第11話 なんの妖精?

 シリウス王子の言葉が気になって眠れない……なんてことはなく、ベッドに入った瞬間に寝てしまった。

 自分が存外図太いことを初めて知ったわけだけど、こんな新発見いらなかった。


 でもあの発言に引っかかっているのは本当だ。

 今日は王城の仕事がないと言っていたから、フルドさんに詳しく聞いてみよう。


 ボサボサの髪の毛を綺麗に梳かし、パジャマから私服へと着替えた。



 ◇



「シリウス様がどんなお人か、ですか?」


 フルドさんはシャベルを片手にこてんと首を傾げた。


 少し前に植えた苗木たちは心なしか大きくなっているように見える。

 もし勘違いだったとしても、すくすく育ってくれていると嬉しい。


「はい。お会いしたことがないので……フルドさんはシリウス様の側仕えですし、お話を聞きたいなと思いまして」

「私の話でよければ喜んで。……そうですね。シリウス様は……」


 フルドさんは何故かそこで言葉を区切る。


 シリウス王子に対して何を思っているのかは定かではないけれど、フルドさんは辛そうな表情を浮かべていた。

そこには慈愛の感情や後悔の念が深く入り混じっていて、一言では表せない。

 ただ彼が王子のことを大切に思っていることだけは、はっきりと受け取れた。


「シリウス様は、感受性が豊かで……とてもお優しい方ですよ」

「優しい、方」


 昨日のことを思い出す。

 木の陰に隠れる私に対して王子がかけてくれた声は、フルドさんの言葉通り底抜けに優しかった。


「ルナ様とシリウス様は似ておられますね」 


 フルドさんは寂しそうな顔で微笑んだ。



 ◇



 昨日よりも少し早い時間にこっそり屋敷を抜け出す。

 シリウス王子はすでに来ているようで、昨日と同じ場所でウェンディさんと談笑していた。


「こんばんは」

「あっ、ルル! こんばんは〜!」


 私に気が付いたウェンディさんが文字通りこちらへと飛んで来る。

 それに釣られるように王子もこちらを振り返った。


「こんばんは、ルイーズ」

「こっ……こんばんは、シリウス様」

「『様』なんてつけなくて良いよ」

「いえ、恐れ多いので!」


 ルイーズって誰と一瞬思ったけれど、私が言い出した偽名でした。

 ローブで顔が隠れてなかったら表情で絶対にバレてた、被っていて良かった。


 不自然な挨拶だったと言うのに、二人とも気にしていない。

 私が緊張していたのが伝わったからだろう。

何も言われないのならばそれでよし、だ。


「ルルもこっちに来てお話ししよ〜!」


 ウェンディさんに手を引かれて花壇までやって来る。

 庭が青白い光に包まれていて、なんとも幻想的な光景だった。


「そう言えばさ、ルルはなの?」

「なんの、……?」

「うん。普通だったら他の子の得意な魔法とか、種族とか見ただけでわかるんだけど……ルルはボクたちとちょっと違うって言うか、初めて見たタイプなんだよねぇ」


 もしかして私、妖精だと思われてる……⁉︎

 シリウス様も私が妖精に見えていたから『友達もいるから』と仰っていたのか。

 

魚の小骨が喉から取れたというか、昨日から感じていた違和感の理由がやっとわかった。

 もしかしてお部屋にあったローブ、魔法とかで作られたものなのだろうか。


「ごめんなさい、私にもちょっとわからなくて」

「あ、もしかして記憶喪失とか……?」

「いえ、そんな大層なものでは無いです! なんというか、自分探し中、みたいな?」


 私に属性があったとしてもとかそんなものになってしまいそうだ。

 妖精でも魔法使いでも無いから魔法が使えるわけでも無いし、このまま突き通すしか無い。


「そっかー。ルルもそのタイプかぁー」

「そのタイプ?」

「自分の親和性の高い属性が本当にこれなのか? って思って探求しちゃう型の妖精ってこと!」

「そ、そう言われるとそうかも」

「めっずらしいんだぁ、このタイプ。なんせ、ボクしかいなかったからね!」

「そうなんですね……」


 やばい、話が良くない方にどんどん膨らんでいってしまっている。


 ウェンディさんは上機嫌に「ボクは元々、名前通り『風』属性が一番上手に使えたんだけどね、水も極めたんだ!」と己のこれまでの道のりを語ってくれた。

 意気揚々と話してくれる彼女に対して、実は月の国の王女ルナですなんて言えない。無理です。


 とりあえず(私の顔は見えてないだろうけれど)マナーの先生から教わった必殺の王女スマイルでなんとかこの場を凌ごう。

 ひとしきり語って満足したのか、ウェンディさんが羽根を瞬かせて宙を舞ってみせた。


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