第3話

 神達の前から魔王が消えた事により、残ったのは女神ヴィンセクトと異世界の神ゼウスのみとなった。


「ふぅ、取り敢えず成功したね。魔王君がゼウス君の世界に興味を持ってくれて助かったよ。私もアピールした甲斐があったってもんだね。」


 自分はよく頑張ったと頷きながらヴィンセクトが言う。

一先ず計画通りに話しが運んだので一安心と言った様子だ。


「気は抜けん。他にも対処しておく事は山の様にある。」


 ヴィンセクトとは違いゼウスはまだ油断する訳にはいかないと言った様子だ。


「心配性だね~。まあ、世界が大きく変わるんだから心配にもなるか。」


「全く、どこぞの神が余計な事をしてくれた。」


 ヴィンセクトの言葉を受けてゼウスが苛立たしげに言う。

怒りの感情が昂った影響で空模様が悪くなったり暗くなったりしている。

雲の上だと言うのに神の力と言うのは凄まじい影響力を持っている。


「まあまあ、そんなに怒らないで。魔王君が転生してくれたんだから大丈夫だよ。」


 怒る神を鎮める様にヴィンセクトが言う。

怒りに身を任せて暴れられたら管理する世界にも影響が出かねない。


「戦う力を失っているのだぞ?」


「それでもきっと大丈夫だよ、記憶はそのまんまなんだからさ。記憶は武器になるよ。生前のとかとかね。」


 異世界への転生で記憶だけは失われずにすむ。

魔王として培ってきた数多くの記憶は転生後にも役立つかもしれない。


「それでも戦う力は必要となる。魔王はよくとも変貌した世界に他の者達は付いていけまい。こちらの世界を経験した訳でも無い、平和な世界で生きてきた者達なのだからな。」


 ゼウスはいずれ訪れる未来の事を想像しながら言う。

世界が大きく変われば適応出来無い者達は必ず出てくる。

そう言った者達の為に手を尽くす必要があるのだ。


「つまりなんだい?私に手伝ってほしいのかい?」


「分かっていて言っているだろう?幸い世界融合後の世界はヴィンセクトの管理する世界と酷似する筈だ。現れるのは数多のダンジョン、これはもう止められるん。世界融合が終わるまでに我々が介入して、人々が力を身に付けられる様に世界の仕組みを弄って調整する。」


 世界融合とは二つの惑星が融合して一つになる現象の事だ。

これは神々にしか扱えない力であり、世界の救済措置として実行する力である。


 神の管理する惑星は、様々な内的要因と外的要因により滅びや衰退を迎える事がある。

それを放置しておけば知的生命体が住まわない荒れ果てた惑星が残るだけになってしまう。


 そうならない様に滅びそうな惑星同士を管理する神々の合意の上に世界融合して二つの世界をベースに新たな惑星を作るのである。


 そしてその世界融合の対象の一つにゼウスの管理する世界の地球と言う惑星が選ばれてしまった。

本来は神々が合意の上で行う世界融合であるのにどこぞの神がゼウスの許可無く行ったのだ。


 その世界融合に滅びも衰退もしていない地球が選ばれてしまい、その世界融合は一度始まれば神々でさえ止める事は出来無い。


 ゼウスは既に世界融合の仕組みに介入して地球がベースとなる様にしたり、もう一つの惑星から受ける影響を少なくなる様に動いてきた。

その結果もう一つの世界に存在するダンジョンが地球に追加されると言った形で現状は落ち着いていた。


 本来であれば世界融合によって二つの惑星の特色を持つ新たな惑星が誕生する事になるのだが、ゼウスの介入によって地球の特色を多く持つ惑星に出来そうであった。


「まあ、そうなるよね。私達が介入しないと生きづらい世の中になっちゃうだろうし。」


 ある時を境に世界融合によって突然異物が世界に混入してくる事になる。

それは物語の中に存在する様なダンジョンと同じ様な物だが、見た目だけで無く中身も機能しているので危険があるのだ。


「そう言う事だ。魔王の転生は既に始まっている。地上の時間で約十数年の猶予しか無い。早速取り掛かるぞ。」


 先程魔王が消えた瞬間から転生は始まっているのだ。

ゼウスは残された短い時間でやれる事をやらなければならない。


「ちょっと待った!」


「なんだ?時間が無いと言っているだろう。」


 今直ぐにでも始めたいのにヴィンセクトが待ったをかけてくる。


「タダでやるなんて言ってないよ?報酬を所望する。」


「…言ってみろ。」


 目の前で報酬が無いなら仕事しないぞと言う雰囲気を醸し出すヴィンセクトを見て、ゼウスが嫌そうにしながらも聞く事にする。

これ以上面倒な作業を増やすなと心の中では思っているが、それでヴィンセクトに拗ねられたらそれこそ時間の無駄となる。


 ゼウスの管理する世界には無い力をヴィンセクトに導入してもらわなければならないので、ヴィンセクトの協力は絶対に必要なのだ。


「先ずはこの前持ってきてくれた洋菓子だ!あれは美味し買ったからね!それとこの雑誌で見たんだけど和菓子ってのも食べてみたいな!あとはね、この服すっごく可愛いと思わないかい?こんな服私も着てみたいな!それからそれから…。」


 ヴィンセクトは今までに食べたことのある物や前に貰った資料等から欲しい物をこれでもかとゼウスに要求する。

この女神は遠慮と言う言葉を知らないらしい。


「こんなところかな!」


 実に数十分もかけて欲しい物を要求してヴィンセクトは満足した。

とにかく数が多く、揃えるだけでも時間が掛かりそうである。


「多くて面倒だが仕方あるまい。その分しっかり働いてもらうぞ。」


 機嫌を損ねる訳にはいかないので嫌々条件を飲む事にした。

その分こき使ってやると心の中で決める。


「任せなさい!魔王君の為にもこの女神ヴィンセクト、張り切って仕事しちゃうよ!」


 ヴィンセクトは報酬を楽しみにしつつ、早速作業に取り掛かろうと上機嫌で言った。

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