていても分かるくらいの超仲良し具合いなのだ。


「まあ、仲が良いのは否定しない。」


「けっ、自慢しやがって。それで皇真はどこを受けるんだよ?」


 皇真達も中学二年生とは言え、ある程度志望する高校を定めておくべきだろう。


「まだ決めてないが、東京とかの都会に通ってみたいな。」


 この辺りは世間的に言えば田舎だ。

建物よりも田畑や山が多く、自然に囲まれている。


「なんでだ?」


「田舎には無い色んな物で溢れていそうだからだ。」


 魔王から異世界に転生したのは、異世界の未知なる物に惹かれたと言う理由が大きい。

この十数年間でこの辺りで出来る事は色々やったので、活動範囲を広げて更なる未知に出逢いにいきたい。


「変な理由だな。だけど都会はいいな、可愛い女の子が沢山集まってきそうだ。」


「相変わらずの考え方だな。」


 中学生になっても相変わらず頭の中は異性の事で一杯の様子である。


「まあ俺達にはまだ早い内容だろ。姫月さんと姐月さんは少しは焦った方がいいと思うけどな。」


「私達がどうかしましたか?」


「どうせ慎二が悪口でも言ってたんじゃないの?」


 皇真達の後ろから声が掛けられ、振り向くと話題に上がっていた姫月姉さんと姐月姉さんが立っていた。


「そんな悪口なんて言う訳無いじゃないですかお二方。」


 慎二が揉み手をしながら笑顔で言う。


「ふーん、まあいいわ。今はあんたに構っている暇無いから。」


「酷い。」


 直ぐに興味を失った姐月姉さんの言葉に慎二が少し傷付いている。

小さな頃からの付き合いなのでこのくらいのやり取りは日常である。


「ごめんね慎ちゃん、私達これから予定があるので。」


「予定?」


 姫月姉さんの言葉に慎二が首を傾げている。


「今日篠妹が入学しただろ?それのお祝いを家族でするから早く帰らないといけないんだ。」


 姉達だけで無く、皇真もその予定に含まれている。

なので二人が教室まで迎えに来てくれたのだろう。


「成る程成る程、あれ?俺呼ばれてないですよ?」


「あんたはお呼びじゃ無いわ。どっか行ってなさい。」


「姐月さんがさっきから辛辣で辛い。」


 姐月姉さんにしっしっと追い払う様な仕草をされて慎二が更に傷付いている。


「ふふふ、本当は慎ちゃんにも参加してほしいんですけどね。」


「本当ですか!?是非とも参加させて頂きます!」


 姫月姉さんの言葉に我が意を得たとばかりに手を上げてアピールしている。


「ですが残念ですね、あちらをご覧下さい。」


「あちら?」


 姫月姉さんが教室の入り口に手を向けたので慎二の視線もそちらを向く。

するとそこには腕組みをした担任の先生がこちらを見て立っていた。


「話し合いは終わった様だな。さあ慎二よ、我々は補習の時間だ。春休みの宿題をやってきていない者達への罰としてな。」


 そう言って先生が慎二の肩をがっしりと掴む。

絶対に逃がさないと態度が物語っている。


「せ、先生!?いや、やってはいたんですよ。忘れてきてしまっただけで。」


「言い訳はいい、そう言う者は他にも沢山いたからな。今日はみっちりと日が沈むまで付き合ってやる。」


「そ、そんな~。」


 言い訳には耳を貸さずそのまま先生が慎二を連行していった。

新学期早々補習とは可哀想だが宿題をサボった自業自得ではあるので、助けを求めて手を伸ばす慎二に三人は笑顔で手を振って見送った。


「それじゃあ帰ろっか。主役は先に帰ってるんだし。」


「そうだね。早く帰らないと篠妹が退屈してるかもしれない。」


「篠ちゃんを沢山祝ってあげましょう!」


 三人は教室を後にして帰路についた。

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