第26話 勘違い
道を通り抜け、元の庭園まで戻って来た。
長時間あの空間にいた気がしていたけれど、現実世界ではほとんど時間が流れていなかったみたいで、依然として同じ場所に月があった。
歩いていたはずなのにウェンディさんに転移してもらったときと同じ場所に出てくるのだから不思議だ。
「あーーー!! 戻って来たーーー!!!」
ウェンディさんが大音量で叫ぶ。
私たちの周りを忙しなく飛び回っている彼女の目には涙が浮かんでいて、シリウス様のことを相当心配していたことが見て取れた。
「ごめん……心配かけて……」
「本当だよ!! この、妖精不幸者め!」
妖精不幸者って初めて聞いた。
もしかして『妖精○○』みたいな単語って星の国で流行っていたりするんだろうか。
「ルナにもいっぱい迷惑かけてっ!」
「いえ、私は」
そんなことないです、と表現したくて手をあげようとするも、シリウス様と手を繋いでいたことをすっかり忘れていた。
ウェンディさんも怒るのに精一杯になっていて気が付いていなかったが、私の様子を見て今しがた気が付いたみたいだ。
「んんん~? シリウスってば、随分幸せそうにおてて繋いでるじゃんか~!!」
新しいネタを発見しましたと言わんばかりの表情だ。
ウェンディさんのからかいにシリウス様も「別にいいでしょ」と照れている。
「別にいいけど~? ふぅ~ん?」
「ウェンディ!」
「きゃ! 怒った~!」
くるくると愉快そうに羽ばたく彼女を止められるものは誰もいない。
シリウス様で遊べたからか彼女は満足そうに笑っていた。
「そういえばさ、シリウス。婚姻の儀はしたの~?」
「え? いや、まだ、だけど」
ウェンディさんが唐突に言い出した『婚姻の儀』って何なのだろう。
今日はやたら初めて聞く単語が多いな。
「あれれ? そうなの? ルナが貴族たちに啖呵切るときに『私の夫を~』って言ってたから、てっきり済ませてたのかと思っちゃった!」
「えっ」
「えっ?」
疑問に思っているのは私だけのようで、シリウス様はまたさっきみたいに赤くなっているし、ウェンディさんはにまにま笑っている。
私はシリウス様に嫁ぎに来たはず。
だからもう彼の妻なのかと思っていたのだけれど……。
頭に疑問符をたくさんつける私にシリウス様が説明してくれた。
「結婚するのには『星空の中、妖精の
「厳密に言うと『婚約者』ってことだね!」
もう結婚しているとばかり思っていました!
貴族の方々に啖呵切ったというのにまだ婚約者だったという始末、なんて格好のつかないことでしょうか……。
だから誰一人として『奥様』って呼ばなかったんですね!
確かにウェンディさんと初めて会った時も『婚約者様』と言っていた。
成程、そういうこと!
羞恥で死にそうになっている私にウェンディさんがポンポンと頭を撫でてくれた。
「あー、ルナが可哀そう~。シリウスがもたもたしてたせいだからルナは気にしなくていいんだよぉ~」
「確かにそうだけど、僕の心を抉らないでくれるか」
ウェンディさんからの攻撃でシリウス様が苦虫を嚙み潰したような表情になっている。
それも分かっていてかウェンディさんは芝居がかった仕草でぽんと手を叩いた。
「じゃあ、今からやっちゃおうよ!」
「今から、ですか?」
「そそ! 『星空の中、妖精の下で誓いを交わす』でしょ? 今、ピッタリ条件に当てはまってるんだよねぇ」
確かに少し雲が出ているが満天の星が空で瞬いているので、この状態は『星空の中』に当てはまっている。
それに『妖精』もウェンディさんがいるから大丈夫なのだろう。
納得する私とウェンディさんに、リウス様が「ウェンディの下で誓うのかぁ」と
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます