第14話 はらぺこ王女
本日の朝食はサクサクのクロワッサンとスクランブルエッグ、トマトのマリネサラダだ。
毎度のことながら彩りも味も完璧で朝から幸せな気持ちでいっぱいになる。
ちなみに朝も美味しいが夜はもっと豪華で、昨日はシャリアピンソースをかけたチキンステーキだった。
お菓子の試食だけで太ったと思っていたけれど、もしかして毎日の食事も原因ではないだろうか?
食べた分動けばいいだけなんだけれど……。
これからは土いじりの他に運動も取り入れなければ。
今日も今日とて完食してしまったけれど、それはそれ、ということにしておこう。
だって出された食事に罪はないもの。
食後の紅茶を飲みながら今日の段取りをイメージしていると、アルドラさんがこちらに近寄って来た。
彼女から話しかけに来るなんて珍しい。
「ルナ様。あの、本日のことについて昨日フルドから話があったのですが……」
「もしかして、急にお仕事が入っちゃったとかですか……⁉︎」
「いいえ、そうではございません。……ただフルドからは『その時間空けて置いてくれ』とだけしか伺っておらず、詳細をお聞きしたいのですが」
「あー……詳細については私からも伏せさせていただきます。始まってからのお楽しみ、と言うことで」
「はあ」
納得してませんと言いたげな生返事だった。
時間を空けておいてくれはちょっと大雑把だったかもしれないけれど、どうしても説明しないであの庭園にアルドラさんを連れていきたいのだ。
フルドさんとの作戦会議でもそう決まったので、私もフルドさんも怪しい感じになってしまっているのはしょうがない。
怪訝そうにするアルドラさんに王女スマイルを振り撒き、場を後にした。
◇
朝食後、一度部屋に戻ったように見せかけて食堂へと舞い戻る。
お茶会の準備についてはアルドラさんにバレないかだけが心配だったのだけれど、フルドさん曰く彼女は午前中、図書室の掃除をすると言っていたとのことだった。
このお屋敷、図書室なんてあったんだ。
本の虫的にはもっと早く知りたかったなぁ。
……まだ見ぬ本へ思いを馳せてしまった、いけない。
とにかく今はお茶会(もどき)を成功させないと!
食堂からキッチンへ入り込むと、すでにフルドさんがせっせと準備してくれていた。
「準備、ありがとうございます」
「ルナ様! とんでもございません。こちらをアルドラに見つからないうちにお運びいたしますので」
「私も運びますよ」
「お手を煩わせるなど!」
「元は私が言い出したことですし。それに手は多い方が良いと思います!」
「……では、お言葉に甘えさせていただきます」
「任せてください! そのために今日は動き易い服なんです」
実用性と可愛さを兼ね備えているこの服は月の王宮にいた頃からのお気に入りだ。
お姉様には「持って行くのならばもっと淑女らしい服の方が良いわ」と言われてしまったのだけれど、やっぱり持ってきておいて良かった。
腕まくりをして庭園に持っていくものをワゴンに乗せながら、アルドラさんだったら魔法でちょちょいと運べるのにな、なんて思ってしまう。
まあ、私は魔法使いじゃないのでそれは叶わない。
では同じ魔法使いのフルドさんだったら出来るのではないかと思って聞いたところ、「私は魔力が弱いので、彼女のようにはできないのですよ」とのことだった。
確かにここに来る際の馬車の中でアセルスさんが個人で能力差があると言っていた。
皆が皆魔法で皿を浮かせたり、自由自在に使いこなしているわけではなさそうだ。
それにしても、お洒落なお皿に乗ったお菓子たちを見ると感慨深くなってしまう。
何度も試作を重ねた末にやっとできたので、我が子のように思えてしまうのも仕方がないというもの。
……まあ、作ったのはフルドさんで私は隣で味見をしていただけだけれど。
甘いものだけだと飽きてしまうからとサンドウィッチも用意しているが、もちろんこれもフルドさんと共に挟む具の吟味を何回もした。
完成したレシピの計算され尽くされた塩気のバランスは言葉では言い表しようがない。
試作時に何度フルドさんを崇めたことか。
舌鼓を打っていた時のことを思い出し、自然と唾液が出てきてしまった。
気を緩めたら無意識に食べてしまいそうでとっても怖い。
私は両頬を軽くたたき、自分に喝を入れるのであった。
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