第5話 王子様の住む屋敷
長い廊下を抜けた先、木々に囲まれた道を抜けると一つの洋館があった。
両陛下が住む王城より少し離れたこの場所にシリウス王子が住んでいるらしい。
衝撃の告白の後、混乱したゴメイサ王と私にアルニラム王妃が「とりあえずはシリウスのところにいてもらえばいいんじゃないかしら」と提案したことにより、とりあえずあの場は収まった。
彼女は近くのテーブルに置かれていたハンドベルを鳴らしアセルスさんとは別の使用人を呼び出すと、私をこの場所へ案内するように申し付けたのだ。
齢は六十ぐらいだろうか丁寧に整えられた口髭が特徴的な男性で、王妃の命令に二つ返事をすると私をここへ誘導してくれた。
「申し遅れました。シリウス様の身の回りのお世話をしております、フルドと申します」
「フルドさん、よろしくお願いいたします」
「『さん』など、恐れ多いです。是非とも『フルド』とお呼びくださいませ」
執事然とした態度で彼はそう言うが、呼び捨てるなどそれこそ恐れ多いというもの。
私は首と手をぶんぶん横へ振った。
「そんな、呼び捨てるなど……このままの呼び方でお願いします」
「ルナ様がそう仰るのでしたら、承知いたしました」
王子が住んでいるという屋敷は思ったよりもこじんまりとしていて、豪華さや絢爛さはない。
ただひっそりとそこに佇んでいるためか、物悲しいといった印象を受けた。
フルドさんが両の手で開けた屋敷の扉の先、四十後半ぐらいの女性がお辞儀をして私たちを出迎えてくれた。
「長旅、お疲れ様でございます。私はアルドラ。フルドと共にシリウス様の世話係をさせていただいております」
「出迎えありがとうございます。これからお世話になります」
「では、お部屋にご案内いたします」
きびきびと歩くアルドラさんについていく。
中も外と同様、人の住んでいる感じというものがなく、どこか寂しさを覚えた。
屋敷中央にある階段から二階に上がると彼女は右手側を手で指す。
「あちらの一番最奥がシリウス様のお部屋となっております。近づかれないようにお心がけくださいませ」
それだけ言うと手で指したほうとは逆側の左へ歩みを進めるので、歩くのが早い彼女に置いて行かれないように後を追った。
カツカツと彼女と私の足音だけが廊下に響いている。
この沈黙、すごく苦手だ。
何か話したいのだけれど何を言ったらいいか分からないし、そもそも話しかけていいものだろうか。
どうしようと迷っている間に目的地にたどり着いたらしく、アルドラさんは廊下の中腹付近の部屋の鍵を開け中に入った。
「こちらがルナ様のお部屋になります。一通りは揃えておりますが、何か必要なものがあればお申し付けください」
「ありがとうございます。アルドラさん」
「いえ。それではおやすみなさいませ」
四十五度の綺麗なお辞儀をするとアルドラさんは部屋の扉を閉じた。
シンプルながらも上質な家具が揃えられた部屋を眺める。
「よろしくお願いいたします」
これからここで生活していくのだという再認識もこめて、部屋に向かってペコリとお辞儀をした。
アルドラさんの足音が聞こえなくなった部屋の中、どっと疲労が押し寄せてきた。
急展開が多すぎて脳の処理が追い付いていない。
運んできてもらった荷物はドアのところに置いたまま、ヨロヨロとベッドへ近づき倒れこんだ。
「つ……疲れた……」
仰向けになりながら今日起きたことを反芻してみるも、やっぱり分からないことが多すぎる。
というかここまで勢いで来てしまったけれど、明日から私は何をしたらいいのだろう。
月の国でも読書と勉強しかしていなかった私だというのに、ここで本当に役に立てるのだろうか。
考えていくうちにだんだん眠気が襲ってきて、気が付けばネガティブな思考を手放すように眠りに落ちていた。
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