第13話

 期末テストを迎えるまで慎二にとっては人生で最も辛い期間だったかもしれない。

起きてから寝るまで勉強の事だけを考えて生活するのを1週間繰り返してきた。


 授業以外の時間は問題集をひたすらやり続けたり、皇真による苦手な教科の指導が入ったり、協力してくれた姉妹達による擬似テストが行われたりと勉強尽くしだった。


 そんな日々を乗り越えて、ついに今日が期末テスト本番の日である。

慎二と学校に向かっているが、慎二は単語帳から目が離せないので皇真が手を引いて誘導してやっている。


「テストの直前くらいやめてもいいんじゃないか?」


 期末テストまで残り数十分だと言うのに、起きてからずっとこの調子らしい。

直前まで頭に詰め込みたい様だ。


「話し掛けないでくれ。覚えた事が抜け落ちそうだ。」


 そう言った切り単語をぶつぶつと呪文の様に呟いている。

側から見ると中々怖い光景であり、同じ通学路の学生達が慎二を見て少し引いている。


「何かに取り憑かれているみたいだな。それだけ真剣に臨んでくれて嬉しくはあるけど無理はするなよ。」


 こうなったのはある意味皇真のせいでもあるが、当初の目的としては充分に役目を果たせただろう。

後は慎二が勉強の成果をテストで発揮出来るかどうかだ。


 教室に到着すると慎二は直ぐに席に着いて教科書や問題集を広げている。

周りにも何人か同じ様な者がいて、ギリギリまで覚えようと必死だ。


「今回は慎二にしっかり教えてきたし、俺も頑張らないとな。」


 慎二の先生役をしていたので皇真も前回のテストより勉強に集中出来た1週間であった。

まだ始まってもいないが、良い結果を残せる自信はある。


 そして万が一にも慎二に負ける訳にはいかない。

良い成績を取ってほしいとは思うが、教えていた手前慎二よりも悪い成績だと間違い無く馬鹿にされるだろう。

なのでそれだけは絶対にあってはならないのだ。


「今から国語のテストを始めます。用紙が配られるまで伏せておいて下さい。…それでは始め。」


 ホームルームが終わると直ぐにテストが始まる。

最初は国語からで5教科分連続して行われる。

皇真は順調に問題を解いていくが、周りの人達の筆記する音があまり聞こえてこない。

やはり期末と言うだけあって難しいのかもしれない。


 一つのテストが終わる度に休憩時間が設けられており、今のテストはどうだったか話し合ったり、次のテストの最終勉強を行なったりと各々過ごしている。

慎二は当然次のテストの勉強だ。

テストが終わって直ぐに教科書と睨めっこしていた。


 そんなテストと休憩時間を繰り返して、最後の社会のテストに入る。

早々に終わらせて見直しも終えた皇真は一息付いてテストの終了を待つ。


「それではテスト用紙を回収します。お疲れ様でした。」


 先生の合図でテスト用紙が回収されていく。

これで期末テストは全て終了となる。

テストが終わった事で安堵している者、他の者と話している最中に間違いに気付いて悔やんでいる者、早速遊びの予定を立てている者と生徒の反応は様々だ。


「今回は我ながら満足のいく出来だったな。慎二はどうだった?」


 今回に限っては自分のテストと同じくらい気になっている人物に話し掛ける。


「やり切った、もう勉強しなくていいんだ。」


 慎二は机に突っ伏したまま、疲労感のある声で呟く。

この1週間勉強のみに全ての時間を割いてきたのが、今日でようやく解放される。

相当な達成感を感じているだろう。


「いやいや、勉強は学生なんだからしないと駄目だろ。」


 テストはこれからもあるのだから、同じ目に遭いたくなければ少しずつ勉強はした方がいい。


「ずっと勉強漬けだったんだから久しぶりに遊んだっていいだろう?」


 皇真に全ての遊具を回収されたので慎二は本当に一切触っていない。

勉強によるストレスが凄まじいのでそろそろ発散したいのだ。


「まあ、今日くらいはな。」


「よっしゃあ!」


 皇真の許しを得て慎二がガッツポーズをしながら立ち上がる。


「自己採点した後でだけどな。」


「はぁ~。」


 喜んでいた慎二だったが皇真の一言で溜め息と共に席に着いた。

こう言った事は早めにやっておいた方がいいので、少しだけ我慢してもらう事にする。


 慎二が覚えている範囲で答え合わせをしたが中々悪くなさそうであった。

これはテストの点数も期待出来そうである。


 数日すると先生達がテストの採点を終え、授業の時にテスト用紙を返却される。

この点数次第で慎二の運命が決まるので、本人は手を握り合わせて神頼みする様に祈っている。


「ではテストを返していくぞ。」


 先生に呼ばれた順に生徒達がテスト用紙を受け取っていく。

その結果に生徒達が一喜一憂しており、慎二の番となる。


「慎二、今回はよく頑張ったな。次回もこの調子でな。」


 先生にそう声を掛けられて受け取ったテスト用紙には、80点と書かれていた。

それを見た慎二は驚きつつも嬉しそうな表情で席に戻ってくる。


「おいおい、皇真見てくれよ!80だってよ80!前回の倍以上だぜ!」


 慎二が嬉しそうにテスト用紙を見せながら言ってくる。

良い結果が出たみたいで皇真としても教えた甲斐があったと思うが、前回のテストが今の半分以下と思うと、よくここまで仕上げたと自分を褒めたい気分だ。


 その後のテスト用紙の返却でも慎二の点数は軒並み上がっており、1週間の勉強は実を結んでいた。

学年で見ても上位に入るくらいの好成績だったらしい。


「大満足の成果だったな。これならゲームを禁止される事も無さそうだ。」


「良かったじゃないか。」


「一つ不満があるとすれば、お前の点数くらいか。」


 そう言って慎二が皇真の机の上に上げられているテスト用紙を見る。

五枚あって全てに100の点数が付けられていた。


「満点っておかしいだろう!」


「お前に勉強を教えて復習しながら、俺も自分で勉強していたからな。」


 それでもまさか満点を取れるとは思わなかった。

慎二がみっちり勉強に励んでいたのに付き合ったのも関係しているだろう。


「まあ、お前が優秀なのは今に始まった事じゃないか。それよりもやっと勉強から解放されたし、今日から遊びまくるぞ!」


「大きなテストは終わったが、二年生になったらまたあるんだし、こつこつやった方がいいと思うぞ?」


「へいへい、分かってますよ。」


 慎二としても学年が変わった後にやってくる中間テストで1週間まるまる勉強漬けなんて御免なので、少しは勉強をしていこうと思った。

教える側としても息抜きは必要なので、こつこつと勉強を積み重ねてくれると有り難い。


 この時皇真は学年が上がってもそんな日常が続いていくと思っていた。

しかし世界の変革の時は刻一刻と迫っていたのであった。

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