第19話 王妃の微笑み、パーティーへの不安
応接室にて、アルニラム王妃は優雅に紅茶を嗜む。
天から舞い降りた女神様と言っても過言ではない見目麗しい彼女は、何をしていても相変わらず絵になる。
王妃はどうやら私とシリウス様に用事があったみたいで、私たちはあの後急いで朝食をかき込んでこの場に来た。
そして彼女の口から伝えられた言葉によって、場の空気がビックリするほど重たくなっている。
扉近くで待機しているアセルスさんもしきりにシリウス様とアルニラム王妃をみくらべていた。
王妃は音を立てずにカップを机に置くと、両手の指先を合わせてシリウス様のほうを見た。
「――で、参加してくれるかしら?」
アルニラム王妃は今度のパーティーに私とシリウス様を参加させたいと言ってきたのだ。
お茶会の時など比べ物にならないぐらい、シリウス様は難しい顔をしていた。
「嫌だと言って良いのかな」
「えぇ~? もう貴族の皆さんには『婚約してくれた月の国の王女を紹介する』って言っちゃったのよ? お母さん、困っちゃうわ」
シリウス様が不参加を申し出るとアルニラム王妃は食い下がる。
頑なに首を縦に振ろうとしない彼に、彼女は仕方がないと言いたげに私のほうを見た。
「それじゃあ、ルナさんだけ参加になってしまうわねぇ」
「えっ⁉」
ほほ笑む王妃から謎の圧力を感じる。
これが嫁姑問題というやつなのか、まさか「不参加で」などとは言えなさそうな雰囲気だ。
というか、星の国ではパーティーの時に男性が女性をエスコートしないのだろうか。
「あ、でもそれだとルナさんをエスコートしてくれる方がいなくなってしまうわ。どうしましょう」
やっぱり必要なんですね……。
私たちの反応は置き去りのまま、王妃は良いことを思いついたと言いたげに、パンッと手を叩いた。
「そうだわ、貴族の子息にルナさんぐらいの年の方がいたから、彼にお願いしちゃいましょうか!」
「それは……」
シリウス様に嫁入りする私が他の男性にエスコートされて会場に入ってくるのは駄目なのではないか。
そんなことをしたら『妻になる人間をエスコートしなかった』なんてレッテルを貼られてしまう。
彼の顔に泥を塗るわけにはいかない。
これだけはきちんとお断りしなくては。
発言しようとする私をシリウス様が手で制した。
「それは、やめてもらおうか」
「あら、どうして?」
「他の男に、彼女をエスコートする役目を取られたくないから」
「まぁ! シリウスがそんな風に言うなんて! 愛ね、素敵だわ!」
「……母さんは性格が悪い」
「折角褒めたのに酷いことを言うのね? まぁ、良いでしょう。パーティー、楽しみにしているから!」
王妃は彼の参加を聞くと上機嫌で席から立ち、そのまま風のように去っていった。
またもや置いていかれてしまったアセルスさんは私たちに慌ただしくお辞儀をすると、彼女を追いかけて走って行ってしまった。
シリウス様の顔色を窺うと不安そうな、何かを怖がっているような表情を浮かべている。
そんな気持ちが少しでも和らいでくれたらと、私は彼の手を握った。
「心配してくれて、ありがとう」
「大丈夫ですか……?」
「大丈夫、だよ。ルナちゃんの手を他の誰かが引いているところなんて、見たくないから」
そう言って無理に笑う彼の姿が痛々しかった。
◇
シリウス様は何故あそこまでパーティーに参加するのを渋っていたのか。
私が『お茶会をやる』と言ったときもあまり良い顔をしていなかったことを思い出す。
きっとフルドさん達は理由を知っているのだろうけれど、お茶会の様子を見てしまった今、彼らに聞くのは忍びない。
かといってシリウス様に直接聞くのなんてそれ以上に無理難題だ。
彼のほうから話をしてくれるのならまだしも、こちらから聞くのはあまりよくないと思うし……。
色々と考えあぐねて一つの答えを絞り出す。
もしかしたらカニクラさんが知っているかもしれない。
そう思い立ち私は庭園へと足を向けた。
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