第23話 「シリウスのこと、お願いね」
パーティー会場から飛び出して、王城の長い廊下を走り抜ける。
こんな姿、お父様たちが見たらきっと失神してしまう。
なんてことを考えてしまうけれど、足を止めることはない。
早くいかないと。
私にできることなんてなかったとしても、それでも……。
あの人の手を握ってあげたい。
ただ、それだけしか考えられなかった。
使命感なのか、愛情なのか、この感情がなんという名前なのかは知らない。
ただ強い気持ちということだけは確かだった。
一心不乱に走り続けて、見慣れたお屋敷に戻ってきた。
いつもの場所にいるかもしれないと思って帰って来たけれど庭園に彼の姿はなく、私は途方に暮れてベンチに座り込む。
ここ以外当てがないし、どうしよう。
ぼんやりと空を見上げた私めがけて光が飛んでくる。
これまた見慣れた青い光は流星のごとく私の顔面に降り注いだ。
「ルナーー!!!!!!」
「ぶっ!」
「あ、ごめんね! すっごく急いでたから止まれなかった!!」
やっぱり光の正体はウェンディさんだったが、焦っているようで落ち着きなく羽を羽ばたかせていた。
「ね、シリウスを追いかけてきたんだよね?」
「はい。ここにいるかな、って思ってきたのですが……いらっしゃらなくて」
「
「えっ……?」
「ここにはいるんだけど、魔法で作った空間に入り込んじゃって!」
「魔法で作った、空間……?」
「この世でもあの世でもない、不思議なところなんだけど……とにかく! ボクも入れてもらえないんだ」
「ウェンディさんも入れてもらえないんですか⁉」
「うん……。そこに繋がる穴がどんどん小さくなってて、このままだと……」
「そんな……」
落胆する私にウェンディさんが「でも」と言葉を続ける。
「ルナだったら入れてもらえるかもしれない」
「私なんかが……」
「大丈夫だよ! シリウスは君が好きなんだから!」
シリウス様が私のことを好きって、本当だろうか。
確かに求婚はされたけれど、彼の口から直接好きだと言われたことはなかった。
考え込む私にウェンディさんが息をのむ。
シリウス様が私を好きでも嫌いでも、最初から追いかけると決めていた。
その覚悟を今更曲げる気はない。
会ってもらえないかもしれない、もしかしたら拒絶されてしまうかもしれない。
それでも私は彼に会いに行きたいのだ。
「私、行きます」
「……ありがとう!」
「その場所にはどうやって行ったらいいでしょうか?」
「ボクの魔力をルナに乗せて、そこへ導いてあげる!」
ウェンディさんは息を吸い、私に向かって両手をかざす。
何処からともなく集まった光が私の体を包み込んだ。
「シリウスのこと、お願いね」
パーティーの前にフルドさんに言われたのと同じセリフをウェンディさんに言われた。
その言葉に答えようとするも、魔法が周りを覆っているからか声が届かないことに気が付く。
何とか返事をしたくて、彼女へ大きく手を振った。
光の向こうでウェンディさんが何かを言っているようだったけれど、私の耳に届くことはなかった。
眩しさが強くなっていき、自分自身が輝きだす。
そして気が付けば意識を失っていた。
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