第12話
小学校を無事に卒業した皇真は姉達が通う中学校へと進学した。
新しい環境となった学校生活だが、あっという間に半年近くが経過した。
「はぁ~。」
隣りの席に座る幼馴染の慎二が大きな溜め息を吐いている。
慎二も同じ中学校に進学しており、クラスも一緒であった。
「どうかしたか?」
「どうかしたかだと?どうかしかしてないだろ!どうにかしてくれよ!」
「落ち着け、よく分からん言葉ばかり言ってないで説明してみろ。」
「お前だって分かってるだろ!これだよこれ!」
そう言って慎二が机の上に上げられている一枚の紙を指差す。
それは期末テストの試験範囲について先程先生から配られた紙だ。
この紙が配られてから慎二の様子がおかしくなった。
慎二でなくても学生であれば大抵が嫌っているであろう、テストと言う大きなイベントが迫ってきているのである。
「うあー、今回のテストは良い点数を取らないとヤバいんだ。」
慎二が机に突っ伏して頭を抱えながら言う。
「何がヤバいんだ?」
「来月発売の新作ゲーム、あれの購入に響く。」
そう言いながら深刻そうな表情を浮かべる。
小学生から中学生になって勉強のレベルが上がり、クラスメイトとの成績の差が如実に現れてくる。
中間テストがあった際に慎二はあまり成績が良くなかった様でゲームを暫く禁止されて勉強に取り組まされていた。
今回の期末テストもそれを気にしているのだろう。
「それは残念だな。俺だけで楽しむから、慎二はその間たっぷり勉強するといい。」
「薄情者!」
皇真の言葉に慎二が裏切り者でも見るかの様な目を向けて言ってくる。
「普段からやっておかないからそう言う事になるんだ。こう言うのは少ない時間でも日々の積み重ねだ。」
普段から勉強をしており、時には姉達の宿題にも混ざって1年先の予習をいる様な皇真なので、テストの成績はかなり良い。
焦って勉強したりしなくても一桁順位は余裕である。
「俺は一夜漬けタイプなんだ!」
そんな皇真とは正反対で、ゲームで日々遊びたい慎二は常に勉強なんて出来無い性格であった。
中間テストでの二人の順位の違いも日々の成果が物語っている。
「それならお得意の一夜漬けでどうにかするんだな。」
「こんなに広い範囲ってのは聞いてない!」
慎二が喚きながら机をガタガタと揺らしている。
入学してから習った幅広い範囲がそのままテストの範囲とされている。
どれだけ勉強に取り組んでいたか、はっきりと分かるだろう。
「確かに中間テストよりもかなり広いな。俺達が初めてで知らないだけで、期末テストってのはそう言うものなんだろ。」
「絶対こんな範囲無理だ。俺はゲームを取り上げられる運命なんだ。」
楽しみにしていたゲームが出来無くなるのは辛い。
しかし慎二にはこんな範囲のテストを乗り切れる自信が無かった。
「あれは協力型だしな。俺としても一緒にやりたいところではあるが。」
「それなら何とかしてくれ!」
慎二が縋る様な目を向けてくる。
皇真としても楽しみにしているゲームではあるので、一緒に遊べる相手が減るのは避けたい。
「俺の指示に従うならいいぞ。」
「指示?」
「期末テストまで残り1週間ある。一夜漬けならぬ1週間漬けだ。これに耐える覚悟があるなら、協力してやろう。」
人に教えるのは自分の勉強にもなる。
慎二が言う通りに従ってくれるのであれば、自分の勉強をしつつ面倒を見るくらいは構わない。
「1週間漬け…1週間勉強って事か?」
その光景を想像して慎二が青い顔をしている。
1週間みっちりと勉強をした事なんて無いので、想像しただけでも嫌な気持ちになってそうだ。
「ああ、寝る時間だけは確保してやるから安心していいぞ。それ以外は全て勉強だな。」
本来毎日少しずつ予習復習を行っていれば、こんな土壇場で慌てる必要は無い。
今までサボっていたツケが回ってきたと思って、1週間は色々と我慢してもらう事になるだろう。
「じ、地獄だ…。」
「別にいいんだぞ?ゲームが出来無くなって勉強する羽目になるのは慎二だからな。」
「うぐっ。」
それを言われてしまうと慎二も辛い。
このままでは中間テストの二の舞いになるのは確実だ。
そうなれば待っているのはゲーム禁止期間である。
「分かった、俺も男だ。覚悟を決める。」
やはりゲームはやりたい。
少しの時間を犠牲にして乗り切れるのであれば、心を鬼にして臨む事にした。
「それなら早速今日から始めるか。1週間しかないんだからな。先ずはシンジの家に向かうぞ。」
「俺の家?なんでだ?」
「付いてから教えてやる。」
特に説明もしないまま、二人は放課後に慎二の家に向かった。
「ただいま。」
「お邪魔します。」
皇真は何度も来た事があるので勝手知ったる家である。
「あら、皇真君いらっしゃい。」
慎二の母親が出迎えてくれる。
「おばさん、お久しぶりです。」
「遊びに来たのかしら?晩御飯食べていく?」
「いえいえ、直ぐ帰りますから。」
「そうなの?」
今日は遊びに来た訳でもご馳走になりに来た訳でも無い。
慎二の勉強期間の下準備をしにやってきたのだ。
「実は慎二にテストをどうにかしてくれと頼まれまして。」
「あら、良い事じゃない。皇真君に頼むなら安心ね。」
慎二の母親が嬉しそうに言う。
優秀な皇真に家庭教師をしてもらえれば、息子の学力が上がるのは確実と言える。
「それで一週間みっちり勉強してもらう事になったので、
「な、何だと?」
皇真の不穏な発言を聞いて慎二が思わず尋ね返す。
そんな事は一言も聞いていない。
「それは良い考えね。沢山あるから私も協力するわよ。」
「お願いします。」
「ちょ、ちょっと待んぐうっ!?」
二人を止めようとした慎二だが、一瞬で状況を理解した母親がどこからともなく取り出したロープによって椅子に縛り付けられている。
手足が完全に固定されており、自分の意思では自由に動けない。
「さあ皇真君今のうちよ。」
「そうですね。」
二人は慎二の部屋に向かう。
背後から慎二の悲痛な叫び声が聞こえてくるが完全無視だ。
慎二の部屋にあるゲーム、漫画、パソコン等を全てダンボールに仕舞って運び出していく。
「これで全部ですね。」
慎二の母親の車にダンボールを積み終える。
これで慎二の部屋から遊具が完全に消えた。
「それじゃあ皇真君も一緒に家に送っていくわね。」
「お願いします。」
一時的にダンボールは皇真が預かる事になったので、車で一緒に送ってもらう。
「お、俺のプライベートがあああああ!」
玄関を閉める直前に家の中からそんな声が響いていた。
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