第4話
目を開けると景色が一変していた。
先程まで神達と話していた場所とは違い、白を基調とした綺麗な部屋にいる。
自分は何かに寝かせられている様であり、周りには見た事も無い物が沢山ある。
そして傍らにはすやすやと眠る一人の女性がいる。
何故自分の隣りで寝ているのか分からない。
「
尋ねたつもりだったが自分の口から出た意味の分からない言葉に戸惑う。
そして先程から何故か思う様に動かない身体にも戸惑っていたが自分の手を見て理解した。
「
自分の身体がまるで赤ん坊の様に小さくなっている事に気が付く。
それを見て魔王は自分が転生したのだと理解した。
まさかあんなに簡単に素早く異世界に転生出来るとは思っていなかった。
身体や声はどうにも出来無いが意識や記憶は魔王の頃と変わっていない。
無事に前世の記憶の引き継ぎをしつつ転生する事に成功した様だ。
異世界の転生に少し感動していると部屋の扉が開かれる。
「「ママ!」」
誰か訪ねてきた様だ。
元気な女の子の声が二つ聞こえてくる。
残念ながら赤ん坊の身体は自由に動けず見る事が出来無い。
「こらこらお母さんはお疲れなんだから静かにしないと駄目だぞ。」
女の子の声に続いて男性の声も聞こえてくる。
部屋には自分の他に女性が一人だけなのでお母さんと言うのはその女性の事だろう。
そして何故か生前と違う言葉なのに理解出来ている事に魔王は驚く。
神ゼウスが異世界転生する際に何かしてくれたのかもしれない。
密かに心の中で感謝しておく。
「あら?あなた来ていたのね。」
魔王の隣りに寝ていた女性が目を覚まして身体を起こす。
「ごめん、起こしちゃったかい?」
「いいのよ。
女性が近くにいる二人の女の子の頭を撫でながら言う。
女の子達は母親に撫でられて嬉しそうな表情を浮かべている。
「あらあら、
女性がニコニコと笑みを浮かべながら魔王に話し掛ける。
皇真とはどうやら自分の名前らしい。
転生した事で新しい名前が付けられた様だ。
「ママ、みせて!」
「みせて!」
女の子二人が母親に対して言う。
見せてとはおそらく自分の事だろう。
少し高い位置に寝かせられている様なので、女の子達では届かない位置にいる。
「はいはい、よいしょっと。」
母親に抱き抱えられて皇真がベットを離れる。
柔らかな感触に包まれてとても安心する気持ちだ。
こんな感覚はいつぶりであろうか。
「ほーら皇真ちゃん、お姉ちゃんですよ~。」
母親に抱かれたまま少し低い位置にいる女の子達の前にもっていかれる。
二人共身長が小さく、そこまで歳が離れている訳では無さそうだ。
父親と思われる男性に手を繋がれているので、安定して立っていられるみたいである。
自分の姉らしい二人の女の子が自分にキラキラとした眼差しを向けてきている。
「おとおと!」
「おとおとだ!」
二人は嬉しそうに皇真に手を伸ばしながら言ってくる。
「
皇真は今世の姉達に応える様に小さな手で二人の指を握ってやる。
「ちっちゃい!」
「かわいい!」
皇真に手を握られて二人は嬉しそうに笑った。
それを見て母親と父親もニコニコと微笑んでいる。
「それにしても全然泣かない子だな。」
父親が皇真の事を覗き込みながら言う。
「そうね、産まれたばかりだと普通は元気に泣くと思うんだけど。」
自分を抱いている母親も少し心配そうに言う。
どこか悪いのかと思わせてしまったみたいである。
確かに産まれたばかりの赤ん坊がこんなに大人しいのは不自然かもしれない。
赤ん坊は泣くのが仕事なので皇真は恥ずかしい気持ちはありながらも声をあげて泣いてみた。
この辺りも配慮してくれたら有り難かったと神ゼウスを少しだけ恨んでしまった。
「お、泣き出したな。」
「あらあら、皇真ちゃんお腹が空いたのかしら?」
親達は皇真が泣き出した事で安心したのか父親は変顔をしてあやしてくる。
そして母親は服を上にずらして母乳をあげようとしてくる。
皇真にとっての食事は現状母親に与えてもらうしかない。
空腹は感じているので羞恥心を脱ぎ捨てて授乳する。
「お腹が空いてたのかしらね。」
皇真に母乳を与えながら母親は愛しいものを見る様に笑みを浮かべている。
最初は恥ずかしい思いもあったが、なんだかこうしているととても安心する。
自然と瞼が重くなっていき、食事をしながら眠ってしまった。
意識は魔王でも身体は赤ん坊になっているので、抗う事の難しい事も多そうだ。
「ねちゃった!」
「かわいい!」
女の子達は皇真の寝顔を見てニコニコとしながら言う。
それを聞いて親達も嬉しそうだ。
「皇真も寝ちゃったし、お母さんも疲れてるから今日はもう帰るぞ。」
「「はーい!」」
元気に女の子達が返事をして父親の手をそれぞれ握る。
「ママまたね!」
「またね!」
女の子達が可愛らしく手を振っている。
皇真と同じくらい可愛らしい娘達の姿に出産で疲れた母親は元気をもらう。
「二人共ありがとうね。あなた、二人をお願いね?」
「任せておいてくれ、それじゃあ。」
女の子達は父親に手を引かれて部屋を出ていく。
「これからもっと賑やかになりそうね。」
母親は皇真をベッドに戻して、その寝顔を見ながら嬉しそうに呟いた。
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