第15話 本は元の場所に戻しましょう
「アルドラさん、お掃除のほうはどうですか?」
お茶会の準備を終えて、アルドラさんを迎えに図書室へとやって来た。
部屋の中は天井に届きそうなぐらい高い本棚がひしめき合っていて、図書室というよりも書庫といった印象を受ける。
書き物ができるように壁側には簡単な机と椅子が置かれており、アルドラさんはそこで帳簿をつけていた。
「あとはこちらの管理簿に記載をすれば終わりになりますので、もう少々お時間いただけますと幸いです」
「分かりました。ここで待っていても?」
「ええ、大丈夫です」
彼女は高速でペンを動かしていく。
何を書いているのか気になったけれど、あまり見ていると邪魔になってしまいそうだ。
彼女から視線を外し、私は本棚の物色を始めた。
月の王宮では見たことのない本がたくさんあって大変興味深い。
蔵書の中には魔法の使い方や妖精の話について書かれたものが多く、星の国は魔法使いの国なんだなと改めて実感した。
背表紙を見ているだけでも楽しめるのだから本は素晴らしい。
棚に整列しているタイトルを眺めていると、一つだけ異彩を放つ本があった。
何せタイトルが読めない。
文字が掠れているということもあるのだけれど、そういう問題ではなく言葉自体が読めなかった。
手に取って中身を確認してみるもやはり何と書いてあるのかが分からない。
昔の言葉だったりするのだろうか。
「それは当国の成り立ちを伝えるおとぎ話でございます」
背後から急にアルドラさんの声がして、肩が跳ね上がる。
危うく本を落としそうになり、慌てて私は両の手で本を抱えた。
「驚かしてしまい、申し訳ありません」
「とんでもないです。管理簿の記載、終わったんですね」
「はい。お待たせいたしました」
彼女はペコリと頭を下げる。
分厚そうなノートだったのでもっと時間がかかると思っていたのだけれど、彼女は仕事が早い。
「おとぎ話が書いてあるんですね、これ」
「もしご興味があれば現代語訳版の本がありますので、そちらをご参照いただければと」
「ありがとうございます。また今度読んでみます」
「差し支えなければ、こちらの管理簿もご活用ください」
「これ……さっきアルドラさんが書いていたやつですね」
「この部屋に置かれている本を記載しているものになります。場所も整理しているのですが……時折フルドが本を別の場所に戻してしまうので、該当の場所にない可能性もありますが」
フルドさん、本は元の場所に戻しましょう。
月の王宮でお兄様が似たようなことをしていたので、アルドラさんの気持ちがよくわかる。
どこに行ったか分からなくなるのが管理面では一番よろしくない。
だから定期的にアルドラさんが掃除もかねて図書室の整理をしているのだろう。
お屋敷に保管しているというにはあまりにも数が多い。
これを毎度整理するのも大変だ。
私は先ほどの本を元の位置に戻し、アルドラさんへ向き直った。
「お掃除も終わったとのことでしたので、行きましょうか」
「何処へ、でしょうか?」
「それはたどり着くまで秘密ということで!」
美味しいお茶とお菓子が待ってますよと言いたいけれどネタばらしはご法度、もう少しの辛抱だ。
楽しそうにしている私を見て、アルドラさんが今朝のように首を傾げていた。
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