第11話

 小学六年生の秋、今日は学校の校庭で調理実習だ。

各々の班に分かれてカレーを作る事になっている。


「皇真君と一緒の班になれてラッキーだったわ。」


「そうだよね、皇真君って何でも出来るから料理も上手そうだし。」


 同じ班になった女子達四人が口々に皇真の事を褒めている。

小学校で六年間過ごしている間に女子達の間では、皇真は何でもそつなくこなせる有能男子と言うポジションに位置付けられていた。


「まあ、料理はそれなりには出来るな。」


 皇真は家で料理を母親に習って時々自分でも作っている。

覚えられればいつでも自分で美味しい料理を作って食べられるからだ。


「さっすが皇真君、美味しいカレーが食べられそう!」


「でも俺より料理なら適任者がいるぞ。」


「そうなの?誰?」


 皇真がその人物に視線を向けると、その後に女子達が続く。


「ふっ、真打ち登場!」


 そう言ってビシッと決めポーズをして立っている。

皆に視線を向けられたのは慎二だ。


「えー、慎二君が?」


「本当にー?」


 女子達の疑う視線が慎二に注がれる。

普段の慎二からは想像出来無いのだろう。


「おい、なんだその疑う視線は!」


 慎二は不満そうに抗議している。


「だって慎二君が料理出来るイメージ無いんだもん。」


「「「分かる。」」」


「そこ、一緒に頷かない様に!」


 同じ班の女子達が全員頷いているのを見て慎二が注意している。


「皆の気持ちも分からなくもないけど、これに関しては本当だぞ。慎二の料理の腕は一級だ。」


 慎二とは幼馴染なので互いの家に遊びに行く事も幼い頃から多かった。

そう言った時に小腹が空くと慎二が料理をよく作ってくれるのだ。


 歳を重ねるごとに料理のスキルは上がっていき、今ではファミレスで出される様な物とも遜色無い。

皇真も料理は頑張っているのだが慎二のレベルには届かないので、料理に関しては完全に慎二の方が優っている。


「皇真に褒められても嬉しくないが、理解者がいるのは助かるな。」


 女子達だけでは信じてもらえなさそうだったのでナイスフォローであった。


「まあいい、半信半疑なら実力を披露してやろう!現場指揮は俺が取る!」


「慎二に任せておけば問題無いから俺は異論無いぞ。」


「皇真君がそう言うなら。」


 まだ慎二の事は疑っている様だが皇真の事は信じてくれている様だ。

この六年間で随分と信頼の差が生まれている。


「よし、ならばメインのカレーは俺に任せておけ!」


「俺は何をすればいい?」


「皇真は俺のアシスタントだ。女子達は米を頼む。」


「「「「はーい。」」」」


 慎二の指示に従って皆が米を用意し始める。

炊くのも自分達で行うのでそれなりに本格的だ。


「二人で作るのか?バランス悪くないか?」


 女子達に米を任せたのでカレー作りは皇真と慎二だけだ。

作業としてはこちらの方が多いのに二人で行うと慎二は言う。


「むしろ俺に付いてこられるのはお前くらいだ。手際良く作りたいからな。」


「それだけか?」


「美味いカレーを作ってモテてやる!」


 慎二は拳を強く握り締めて宣言する。

心なしか目が燃えている様に感じる。


「やっぱりそう言う理由か。」


「当たり前だろう。俺が料理を習得したのも全てはこの為なんだからな。」


 美味しい食事を作れる様になって女子にモテたいと言う一心で慎二は料理を勉強しているのだ。

実際に皇真の姉妹にも作る機会はあって、とても好評だったのだが、料理だけで靡く程簡単な人達では無いので、慎二は早々に姉妹達を狙うのは諦めていた。


「まあ、料理に関してはお前に従おう。」


 今までに何度も慎二の美味い料理を食べてきているので皇真は全く疑っていない。


「そうしとけそうしとけ。具材のカットは任せるぞ。」


「了解。」


 そこから作業を分担しつつカレー作りを始める。

元々料理がそれなりに出来る二人なので、他の班が苦戦して先生に助けを求めていたりする中、既にカレーを煮込んでいる段階だ。


「良い感じだな。」


「ああ、腹が減る匂いだ。」


 カレーの匂いが辺りに広がってお腹が空いてくる。

他の班の者達も皇真達のカレーの匂いに連れて、心なしか作業が早くなっている様に感じる。

皆早く美味しいカレーが食べたいのだ。


「二人共、お米の準備出来たよ。」


 女子達が炊き終わった米を持って戻ってくる。


「おっ、早かったな。こっちはもう少しだ。」


「うわー、いい匂い!」


「本当に慎二君料理出来たんだね!」


 煮込んでいるカレーを見て女子達が慎二を褒める。

その反応に慎二は大変満足そうである。


「もう少し煮込んだら完成だな。皇真バトンタッチだ。」


「分かった。」


「慎二君は何かするの?」


 慎二は鍋から離れてフライパンを新しく取り出している。

まだ何か作るつもりらしい。


「ただのカレーで満足は出来無い。俺は一段階このカレーを進化させてやる!」


「進化?」


「ああ、班ごとにオリジナリティーを出してもいいって先生が言ってただろ?」


 今回の調理実習をするにあたって、事前説明でそんな事を言われていた。


「その時に食材の持ち込みに付いて聞いて、これを持ってきたんだ。」


 そう言って慎二がテーブルの上に食材を取り出して乗せる。


「卵とチーズ?」


「慎二、まさかお前。」


 それを見た皇真は慎二の意図に気付く。

長年の付き合いであり、慎二の料理は沢山食べてきたので、何をしようとしているのかも手に取るように分かる。


「ふっ、さすがは皇真。直ぐに気付いたか。」


 慎二が食材を持ちながらニヤリと不敵な笑みを浮かべている。


「なんて罪深い物を付け加えようとしているんだ。これが俗に言う背徳グルメか。」


「そう言う事だ。だが食べ盛りの俺達なら問題無い!って事で俺のカロリー爆弾カレーの虜にしてやるぜ!」


 慎二は卵を割って調味料を加えてかき混ぜ、フライパンに流し入れる。

素早く混ぜながら形を整えていき、チーズを投入して卵で包んでいく。


「こ、これは!」


「半熟トロトロのオムレツ!」


「しかも中にチーズまで!」


「お、美味しそう!」


 慎二の鮮やかな手際に女子達も食い入る様に見ている。

女子達の反応に慎二も満足そうだ。


「カレーも準備出来たぞ。」


「よし、盛り付けだ。米にたっぷりとルーを掛けて、その上にオムレツを乗せる。」


「「「「「ゴクリ。」」」」」


 慎二が盛り付けていく美味しそうなカレーに思わず全員が涎を飲み込む。

子供の好きな物を組み合わせたカレーの出来上がりだ。


「完成!慎二特製のオムチーズカレーだ!」


 盛り付けたカレーを慎二が全員に配ると、パチパチと全員が拍手してしまう。

それ程に見事な出来栄えのカレーとなった。


「さあ、食おうぜ。」


「「「「「「頂きます!」」」」」」


 見るからに美味しそうなカレーだが、その味は勿論最高であった。

皆で協力して作ったのもあり、更に美味しく感じられた。


 中々のボリュームではあったが全員がお代わりしてしまったくらいである。

慎二も女子達に喜んでもらえて幸せそうな表情をしていたし、大成功の調理実習となった。

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